この世界はゲームじゃないと俺達信じてる
「なんだよ!一体!」
「なんなのよ! なんで?!」
いきなりの奇襲を受け、バッドステータスだけでなくプレイヤーの思考も混乱するゴンザとみなみ。
あんまりナンって聞き過ぎて、コウの頭に浮かぶのはカレーの事ばかりなのだが、これはこれで混乱していると言える。
「何なんッスかねwたぶん金使い荒いの見られてたんッスかねwww」
そんな中、なぜか余裕のイノ。レベルと体力が高い為、HPに余裕がある為だろうか。最大値はコウとはヒト桁違う。
実はこのパーティの中で最もHPが高いのは後衛職の魔法士イノだった。
「死に落ち、試すんだろ? 手伝ってやるからさっさと試せよ」
PK集団の先頭の大鉈を構えた重戦士(会話ログから悶絶丸という名前だとわかった)からの声が聞こえると、再び弓兵達から状態変化付きの矢が飛んできてイノに刺さる。
矢にデロデロになった虹色のご飯粒らしき物が付いている事から、瀕死毒付与のアイテム『幼馴染のお弁当』と【毒矢】スキルを併用した、対人戦の定番である『猛毒コンボ』だろうとわかる。
『毒』という状態異常になると5秒に一度固定ダメージを受けるのだが、『毒』の上位版の『猛毒』になると2秒に一度のダメージになる。
魔法系のスキルは発動前の『詠唱時間』と呼ばれるディレイが長く、詠唱時間中にダメージを受けるとスキルが中断されてしまう。
短時間に継続ダメージを与え続ける『猛毒』は、対人戦においては魔法殺しと呼ばれる定番の戦術なのだ。
同様に、弓兵などの遠距離攻撃職には『盲目』や『めまい』『酩酊』などの命中率を大きく減少させるバッドステータスが、戦士や騎士や力士などの前衛職には『麻痺』を始めとした『氷結』『脱力』や『発情前傾姿勢』などの移動制限のかかるバッドステータスを掛けるのが定石とされている。
本来、これらの状態異常は、それぞれ専用の回復アイテムを使わなければ治らないのだが、課金アイテムの『万能薬』かBOSSレアの『エリクサー』ならば全ての状態異常から回復させる事ができる。
もしもこれらのアイテムを潤沢に使う事が出来るのなら、対人戦で奇襲を受けたとしても容易に建て直す事が出来る。
現在のコウの所有するエリクサーは498個。
装備重量の重いみなみは重量制限を気にして200個しか持っていないし、筋力の低さから少なめにしか消耗品を持てないイノなどはあと97個しか持っていない。
充分だった。
一撃死さえしなければ、エリクサーの大量消費が出来る分、充分勝ち目はある。
そう考えたコウが反撃の為の『屠竜』を【剣投げ】の為に構えようとすると、再びイノが手で制する。
何か作戦があるのかと顔を向けてみると、余裕の笑みを浮かべてゆっくりと頷くと、イノはこう叫んだ。
「降参しますっ! 金目のモノ渡すから命だけは助けて下さい!」
両手を高々と掲げ、堂々と。
「装備品はほとんどプレイヤー鍛冶の製造品で、レアもあります。あと『金の延べ棒』あるんでこれでデスペナ回避させて下さい。食べ物と包帯も出しますんで!」
このゲームでの死亡のデメリットは二つある。
一つのデメリットはドロップと呼ばれる「所持品を落とす」という恐ろしい仕様で、リアルマネーを投じて手に入れた装備だろうと、ボスから千分の一の確率で入手した激レア品だろうと、ゲーム内で結婚した証の指輪だろうと、ランダムに落としてしまう。
雑魚モンスターとの戦いで死んだのならば、急いで拾いに行けば回収できる事もあるし、パーティを組んでいたのならば全滅しない限りは拾って置いて貰えるが……
信頼を問われると言うか、トラブルの多い仕様であり評判の悪い仕様の一つである。
さらに、他プレイヤーからの攻撃をうけて奪われた場合、それらが取り戻せる可能性は殺して奪い返す以外に無い。
もう一つはデスペナルティ、通称デスペナと呼ばれる「経験値の減少」であり、レベルが高いほど大きく減る。普通のMMOでは経験値は0以下にならないのでレベルアップ直後ならばデスペナの被害は少ないのだが、クソゲオンラインではそんなことは無い。マイナスになるとレベルが下がるという鬼畜仕様は非常に評判が悪い仕様の一つだ。
よって、PKの襲撃を受けて勝てないと判断した場合は、所持金やアイテムを差し出して見逃して貰うというのは合理的な判断に思えたりもする。
PK側にとっても、狩場の独占や人間狩りの楽しさ以外のメリットは大きい。
死亡時に落とすアイテムはランダムなので、大抵はクズアイテムか回復アイテムになる。
金目のアイテムを落とす事は少ない事はわかっているので、WIN-WINの取引と言えなくもない。
プライドがそれを許すならば。
本来は、たかがゲームなのだ。
襲撃者に頭を下げてまで経験値やアイテムを守るプレイヤーは実際あまりいない。
経験値はまた稼げばいいのだし、せめて一矢報いようとするのが多数派だ。
だいたい金目の物を提供して見逃して貰った直後に殺されて、アイテムも金も経験値も失う可能性だってあるのだし、襲撃者側にそこまでして守りたい装備品をドロップさせたいと思われてしまえば、却って目を付けられる事になりかねない。
つまりイノが自信満々に取った行動は本来なら悪手でしかないのだが、現状に限っては大きなメリットがある。
ログアウト不可という現状での「死に戻り」を全力で避けるという、その一点だけを考えるならば最善手だった。
イノの珍しく賢明な判断を見て冷静さを取り戻したコウとみなみは、その目的を理解した。
しかし、そんな駆け引きが関係ない仲間が一人いる。
フェイである。
推敲ばっかりしてるといつまでたっても投稿できないので気楽にドンドン行く事にしました。
誤字脱字とかありましたら教えて下さると嬉しいです。
今回のクソゲポイント:「デスペナが鬼畜」「レア装備でも落とす」