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GM転生クソゲオンライン  作者: 地空乃いいちこ
オータムリーフ
15/29

作り尽くせ、作れるもの全てを

<create: 生成するアイテムの番号と名称を入力して下さい>

<M00039 鉄鉱石>


 地面に描かれた光の輪の中にゴツゴツした石があらわれる。10回繰り返せば、あっという間に転職クエストに必要なアイテムが揃う。


 ゴンザは、コウに作らせた10個の鉄鉱石を拾うと、さっそくオータムリーフの街中にある職業神殿(ハロワ)に行き、鍛冶屋への転職を果たした。この街限定の職業でメイドにも転職できるのだが、マッチョボディにメイド服の心躍るコンボはグッと我慢して、当初の予定通りに鍛冶屋になる。

 鍛冶屋に転職する為の条件は、


 1:NPC鍛冶屋から転職方法を聞く

 2:酒場で鉄鉱石の採取クエストを受ける

 3:自力で採取 or 購入するなどして鉄鉱石を集める

 4:スキル神官に鉄鉱石を持って行き、クエスト達成する


 という流れなのだが、実は1と2はショートカットすることもできる。ようは必要アイテムさえ持っていけばいいだけなのだ。

 イノにスキル代金分のお金を借りて、その場で【掘削】【鉱石採掘】【防具知識】【金属精錬】【武具製造】【防具製造】のスキルを取ると、ゴンザはおもむろに宣言した。


「では、作りましょうか。作れる限りの最高ランクの防具、全員分を!」



 3時間ほどの休憩が終わった時、普通に目が覚めてしまったゴンザは目に見えて落ち込んでいた。ログアウト不可がわかってから、6時間ほど経っている。そろそろ深夜になろうという時間で、出張に行っている愛する旦那様(マッチョ)から電話やメールもあっただろうに、取る事が出来なかった。

 ゴンザ(の中の人)は心配をかけてしまったかもしれない事で落ち込んでいるのだ。


 旦那がいかに素敵な筋肉かを語り始めるゴンザを黙らせる為に、コウ達三人はなんとかしてゲーム内での楽しさに目を向けさせなければならないと感じたのだ。頬を染めて胸板の厚さをうっとりと語るゴンザの姿は精神的なダメージを伴う。

 ゴンザが楽しみにしていたのは当然、「鍛冶」だった。それにこの街に来た目的でもある。

 始まりの村を出た時点でゴンザのレベルは3。オータムリーフに入る直前のオーグルで4つあがってレベル7になっている。7つまでスキルを持つ事ができるのだが、後一つは埋めないでおく。

 職業が『鍛冶屋』になったゴンザは、職業ボーナスとして『製作スキル成功率+10%』と『筋力+10』の恩恵を受けている。

 死なない事を最優先に考えて動くなら、ステータスは体力に回して、スキルも【HPXX%上昇】などを取れば良いのだが、質の良い防具を製作する為には運も高くしたいし、モンスターから身を守る為にはせん滅する為の筋力も欲しい。

 まず、手に入る装備品を確認してから、弱点をカバーする方向にスキルとステータスを振ろうという事を皆で相談して決めたので、HP上昇系の第一歩である【HP5%上昇】にするか、一時的に筋力をあげる【筋力増大】をあげるか、それとも単体攻撃スキルの【二連撃】あたりを取っておくかは後回しにする。どうせレベルをあげたら全部欲しいスキルなのだが、序盤のスキルの取り方は死活問題になる可能性もあるので慎重になる。

 同じ理由でコウもまだレベル6になったばかりのステータスポイントを振っていないし、スキルも取っていない。


 再びコウが増やした鉄鉱石を手に取り、鍛冶屋の炉の前で仁王立ちになると、装備を『屠竜』から『ごついハンマー』に持ち替えて【金属精錬】スキルを使用する。

 地面が揺れるほどの勢いで金床の上の鉄鉱石に叩きつけると、一瞬遅れて過剰に豪華なエフェクトが光り輝き、ハンマーの一撃で『鉄鉱石』が『鉄のインゴット』になっていた。


「一回叩いて延べ棒になるとか、凄いッスよね」

「それを言ったら、現実の鍛冶なんて凄い時間かかるだろうけど、スキルで鎧とか作るのは5秒だよ」


 完全に見物モードで駄弁っているイノとみなみ。

 コウは出来上がった『鉄のインゴット』を受け取ると、怒涛の大量デュープを開始。またたく間に床一面にインゴットがクリエイトされる。フェイがそれを拾って、『鉄のインゴット 20』にスタックさせてゴンザに渡していく。フェイの筋力で一度に持てる限界の量だ。


「二人とも、暇だったら販売代行NPCとかの売ってる商品から、素材になりそうな金属見付けてきて下さい。少し時間かかりますから」

「あと高く売れるモノもお願いしますねー」


 クエストに使った余りがあるし、基本的な装備品のほとんどが鉄製なので鉄のインゴットを増やしているが、ゲートワールドでは他にも多くの種類の金属を扱う事ができる。

 一般的な装備品に使われる『鉄』に、加工が容易で低レベルでも失敗しにくい『青銅』、一部の敵に追加ダメージを与える『銀』、武器防具には向かないがアクセサリーなどに使用できる『金』などの通常の金属の他にも、酸で耐久力が減らない『ステンレス』をはじめとして、軽くて丈夫な『ジュラルミン』などの合金もなぜかそのままの形で鉱山から採掘される。

 また、数々の物語やゲームでも有名な、希少だが軽くて強くて美しい万能金属『ミスリル』もあるし、重くて硬い『アダマンタイト』に、心に応じて形を変えると言う伝説を持つ『セレーン』などの架空の金属も数多く登場している。

 さらに、【金属精錬】スキルでは扱う事が出来ないが、竜の鱗や牙などのモンスターの身体の一部を使った素材や、ダイヤモンドや水晶などの貴金属に類するものを扱うスキルもある。


 鍛冶屋が武具や防具を製作する際には、まずスキルを起動し、片手剣や鎧、小手などの大まかな形を決めた後に、『製造ウィンドウ』にこれらの素材を自分で選んで乗せ無ければいけないのだ。

 『片手剣』を鉄のインゴット3個で作っても5個で作っても、同じ『ロングソード』が出来上がるだけで性能に違いは無い。2個だと必ず失敗するが「材料が足りない」というメッセージは出ないし、6個使えばブロードソードになってしまう。

 ただの鉄製のロングソードですらこの不親切さなのだ。希少金属を大量に使った武器や防具のレシピを探す中で、何人の鍛冶屋プレイヤーの心が折れた事か。

【武具製造】と【防具製造】のスキルは、作りたい製品を選択すれば自動的に素材が消費されると言う設計ではない。全て手作業でレシピを探さなければならないのだ。


 しかし、今は違う。アイテム無限増殖の恩恵がある以上、『鉄のインゴット』を100個使って片手剣を作ってただのブロードソード一本になっても全然惜しくない。

 ここで最小の個数で作れる強力な防具のレシピを見つけて置けば、後日ログアウトできた時に別のアカウントでやり直す際には有力な情報になる。

 ゴンザは、ログアウトできないのならばチートが使える間にできる限りのお土産(情報)を持ちかえろうというつもりなのだ。


「ゴンザさん、アレ試してみませんか。『ダマスカス』の噂。『クズ鉄』を含む複数の金属で作った時に一定確率でできるっていう」

「いいですね、ぜひ正確な数を暴きたいです。でもまだ『ラージシールド』ですら3回に1回失敗するから、回数重ねてスキルレベルあがったらにしましょう」

「高価な素材使った方が製作系スキルが上がり易いっていう噂も聞いた事ありますけど、それはどうなんでしょうね?」

「無いと思いますよ~?レア素材はスキルレベル上げるのに使うには希少すぎますし。でもイノさん達が戻ってきたら自然にわかりますよ。あ、鍛冶2レベルになりました」


 ちなみに、スキルを覚えるには一定額の金額とクエストなどの条件があるが、一度覚えたスキルは純粋に使用回数のみでレベルが上がって行くという熟練度制になっている。これも生産職の心が折れる原因になっている。


 会話をしながらも二人の手は止まらず、増え続ける『鉄のインゴット』は次々と鉄製の武器防具に代わって行く。

 ロングソード、ブロードソード、グレートソードにバーバリアンソード。この辺は片手剣と両手剣が使う金属の量で変わる。

 シミター、カットラス、シャムシール。曲刀カテゴリーの武器は量を変えてもこれしか出てこない。カタナは鉄だけではダメなのだろうか。

 プレートメイルとブレストプレートが量だけで変わるのも納得がいかないが、鈍器カテゴリーのハンマーで使用する金属の量を増やしたら16tハンマーができるのも納得がいかない。大金槌から一個しか違わないのに完成品の重さは天と地の違いになる。


 次々と現在作れる装備の必要最低数を見切って行き、斧の使用インゴットを極端に増やしたら『ギロチン』ができる事を見つけたあたりで、イノとみなみが戻ってきた。


「砂金いっぱい見付けた。これで金作れるかな?ってうおー!」

「銀の延べ棒売ってる人居たッス!お金足りなくて買えなかったから、金できたら増やして……スッゲー量!」


 戻ってきた二人は、床に大量に積み上げられている装備品を見て歓声を上げる。使用した鉄のインゴットは3000個を超える。


「これ売るだけでも結構な金になるな」

「俺の『紋章の盾』はこの『ヒーターシールド』に変えた方がいいな、一個貰います」

「装備換えるのは後にしましょう!もっと良い物作れますよ!あと、思ったより成功率低くないです!運にステータス振るの辞めましょう!」

「いや、3回に1回失敗したら充分多いですよ。素材が無限だから気にならないだけで」


 落ち込んでいた気分はどこへやら。いつの間にかログアウトできない事も忘れてクソゲ監禁生活を楽しんでいるゴンザだった。





「いや、こうなると、希少金属手に入るクエストとかやりたくなりますね」


 右手に『屠竜』、左手に『ラウンドシールド』を持ち、『シルバー・ガントレット』『ブレストプレート』『グリーブ』『ヘルム』に身を包んだコウが欲を出す。防具がばらついているのは、重量制限対策の為だ。コウは【ポーション投げ】を覚える予定なので、皆よりも多くのエリクサーを持ち歩きたい。銀製品はやや重いのだ。

 そして装備品の後にゴンザが作りだした「それ」を、試しにフェイにひとつあげてみる。


「『わーい、ありがとう!』いや、光り物とかは友好度上がるって言いましたけど。これ程高価な物貰っても一度に上がるのは10ですからね?」


 いくら光り物とは言え、あまりこう言う物を直接貰って喜ぶ女の子というのはいないのか、フェイも困り気味の様子でその塊を持て余している。


「ミスリル鉱山に巣食ったモンスター退治のクエストがあったはず。これ(・・)売ってイロイロ買ったら行ってみようか?」


 全身鎧の『シルバー・フルプレート』に『シルバー・クロスシールド』『シルバー・サレット』と全身銀装備に換装したみなみは、これで純粋な防御力ならイノよりも硬くなった。だが筋力は低いので所持品限界は高くない。コウが調子に乗って大量に増やしすぎた『金の延べ棒』の積み上がる様を眺めながらどうやって売りに行こうかと思案する。


「ミスリルがあれば、俺の防具も充実するッスよ」


 『銀の腕輪』以外には装備できるものが無かったイノが少しふてくされ気味に言うが、やはり『金の延べ棒』の山のおかげか機嫌がいい。なにしろ、ひとつをNPCに売るだけで10万マネーになる。エリクサーに引き続き、夢の「お金も無限」状態が今保証されたのだ。


「いやー、作りすぎましたね!これ、そこにいる鍛冶屋のオジサマが買取りもしてくれたら楽だったんですけど」


 満足げな笑顔で『16tハンマー』をアイテムボックスにしまいながら、ゴンザがやり遂げた感満載の伸びをして肩をゴキゴキ鳴らしている。鍛冶屋は全身鎧が装備できないので、『ガントレット』と『トゲトゲ肩パット』『グリーブ』のみを身につけている。


 その言葉でみなみとコウが顔を見合わせる。アイテムの買取りは「商人」と付いている職業ならしてくれるはず。確かそんな機能がGM機能に無かっただろうか。

……もしかしたら、持ちきれないほどの金の延べ棒がピストン輸送せずにここで売れる。


 クリエイトとジェネレイト以外のGM機能はまだ試していないので、どうなるかわからないのは怖いのだが、この機能には危険はなさそうに思える。念の為に皆で相談して、実験を兼ねて使ってみる事にする。『NPC役職変更』とか言う機能を。


<Job change:変更するNPCをカーソルで選択して下さい>


 入力式だったり選択式だったり、GM側すらバラバラな事に、このゲームのアップデートが本当にツギハギである事を実感してげんなりしつつ、カーソルでNPC鍛冶屋を選択する。続いて現れたプルダウン式に現れた職業欄を眺めて、『武器商人』を選択する。


 シュワァ!


 既に見飽きたお馴染みの光の輪ではなく、足元から立ち上る無数の光の粒子に包まれて、ナイスミドルな鍛冶屋のおっさんが武器屋に勝手に転職させられる。一瞬だけ服が消えてシルエットだけになるのは魔法少女的な変身を意識しているのかなんなのか。

 誰得なごついボディラインを見せて変身、もとい強制転職させられた元・鍛冶屋の武器屋に、おそるおそる声をかけてみる。


「うちは先祖代々の歴史ある武器屋だよ。さぁ、見てってくれ!……商品ないけどな」


 最後のボソリとつぶやいた言葉は、アンディと同じようなセリフ外の呟きか。


「なぁ、このNPCの転職もなんか使い道いろいろありそうだな……」


 さっそくみなみが悪巧みを始める中、さっそくゴンザが積み上げた金の延べ棒を換金していく。



 数分後、とりあえず所持金は11桁でカンストする事がわかった。


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