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GM転生クソゲオンライン  作者: 地空乃いいちこ
アップフィールド

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11/29

懐いて

 クリエイトでアイテムを生成した時と同じように、光の輪があらわれると……

中から現れたのは、ごく普通の人間の女の子だった。

ランダムという表示を見て、一瞬不味かったかと思ったのだが、運が良かったのか敵対的なキャラクターではなくふつうの村人だったようで、コウはほっと胸をなでおろす。


『村人:フェイ』


 視線を合わせるとそう表示される。

同時にその子と目があうのだが、明らかに睨まれている。それも相当な眼力で。

NPCのほとんどが着ているのと同じ『ふつうの服』という名前の貫頭衣を身に付け、長い黒髪を雑に後ろに流しており、身長は平均的な身長を設定しているコウの肩よりも低い程度。

そんな子供からの、思わず怯えてしまうほどの眼力にゾクリとM心を刺激されるコウだが、残念な事に視線はコウを睨んだあと、すーっと『†胃の上食堂†』一同をサーチしていき、イノに眼を止める。


「ママの仇!」


 そう叫ぶと、村人フェイはテコテコとイノの前まで歩いて行って殴り始める。全然敵対的じゃ無く無い。

コウはそのステータスを確認すると、普通でも無かった事と、確かに仇である事とに気が付いてイノに声をかける。


「イノ!パン持ってるよね?一個頂戴」

「え、なんで?」


 ボディを割りと良い角度でえぐり込むように殴られながら、困惑したように間抜けな声をあげるイノ。


コウはイノに取引ウインドウを出して受け取ると、『焼き立てパン』を村人フェイにドラッグして使う。


「わーい、ありがとう!」


 ピロンと全身が光って敵対行為を止めるフェイ。

そのまま、いつまで経っても焼き立てなパンを取り出して、もふもふと食べ始める。


「なんなんだ、いったい。なんで俺殴られた?」

「NPCプロフィール見てみ」


 コウがそう告げると、みなみやゴンザも続いてプロフィールを確認する。


名前:フェイ

性別:女

種族:人間・変異種

役職:村人

設定:始まりの村の案内人アンディと、その妻ベスの娘


「うあ、こいつも変異種か!」

「人間で変異種!そういうのもあるのか!」

「まった、二人とも驚くとこ違う。案内人の妻の娘っていう設定だから『ママの仇』なんじゃないの?って事なんだけど。イノ、パンをドロップするから村人狩りしてたよね?」


 なるほど、と膝を打つイノ。

発生したばかりのキャラクターが敵対値(ヘイト)を持っている事にゴンザが疑問を持つが、アンディ・ベス・娘のフェイの家族がパーティという扱いならば、納得はいかないが説明は付くとみなみが考察する。


「これ、この子は狙って呼び出したの?」

「いや、ランダム。たぶん詳細設定もできそうなんだけど、コマンドわからない…」

「じゃあ、もしかしたらもっと強いヤツが敵対状態で出る可能性もあるのかな?」


 ランダムと言う事は、下手をすれば族長ゴブリン以上の敵が湧いた可能性もある。

ジェネレイトはレベルをあげて、準備を整えた状態でないと使うのは怖いという理由で、満場一致で封印が決定。

ただし、経験値の多いモンスターを狙って呼び出す事が出来ればかなり有効なので、早く試してはみたい。

落とし穴の中やガードのいる街中、沼の中など、生成した瞬間に無力化できる状況を話し合った結果、牢獄の中ならば安全だろうと言う事になった。


「たしかダックネストのダンジョンに牢獄マップがあったッスよ。そこで試しまショ」

「ダックネストって何処にある街なんですか?行った事無いです」

「巣鴨だから…上野(アップフィールド)から5か6個目の街ッスよ」

「上野って言うなよ……」


 みなみがげんなりした様に呟く。

そうなのだ。このゲームの都市の名前は現実の山手線の駅名から取られている。それも割りとかっこ悪い直訳チックな機械的翻訳で。日暮里はニッポリーで東京はイーストマッドロード(東狂王)だったりと翻訳しにくい物はアレンジされているようだが、どうにもかっこ悪い。

 これで「地球の文明が滅んだ後の世界」とかの設定があるなら納得もいくのだが、マップは現実世界を一切反映していない。ゲートワールド・オンラインに数多く存在する手抜きの一環と思われる。


「あー、私地方在住なんで気が付きませんでした」

「俺なんて逆に日暮里に住んでるから、地元がモンスターに蹂躙されて廃墟になるのとか、微妙にイヤ」

「そんなのまだマシだろ。なんでサイタマ飛ばされてんだよ。存在すらスルーって」


 何度か当たった大規模パッチで追加された上級ダンジョンのあるマップはレッドフェザーより北上すると行ける場所にあり、群馬や茨城を直訳した名前のついたMAPとなっており、雑魚ですらバズーカ撃ってくる修羅の地とされている。

 コウやみなみは、観光がてら大規模パーティを募って突撃した事もあるが、誰も生きて帰ってこれなかった。


「じゃ、一旦秋葉原…オータムリーフフィールド行って装備整えてから、逆回りに巣…ダックネスト目指すって感じでいいッスか?」

「恥ずかしいから言い直すなよ。まぁ大体そんな感じで良いと思うよ。オータムリーフは一番賑わってる街だし、何でも揃う」


 パーティ内の高レベル者二人で方針をそこまで決めたていると、パンを食べ終わって暇そうにウロウロしていた村人フェイが会話に割って入ってきた。


「あのー、あたしの事テイムするなら8000マネー相当の物くれたら友好度10になりますよ。さっき空腹時の食べ物で2あがってるので」


 その言葉に、ギョッとする。ゴンザも驚いたようにポカンと口を開いている。


「NPCが喋った?」

「あー、焼き立てパンをあと4個とかじゃダメなのかな?」


 ログイン早々に案内人アンディで経験しているコウが、皆とは違いゲームマスターアカウントだけの異常事態じゃない点に驚きながら、フェイに提案する。

パン4個で友好度8UPの確認に、首を横に振りながらフェイが答える。


「空腹状態じゃないから食べ物は受け取りません。女性なので花とか宝石は倍あがります」

「そういうのは持ってないから、これ上げる」


 アイテムボックスから一本余っている『屠竜』をフェイにドラッグする。贅沢な話だが、いくらでも増やせるから惜しくもない。


 再びピロンという安っぽい効果音と共に発光エフェクト。


「『わーい、ありがとう!』……これセリフなんで言わなきゃいけないんですけど、すいません、高価な物貰っても一度に10以上は上がらないんです」

「そうなんだ。でもテイムできる数値にはなったよね?」

「ええ。いま友好度12です」


 メニューからパーティ編成コマンドを選択してフェイを所有するコウに、ようやく驚きから立ち直ったみなみが恐る恐る声をかけた。


「なぁ。その子のプロフィール『村人』ってちゃんと書いてあるよな?NPCなんだよな?」

「そうですよ。生成したばっかりじゃないですか」

「じゃ、なんで喋ってるんだよ。決められたセリフとは思えない会話してたよな?」


 みなみの驚きももっともだが、コウはなんらかのバージョンアップがあったんじゃないのかという考えを口にする。


「アンディさんも喋ってたよ。普通の人間みたいに」

「アンディさんって誰ですか?」

「案内人」


 ああ、あれ名前あったんですねと酷い事を口にするゴンザ。イノは焼き立てパンの湧きポイントだなともっとひどい事を考えているのだが、口には出さない。


「ちょっと見てみたい。いい?」


 そう聞くと同時にみなみが村の入り口方面に歩きだす。なんとなくゾロゾロと着いていく一同。


「みなみさん、何を気にしてるんだろうね?」

「サイト管理者として会話パターンが変わった事が気になるんじゃないでしょうか?」

「公式ページ、異常に重いから追加パッチの情報とか見に行くのも面倒だったもんなぁ」

「公式の更新履歴とか、2年前から更新無いッスよ。更新されてるのはスタッフの呟きだけッス」


 相変わらずのクソっぷりにいっそ清々しい。

 ちなみにスタッフの呟きも、ゲートワールドとは関係ない話ばかりで、会社の近くに美味しい喫茶店見つけました!とか、ガンランス極めました!とかそんな内容しかない。


「情報」


 死んだ鯖の様な目をした、案内人・アンディの前に着いたみなみが一言口にする。視線を向けて何か言葉を発すれば良いとはドライにも程がある。だがそんな言葉にもアンディはいつもと変わらず返事をしてくれる。


「ここは『始まりの村』です。冒険者のみなさんようこそ」

「なんだ、いつもと変わらないじゃないか」

「そりゃ、このセリフ言うのが私の仕事ですからね…」


 振り返って驚いた顔を向けるみなみ。


「やっぱ、何かセリフの変更あったんッスかね」

「いや、そう言う事じゃないだろう。そこのフェイもそうだけど、こっちの言葉に反応して会話してるぞ?特定の単語をトリガーにしてセリフを読みあげてるのとわけが違う」


 確かに。会話の滑らかさは驚くべき事だが、この時代では恋愛シミュレーションや、キモい魚育成ゲームなどで人間と変わらない会話が可能なゲームはザラにある。


「そりゃそうッスけど。昔のゲームじゃないんだからそれくらいのAIは普通ッショ?」

「高性能な会話AI積んだゲームは確かにあるけど、こんなどうでもいい雑魚キャラにまでAI仕込むか?」

「このプレイヤーどもは……妻を毎日毎日吹き飛ばして俺を飢えさせたあげくに、本人目の前にして雑魚呼ばわりか……」


 淀んだ沼の様になっている目をさらに濁らせて、アンディが呟く。生成されたばかりの時のフェイと同様に、イノに対しての敵対値が溜まっているのだろうけど、案内人としての職業を持っており場所が固定されている為、戦闘行為は行えないようだ。


「アンディさん、パンありますけど食べますか?」

「お前らからの施しを受けて友好度が2も上がってしまうのは屈辱だが、くれるなら貰っておく!」


 どうやら空腹状態のNPCに食べ物をあげると、友好度は固定で2上がるらしい。先ほどのフェイの話からすると、欲しがっている物は大きく上がって、それ以外は金額にして1000マネーにつき1上昇なのだろうか。


「これもテイムするんですか?」

「いや、しないよ。案内人とかの職業持ちキャラはペット化できないし、そもそもおっさんはいらないし」


 不思議そうに尋ねてくるフェイに答えると、さらに疑問を募らせたのか酷い質問を投げてくる。


「テイムしないのに何でパンあげるんですか?あげてもイベントとかも無いですよ?」

「いや、お腹減ってるみたいだし。ってか、君の父親だろう?クールすぎないか?」

「連れていけないNPCに食べ物上げる位なら売ればいいのに……」


 フェイがそういう性格なのか、NPCってそういうものなのかは知らないが、かなり冷めた家族のようだとコウが思っている間にも、冷え冷えとした会話は続く。


「娘よ、母さん今日も魔法で吹き飛ばされたぞ」

「明日また湧いてきますよ」

「そいつらはお母さんを吹き飛ばした奴らの仲間だぞ~」

「知ってますよ。でもパンくれたからチャラです」

「母さんが持ってきてくれるパンが無いから、父さんは長い事飲まず食わずなんだ……」

「あ、そのパン私が食べたかも」


 シュールだ。NPC同士の会話ってこんなに面白い物だったのか。


「君の父親だろ?そんな邪険にしていいの?」

「父親とは言っても、初めてあったわけですし」

「家族って設定なんじゃないのか?」

「12年間育てて貰った記憶もありますが、会話したのは初めてですよ。だいたい私、さっき生成されたばっかりじゃないですか」


 何なんだこいつら。プレイヤーとか、生成とか。自分たちがNPCって事も認識してるし、ちょっと怖い。AIってもうちょっと人間っぽく会話させようとするんじゃないのかな。



結局、アンディにはパンはあげないまま村を出た。


キャラクター多いと誰が話してるんだかわかんないですね。

何人か殺すか……

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