地下な青年の似非回転重機
レベルやゲームにつぎ込む時間が圧倒的に高い人を「HIGH」と「廃」を掛けて「廃人」と呼ぶネットスラングがある。
ゲームにのめり込み過ぎている人への蔑称の意味を含む事も多いのだが、突き抜けた人たちの一部には、誇らしげに自ら廃人を名乗ってしまう困った人もいる。そんな中、現実世界を捨て最小限の睡眠以外全てをゲームにつぎ込む真の廃人の中の廃人。それが自他の呼称が一致する呼び名「廃神」だ。
そして、ギルド(兼、クランやらレギオンやら)の構成メンバー12人全てが一日の半分以上をログインしているという廃神集団。それがみなみの別アカウントキャラがギルドマスターをつとめる『廃神同盟』というギルドだった。
「えっと。まとめると、川に敵がスタックしてて、普通に通れません。だよね?」
「うん」
「だから地下に穴掘って直通トンネル作ります、って事?」
「そうそう」
「その為に複数のギルドがここに定住?」
「イグザクトリィ!」
「何その暇人」
「いうなら暇神と言ってくれ。穴掘りだけで、もう半年になるんだ」
誇らしげに胸を張るみなみ。うわぁ…と半歩引く一同。
「FOIシステムですよね?」
「ああ、なんでも壊せるってのがこのクソゲの売りだ。もちろん地面にも穴はあけられる。つまり掘れる。」
「FOIシステムでなんでも壊せるフォイ?」
イラッとする事で有名な公式キャラクター『FOIたん』の真似をするイノを無視して、みなみが続ける。
「そう、それなんだけど、川の下はかなり硬い岩でな。上に抜けちゃうとまずいから魔法攻撃とかは避けてるし、なかなか進まないんだ。耐久力半端無くって」
「で、屠竜で掘ろうって言うんですか?斬り武器ではあんまりオブジェクト破壊に効果ないんじゃないでしたっけ?」
コウのつっこみにみなみは首を振り、ビシリとゴンザを指さした。
「いーや、それじゃない。コウのGMチートじゃなくて、ゴンザさんへの頼みなんだ。今だけじゃなくてログアウト後に使えないと意味が無いからさ。」
みなみによると、昔にイベントで出てきたGMへの質問大会で、【ドリル】というスキルがある事を聞いた事があるらしい。そのスキルの出現条件を見つけられれば、穴掘りも楽になるはず、と言うのがみなみの主張だった。ドリルは男の浪漫なので、戦闘用の魔法である可能性はとても高いのだが、穴掘りにも使えるだろう。
それを聞いて、コウもようやく納得する。
「トンネル開通の為に、穴掘りに便利なスキルを発見して、後で特化キャラを大量に育てたいってわけですね。なるほど、それでみなみさんは『初心者育成用』のキャラクタービルドなわけですか」
「ああ。【バズソー】っていう木こり系から派生する回転のこぎり召喚のスキルは判明しているからさ、採掘系スキルからの派生で【ドリル】に必要な前提の予想は立ってるんだ。
でもいくら育成支援が出来てもさ、お金と武器がここまで自由じゃなかったから。だから今の、コウの能力が使えるうちに、スキルツリーを暴いておきたいんだ。」
そういえば「始まりの村」でも、ゴンザさんとみなみは一緒に行動していたみたいだったけど、その勧誘だったのかなと思い返す。
「ほら、それにお金が無限の今なら、アレが使い放題だろ」
「アレってなんッスか?」
イノはわからない(もしくは考えていない)ようだが、コウはピンと来た。経験値稼ぎをしたくて、お金が無限にあるのだ。当然アレを買うしかない。
このゲームには、リアルマネーをつぎ込んで購入する課金アイテムがたくさん存在している。基本プレイ無料のこのクソゲーは、ゲーム進行が有利になるアイテムを販売する形で課金している。
『ガチャ』と呼ばれるランダムでアイテムが手に入る籤は、その中でも天井知らずに現金を吸い上げる悪魔のアイテムだ。
低確率で、ガチャでしか手に入らないアイテムや衣装などがある為、一部の課金ユーザーが際限なくリアルマネーをつぎ込んでいる。
それらのアイテムの中で「はずれ」とも言われるアイテム群に「経験値効率UPポーション」「デスペナルティ無しのお守り」などと言うパワーレベリング必携のアイテム群があり、これらのアイテムは、ゲーム内通貨でそれなりの高値で流通している。
ちなみに他のはずれガチャには「スキル熟練度上昇率UPポーション」や「どこでも倉庫」などがあり、金さえあれば効率は何倍も変わってくる。
「早速買いましょう。端っこの方で売ってる人がいました」
自分で決めたルールを即破る事に少々気が引けたがコウだったが、販売代行NPC相手に自重しないお金の使い方を敢行する。
おそらく冗談で置かれたのであろう、10,000,000,000マネーの商品である『経験値効率UPポーション(金)』を購入。
ガチャで良く出る『経験値効率UPポーション』には『(銅)』という名前が付いていて、その効果は「一時間の間取得経験値を二倍にする」という物だった。銀なら五枚……いや五倍。そして金はめったに出ないスーパーレアであり、その効果は「一時間の間取得経験値を十倍にする」という効果になっている。普通はゲーム外のオークション等で売買されている品物だった。
クリエイトコマンドで増やして、全員に配る。
「二個飲んだwww」
「飲むな、とっといてくれ」
効果の持続時間は一時間だが、その時間は累積しない。上書きだ。それをわかっていながら無駄な行動を取るイノにキツ目の蹴りを入れて街を出る。
街に入る時に突破したオーグルの群れがまだいたので、イノが【範囲魔法】でタゲを取りつつ炎上させる。【下位の単体魔法】や【上位の単体魔法】で一体ずつおびき寄せられればいいのだが、失敗してオーグルの索敵範囲にイノが入ってしまった場合は無傷のオーグルが山ほどやってくる事になる。
【範囲魔法】で一撃入れておけば倒しやすいし、何よりイノの生み出すダメージの真骨頂は【範囲魔法】による魔法ダメージではなく『炎上』というステータスによる継続ダメージだ。炎上中は継続的にダメージがはいる上、移動以外の行動が取れなくなる。
『孔明の冠』の効果により通常の10%から30%まで炎上発生率が上がっている為、10体の内の3体は逃げ回っているだけで無力化できる事になる。これは大きい。
「行くッスよ~」
気の抜ける掛け声とともに、オーグルの群れの中で魔法が炸裂し、一斉にオーグル達がイノを追う。
目の前に居るコウ、みなみやゴンザを無視してただイノを追う姿は、NPC達の人間臭さとは正反対な馬鹿みたいに機械的だ。
このイノしか目に入らなくなったモブモンスターを、先ほどと同じコンビで同時攻撃を行い倒していく。ただし今度は、ゴンザとコウが止めを刺せるように攻撃順を調整する。というのもパーティ内でのレベル差が大きすぎて、経験値の平均分散設定が行えない為だ。最大レベルのイノと最低レベルのコウの間は40近く離れている。この差が10以内になるまでは、止めを刺した人が経験値を総取りする設定になる。
またたく間に二重三重にファンファーレの音が被り続け、花火は上がりクラッカーが鳴り響き画面内をcongratulation!の飾り文字が埋め尽くす。
「みなみさん、少し攻撃待って下さい!前が見えません!」
「頼む!フェイストップ!攻撃ヤメ!」
このクソゲーの評判の悪い所の一つは見難いエフェクト、OKかキャンセルを押すまで視界を塞ぐウインドウ、音量のおかしい効果音だ。全然一つじゃ無かった。
モブモンスターを引き連れた電車ごっこ状態になったイノが必死で逃げながらUターンして帰ってくる。オーグルはサイズで言えば中型モンスターに分類されるが、人型のモンスターは身体のつくりが人間と同じ分、少し自分より大きいだけで威圧感を感じる。身長2m越えの乱杭歯の巨漢の群れに追われるイノの表情は珍しく真剣だ。
「頼んだ!倒せなくてもせめてタゲとって!」
顔を真っ青にしてみなみの背中にイノが隠れる。ゆっくり頷いたみなみが剣を突き出し、半キャラずらしの構えで迎え撃つ。頼もしい姿にも見えるが、コウやゴンザと違ってレベルアップのエフェクトで視界妨害されていなかったのだから、フェイと組んで一体でも倒して置く事もできたはずだが、手を出さないでいたのは冷静だからなのかヘタレだからなのか。たぶん後者。
イノに向かって殺到するオーグルを的確にヒット。オーグルのターゲットが変わって攻撃を行う前に今度はゴンザの振り回す屠竜がヒットし、オーグルはポリゴンを撒き散らして爆散する。
その様子を横目に見ながら、コウはフェイの攻撃した対象にトドメを刺して、二刀流スキルを取る事を決める。攻撃力の高い武器がある以上、手数を増やすのは武器になる。フェイと自分の二刀で合計三回攻撃できればオーグルを単独撃破もできそうだ。ハブられても生きていけるかもしれない。
イノもみなみも、生き残るという目的以外にスキル検証をやりたがっている。金の延べ棒の大量クリエイトで所持金をカンストさせてしまった以上、転職のできないGM職のコウは用無しなのだ。ぼっち歴が長いプロのお独り様である光司は、理由が無ければ仲良くはして貰えないと思っているのだ。
「一通り片付きましたね。一旦戻りますか?」
「他の敵捜すのも大変だろうし、スキル取りに行きましょう。レベルいくつになりました?」
「19です」
「うお?!抜かれた……!」
どうやら一気にあげたレベルはみなみに並んでしまったらしい。
「じゃ、みなみさんと3人だけなら経験値取得公平設定できるッスね。3人でレベル30まで上げてくれたら俺と組んで焼き畑稼ぎやりまショ」
「焼き畑ってどうやるんですか?」
「分裂とかする増える雑魚をフィールドごと炎上させて、格下を大量に狩るんッスよ。コウさんも同じ位まで上がってるんッスよね?」
「あ、うん」
「よし、スキル取りに行こう。今のスキルポイントで足りなかったらログアウト後にまた頼みます。イノと公平組めるようになるまで上げてあげるからw」
「何百時間かかるんですかw」
どうやらこのまま組んでいられるらしいと知って、少し嬉しい光司だった。
忘れられた頃に投稿。エタらないエタらない。