いらついて
リアル側のトイレ事情により半泣きのゴンザさんをな、んとか落ち着かせて自己紹介を行う。
「俺の名前は†イノウエ†。職業はレベル40の魔法士。イノでイイッスよ。ステは体力-敏捷振りで知力は最低限だけの壁仕様です。これにはちゃんと考えがあるんで、特定の敵でならしっかり稼げる構成ッス。スキルは戦場魔法中心で、あと食堂やりたくて料理スキルも取ってます」
スキルは大きく分けてアクティブスキルとパッシブがある。
パッシブと言うのは【HP上昇】のような能力値UP系や、【危険感知】と言った普段から発動していないと意味がない受動的行為の、常時発動型のスキルの事を指す。
逆にアクティブスキルと言うのは、能動的に使用するもので【料理】のような製作スキルや、【マジック・バズーカ】【グレネード】と言った、戦闘で使用できるダメージを与える為の攻撃スキル全般を指し、魔法もここに含まれる。
その中でも、戦争で使われる兵器の名前を冠した魔法は『戦場魔法』と呼ばれており、効果が大きい代わりに持続時間が短く設定されている物が多い。戦場魔法以外の生産・製作系魔法のは日常魔法などと呼ばれている。
たとえば戦場魔法での【戦いの叫び】は攻撃力を60秒の間だけ増大させる効果があるが、日常魔法での【筋力増大】は10倍の600秒の間、筋力そのものを上昇させる。
これらは効果が重複しないので、攻撃力は戦場魔法を使った方が有利だが、日常魔法ならば所持品の重量上限などもあがるので、材木や鉱石の採取には便利な魔法と言う事になる。
スキルは無限に覚えられるわけでもないので、戦場魔法と日常魔法のスキルスロットを占める割合は、そのままゲームスタイルを反映していると言っても良い。
このようなスキルは、大きな街にある『職業神の神殿』…通称ハロワにいる『スキル神官』からお金で買って覚える。
職業による補正がある為、有利不利こそあるものの、職業によるスキル取得の制限は無く、戦士が【回復】の魔法を覚えても、治療士が【首切り】を覚えても問題は無い。
だが、【毒使い】を覚えないと【毒消し】が購入可能なスキル一覧に現れないなど、前提条件の必要なスキルがある為、好き勝手に覚えると無駄になる物がある。
スキルの総数はパッチが当たる度に増えたりもする上に、隠しスキルが多い為正確な数はプレイヤーには明かされていないが、おそらく4000には届かないものの、1000を超えるのではと言われている。
だが問題なのは、スキルは『レベル個数』までしか持てないと言う事だ。さらに一度覚えたスキルは消せない。
よって、有利なキャラクター作成をしたい人たちは、多数の人柱を使ってスキル構成を試す事になる。そこで必要になってくるのが、みなみのような「育成支援」用のキャラクターだ。
「えーと、名前はみなみ。大昔の古いゲームのキャラから名前取りました。
初心者育成用のサブキャラなんで、レベルはまだ18だけど、戦士から騎士にクラスチェンジしてます。これは戦士よりHPが増えるから。
ステは体力-知力。
スキルも【HP上昇】と【回復】の他は【戦いの叫び】【戦場は地獄だぜ】みたいな支援魔法ばっかなんだけど、あと一つレベル上げれば【献身】ってスキルを覚える予定。これがあればイノ君はかなり安定して戦えるようになるよ」
「それ、どんなスキルなんッスか?」
みなみの口にした聞き覚えの無いスキル名に、†イノウエ†が食いついた。
「【回復】と【かばう】と、後たぶんなんらかの防御系スキルが条件になって現れる隠しスキルだと思う。これ掛けた相手の受けたダメージを肩代わりできるようになる。メインキャラで見つけたんだけど、そっちは商人系プレイだったから支援スキル少なくてね。いっそ支援特化で作りなおそうって思ったんだ」
「支援職なら治療士とかにすればよかったんでは?」
「メインが治療士だから変えたかったんだ。戦士系ならHPも多いしイケると思うよ」
今度はコウシが当然の疑問をぶつけるが、せっかくだから違う職を使いたかったというだけの理由だったようだ。ログアウトできない現在の状態では意味がないが、みなみのプレイヤーは作りなおすと言いながらも、キャラクター設計を失敗したメインキャラをそのまま使い続ける様子だ。
「じゃ、次は私。名前はゴンザで、今はまだ戦士だけど鉄鉱石10個手に入れたら鍛冶屋に転職するつもりでした。
レベルはまだ2…あ、さっきので3に上がってます。ステータスは筋力と体力と運に振ってます。スキルはまだ何も取って無いです」
「さっきの話だけど、コウシ君のコピーしたアイテムを『最初に拾う』役をやってくれるなら、後々本物のGMにBANされる可能性とかもあるから、長期的な育成は考えなくていいと思う。とりあえず死なないだけのHPを確保したら、あとは体力に振るの止めて筋力で良いと思うよ」
「はい。私もこれサブキャラで、メインの戦士がすぐ武器壊しちゃって、新しい武器とか買う度に『武器作れる人は儲かるなー』って思ったんです。
作り立てのキャラだし、コウシさんのチートの恩恵があるならこのキャラのスキル構成とかはゲートワールド・リークスの情報集め様の人柱にしちゃっていいですよ」
「ありがとう。でも鍛冶屋が儲かるのはハイレベルになってからだから。材料費高いし」
ゴンザの言う鍛冶屋への転職や、みなみの騎士などの職業、それと一部のスキルはクエストで解放される。
職業解放クエストさえ終えてしまえば、職業神の神殿で何回でも転職は可能だ。
その鍛冶屋への転職クエストの内容が『鉄鉱石を納品する』なのだ。
同様に†イノウエ†の取得している『料理』のスキルも『焼き立てパンを納品する』事で料理人に転職すれば習得が可能になる。
ちなみに騎士への転職は『騎士の誇り』というアイテムを持って行くだけなので、もっとも簡単なクエストの一つになっている。騎士の誇りの入手方法はNPCから買うだけなので、鉄鉱石や焼き立てパンのようにモンスターからのドロップ品を集める必要もない。
「じゃ、最後に俺ですが、コウシっていいます」
「講師とか孔子なの?それとも子牛?」
最後にコウシが名乗った瞬間に†イノウエ†が名前の由来を尋ねる。
本名そのままとは言いたくないので牛だよ、肉好きなんだよと答える。
コウシが少しイラッとした事にも気が付かず、呑気に俺もユッケとか大好きなんッスと無邪気にはしゃいでいる空気の読めない†イノウエ†。
「牛は美味しいよね!あー、えっと。コウシさんのレベルはまだ1なんだよね。職業GMの特殊コマンドはさっき聞いたけど、職業補正とかはあるの?」
雰囲気を読んだゴンザが、必死で会話に割って入った。
「俺もコウでいいです。職業欄は……」
イノにもゴンザにも悪気が無い事はわかるので、本名を弄られたイライラは忘れてGM能力の開示に興味を移す。
「不可視モード、広域メッセージ、クリエイト、ジェネレイト、バン、NPC役職変更と、
あとは…なんもないな。
盾の効果上昇とか耐久度減少率低下とか、そう言うのも無いし。生産職みたいに対応スキルの成功率上昇も無いみたい」
「ふむ。じゃあ戦闘での与ダメージでは有利さは無いんだね。おそらく転職できないだろうから生産スキルもあんまり有利じゃない…というかクリエイトあるから覚える意味がないね。
じゃ、【ナイフ投げ】と【回復薬効果上昇】の二つを覚えると【ポーション投げ】が解放されるから、このスキル覚えてくれると嬉しいかな。エリクサー投げて?」
「了解です」
「じゃ、自己紹介も終わったし、オータムリーフの街行こうぜ。俺が金塊買うから増やして貰ってNPC売りで資金増やせば防具類買えるッスよ。そしたらパワーレベリングでガーッとレベル上げていろいろスキル試してみましょ」
ひょいと立ちあがって、尻を叩いてローブの汚れを払うイノにまぁまぁと押さえると、コウはその前に試したい事があると告げた。
「ジェネレイトってまだ使って無いけど、クリエイトがアイテム作成なら、生物が出てくるんじゃないかと思うんです。村人のプロフィール見ても番号とか無いし、うまく行ったら入力項目なしで作れるんじゃないかな~って思って。もしできたら、動物とかNPC冒険者呼び出してパーティ増やしましょうよ」
「そうだね、この村出たトコでまたモンスターハウスになってるだろうし」
うんうんと頷き合う一同。
システム的にはペットという扱いになるが、プレイヤーキャラはNPCをパーティに入れることもできる。
これはプレイヤー同士で組むパーティと違い、パーティの上限人数には引っかからないし、経験値の分散も無い。
集まれ、散れ、攻撃しろ、逃げろなどの単純な命令を出す事が出来る。
【調教】や【動物使い】などのスキルがあればペットの性能があがるが、ペットにする事自体は餌さえあげればスキルは要らない。
もちろんスキルの無いプレイヤーキャラが従えた動物など、なんの戦力にもならないのでただのペットなのだが、壁や囮としては有効なのだ。竜を従えたり、人間を調教したりするスキルもあると言われているが、他の全てのレアスキルの噂と同様、噂でしかない。
そしてコウは囮要員の為、アバウトにジェネレイトを実行してみた。
「ジェネレイト!」
<Generate: detailが入力されていない場合、ランダムに生成します>
「お?」
キャラクターの紹介とゲーム内の説明とかを、いまさら詰め込んじゃいました。
なんか読みにくい!よみにくーい!もっと行間開けた方がいいのか、そういう問題じゃないのか…