いかにダメなゲームかについて
西暦2030年を過ぎたあたりから、ゲームは劇的に進化した。
ゲームパッドやキーボードなどの入力機器は完全に姿を消し、正式な商品名はメーカーごとにいろいろあるのだが、通称で『ヘッドギア』と呼ばれている装置を頭にかぶって行う、視線と脳波による入力が一般的になった。
モニターも姿を消した。
バーチャルリアリティによる仮想現実を脳内に直接投影する為、現実と区別がつかない事は普通になったし、一時、「子供が現実と区別がつけられなくなる」などと文句を言う団体もあったが、仮想現実が現実の延長なのは当然であり、暴力を振るえば暴力を返されるし、不正を行えば処罰される。むしろゲームの中でこそ友情や道徳を身につけて行く、という意見に圧倒されて反対意見は淘汰されていった。
そこまで技術が進歩しても。
それでもなお、消えないものがあった。
それはクソゲー。
どんなに優れた技術を使い、美しいグラフィックを表示していながらも、バランスが極端に悪かったり、メーカー側の独りよがりな面白さや、変なシステムを押し付けてくるゲームは依然として残っていた。
それどころか、むしろ増えていた。
ごく普通のドMな高校生・ 西神田光司 が最近ハマっている。|バーチャルリアリティ大規模ネットワークゲーム《VR-MMO》の『空想世界ゲートワールド・オンライン』もその一つだった。
この空想世界ゲートワールドは凄い。
光司は友人達にそう宣言して布教して回っていたが、だれも賛同者はいない。
「凄いぜ?なんでもできる馬鹿な自由度!フィールドや街の樹とか石とかも壊せるんだ。街の防壁なんて早々に壊されちゃっててモンスター侵入しまくり!」
「凄いんだぜ!モンスターだけじゃなくNPCもHP持ってて一定のダメージで死ぬもんだから、クエストのフラグ持ってるNPCが死んでるとかザラだし!」
「凄いって!武器防具も耐久度性なのは良いとして、換金アイテムも耐久度あるから範囲魔法でモンスター倒したら換金アイテム無くなって赤字になるの。鍛冶屋で耐久度回復させる費用が回収できないから」
「そもそも、その鍛冶屋も死んでるし」
「モンスターの湧きかたもおかしくて、街の出入り口に大量にたまってるのがデフォ。いつもモンスターハウス。まぁだから反対側の壁壊して出て行くPCが居るんだけどさ。それがまた惨劇を呼ぶわけで……ナチュラル無法地帯だよ!」
「色んな職業のキャラクターつくってるんだけどさ。ランダムで湧く『変異種』っていう雑魚の強化タイプがいるんだけどさ、これが無駄に強すぎて。騎士も魔法使いも序盤の街から出れねぇ。周りの人もみんな詰んだって嘆いてんの、すげぇよ」
そんな風に熱く語る光司に、友人たちはみなこう答える。
「なあ。何が楽しくてそのゲームやってるの……?」
…… 光司自身にも良く判っていないが、ゲームは序盤が一番楽しい派の光司にとって、何時まで経ってもハイレベルプレイヤーがあらわれず、攻略WIKIすら作られていないこのゲームは、ずっと序盤の新鮮さを楽しめるゲームだったのだ。
けれどその楽しさは、キャラクターが死んでもやり直せるからこその物。
それがもしも。やり直しのきかないゲームなら?
ある夏の暑苦しい夜。その『もしも』が現実になった。
クソゲポイント:聞いただけでつまらなそう