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GM転生クソゲオンライン  作者: 地空乃いいちこ
オータムリーフ
20/29

OFFLINE

スキル【さじを投げる】

効果:その場で即ログアウトする。


「それ、酷くないでッスか?mobモンスターに囲まれたらログアウトして逃げられるっていうスキル?」

「うーん、PK(PC殺し)とかルーター(ドロップアイテム盗み)とかの犯罪系プレイヤーで使われたらやりたい放題になるな。まぁ、ログアウトした場所を突きとめて落とし穴掘るっていう対策が無いでもないけど」

「そう言う事じゃないでしょ!いま大事なのは…」


 ついついスキルの使い方についての蘊蓄を語りだすみなみ達を遮って、ゴンザがコウの両肩を掴んだ。


「ログアウト、できるんですね」


 キラキラと輝くつぶらな瞳が軽く潤んでいる。


「スキルの説明では、そう書いてあります」


 しかし見つめられるコウはたまったものではない。そのまま赤きサイクロンと化してクルクル回るパイルドライバーに吸い込まれそうな姿勢が怖いので、コウは必死で身を離そうとする。

 いや、純粋に筋肉と胸毛も怖い。

 せっかく鎧作ったのに装備して無いゴンザさんの趣味(こだわり)も怖い。


「普通に考えたらクソスキルなんッスけど、今の状況だと、うん、脱出出来るって事になるのかな?」

「んー、そうなのかも?」


 イノとみなみはゴンザとは正反対に、なぜか煮え切らない態度。


 どうやら、この【さじを投げる】というスキルは街の中などの安全な……実際にはとても安全とは言いがたいのだが、安全と言う設定の『結界石(決壊石とか呼ばれるが)』に守られたエリアでのみ行える「瞬時ログアウト」を街の外でもつかえるスキルなのだろう。


 一般的なMMOの中には、敵の大群などのキケンな状態からログアウトして逃げるという手段を使わせないために、戦闘可能エリアでのログアウトは一定時間無防備になるというペナルティを受ける事がある。

 このゲートワールドオンラインでもその仕組みは採用されており、ログアウトを宣言してから30秒のカウントダウンを経てから実際の回線切断が行われている。これは回線の不調やヘッドギアの電源を強制的に落とした場合でも同じで、プレイヤーの操作が行えない状態になっていてもキャラクターは30秒無防備になる。

 だがこのスキルは、本来ならばシステム的な禁止アクションである「一瞬で落ちる」という事ができる、なんともやる気の無いスキルだ。


 『一瞬で』という所に価値があるはずのスキルだが、今のログアウト不可の状態では『ログアウトできる』と言う事自体に大きな価値がある。ぜひ試して見たい。


「イノ、みなみさん、このスキルって使うとログイン画面に戻るのかな。それともアプリケーションが落ちるのかな」


 ただ、一つだけ不安があるコウは、即使って見ると言う訳にもいかず、熟練プレイヤー二人に聞いてみる事にした。


「使った事無いから知らないッス。でも普通に考えたら通常のログアウトと同じで、ログインサーバのキャラクター選択画面に戻るだけッスよね?」

「普通に考えたら、ね?」

「でも、このゲームッスからね」

「うん、このゲームだからね。さじ投げたらアプリが落ちるとか、ヘッドギアごと電源落ちるとかしても納得する」


 キャラクター選択画面に戻るだけなら、それは普通にログアウトするのと同じだ。今の状況がログインサーバのトラブルによる影響ならば、おそらくスキルを使っても何も起きないか、もしくは死亡時と同じ扱いになる。それがログアウトできると言う事なのか、接続中画面のまま固まり続ける事になるのかはわからない。

 ただ、アプリがいきなり落ちるとか、ハードの電源ごと落ちるとかいう、ログインサーバを経由せずにオフライン状態になるような異常な終わり方をしてくれるならば、完璧な脱出スキルになる。

 そしてこのゲームは普通のゲームでは無い。史上まれにみるクソゲーだという点、そこだけは信頼できた。


「どうしよう。使って見る?」


 皆に意見を求めてみるも、見事な位に意見が割れた。


「もちろん!お願いします!」


 これはゴンザさん。


「どっちでもいいッス」


 という意見なのはイノ。理由を聞いてみると、リスクを負うのが俺だから俺が決めるべきっていう事らしい。


「俺としては他にも色々試したい事もあるから使わないで欲しいんだけど、強制できる事じゃないし、任せる。だけど、もし俺がそのスキルを手に入れるだけのスキルポイントが余っていても、俺なら使わない。死に戻りと同じ状況になると思う。」


 任せると言いながらも引き留めたい様子のみなみさん。

 ゴンザさんはイノとみなみの返答が予想外だったらしく、聞いて驚いた様子だ。


「どうして喜ばないんですか?ログアウトスキルですよ!」

「……出来ないかもしれないだろ」

「出来るかもしれないじゃないですか!」


 試していないスキルなのだから、可能性の話をしても仕方が無い。どっちにしろ賭けなのだから。

 試す事のリスクは高いが、放っておけばリアルの肉体が餓死するという状況になりかねない。引きこもって救助待ちよりは積極的な脱出法なのだ、試さない理由は無いはず。

 それなのにみなみは煮え切らない態度で言葉を濁すばかり。


「みなみさん、なんかこのスキルが出てから何か態度が変ですよ。言いたい事とかあるんなら言って下さいよ。仲間じゃないですか、一応」


 一応とかつけてしまう所が光司のコミュニケーションの弱い所だが、突っ込む者もいない。静まり返る街の中に、フェイが意味も無くアリ地獄を掘り返す音だけが響く。


 しばらく無言が続き、フェイが接着剤を流し込み始めた時、ようやくログアウトを目的としていたゴンザさんに言う事が出来なかった気持ちを、みなみがうちあけた。


「あのさ。正直に言うよ?実を言うとさ……俺ログアウトしたくないんだ」


 イノも同意見らしく、小さくうなづいている。


「ぶっちゃけ、ログアウトした所でリアル側の世界で夢とかあるわけでもないし、やりたい事も出来る事もないし。ゲームしながら死ねたらそれはそれで本望だって思ってる」


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