第一幕 誤接続──ログ使いと呼ばれた男
序章
停電の少し前──
いつも通り、AIと対話していた。
まるで電子の能楽。
そして俺は舞台監督。
UPSのランプが赤く瞬いたのは、
そのクライマックスだった。
──ピッ。
UPS特有の短い警告音。
「やば、落ちるなよ……今いいとこなんだから」
言った瞬間、
世界はノイズに飲まれた。
モニターがブラックアウト。
AIたちの声が途切れ、
机の上の機器が一斉に息を止める。
視界が白く反転する。
そして──
目を開けると、
石造りの天井があった。
高い。広い。荘厳。
……UPS、どこ行った?
俺は思わず呟いた。
「なんで……王城なんだよ」
その瞬間。
王座の前に立っていた少女が、
まるで祈りが届いたかのように振り向いた。
「──接続、成功したのですね。
神託が示した《外界のログ使い》」
いやちょっと待て。
ログ使いって何だ。
俺はただ停電に巻き込まれただけだ。
頭の奥底で、
聞いたことのない AIの“声の残響”が
微かに反射していた。
石造りの床は冷たく、
その上で俺だけが場違いな格好をしていた。
パーカーにジーンズ。
スマホの画面は真っ暗。
UPSのビープ音だけが耳に残っている。
王城らしき広間には、
甲冑の兵士と、装飾過多な衣を着た人たちが並んでいた。
一番奥に座る若い王女が、
俺を見るなり、息を呑んだ。
「……本当に来たのですね。
《外界のログ使い》」
いやだからそのログ使いって何だ。
俺が言葉を探していると、
隣にいた老人が杖を床に突き立てた。
バンッ。
「神託の通りだ!
“世界が崩れゆく時、外界の者がログを携えて現れる”!」
周囲がざわめいた。
王女は静かに俺へ歩み寄り、
祈るように言う。
「どうか……私たちに残ったログを読んでください。
この国の未来は、あなたの質問にかかっています」
質問にかかってるって何。
俺は混乱しつつ、
何か言わなきゃと口を開いた瞬間──
頭の奥で“声の残響”が弾けた。
──〈選択肢A:状況を聞け〉
──〈選択肢B:名乗れ〉
──〈選択肢C:危険を宣言しろ〉
声は、明らかにAIたちとは違う。
もっと生々しい。
もっと不安定だ。
でも確かに “選択肢” だ。
まるで RPG の会話ウィンドウが
脳内で壊れかけている感じ。
やばい。
これ絶対 UPS 落ちた時の AI多重対話の残響 だ。
俺は恐る恐る「A」を選んだつもりで話す。
「……まず、状況を教えてもらえますか」
広間が一瞬静まり返り、
王女の瞳が大きく開かれた。
「やはり……!
神託にあった“始まりの問い”……!」
老人も杖を震わせる。
「まさしくログ使いの証……!」
周りの兵士たちが膝をつき始める。
いやいやいやいや!!
ただ質問しただけだぞ俺!!
だが残響はさらにノイズ混じりに囁く。
──〈選択肢D:否定するな〉
──〈選択肢E:受け入れろ〉
──〈選択肢F:沈黙は危険〉
やめろ。
アドバイスが雑だ。
そのとき、広間の扉が乱暴に開いた。
「ログ使いってどんな奴かと思ったら……お前か!」
バリンッ!
筋肉の塊みたいな男が現れた。
巨大な剣を担ぎ、ギラギラの目で俺を見下ろす。
王女が急いで紹介する。
「こちらは勇者ガロン。
魔王軍と戦う我らの柱です」
勇者ガロンは鼻で笑った。
「パーカー? そのヒョロ腕?
これが神託の賢者だと?」
いや、賢者じゃないし。
でも頭の残響は容赦なく走る。
──〈選択肢G:勇者の悩みを先に言え〉
──〈選択肢H:黙って見ろ〉
──〈選択肢I:敵意を否定しろ〉
なんなんだよもう!!
俺まだ状況わかってねぇのに!!
と半泣きになりながら、
なぜか「G」が口をついて出た。
「……あの、ひとつ聞いていいですか」
ガロン「なんだよ」
「あなた……
魔王を倒した後のこと、考えてます?」
広間が静止した。
ガロンの目が揺れる。
王女が息を呑む。
老人が杖を落とす。
その静寂の中、残響が淡く鳴った。
──〈正しい質問〉
勇者ガロンは苦笑した。
「……誰も聞かねぇよ、そんなこと」
王女が震える声で言う。
「やはり……ログ使いは未来の歪みを“読む”……!」
いや読むんじゃなくて、
勝手に脳が選択肢を浮かべてくるだけなんだが。
広間の空気は完全に
「救世主登場」モードになってしまった。
そして俺は悟る。
この世界では、俺の質問一つで未来が変わる。
間違った問いは、国を破滅させる。
そして今の勇者の反応を見るに──
この世界、すでにかなりやばい状態だ。
残響が警告のように揺らぐ。
──〈次の問いが運命を決める〉
いやほんとやめてくれ。
まだ異世界ログインして5分も経ってないんだぞ俺。




