それでも、光を掴むために
洞窟の奥に、炎と闇が入り混じっていた。
剣が唸り、魔法が爆ぜ、血と焦げた臭いが立ち込める。
「右だ、クレア!」
アルの声に応じ、クレアが詠唱を終える。
雷が閃き、魔物の群れを焼き払った。
だが、それでも数は減らない。
「くそっ、きりがない!」
「アル、後ろ!」
振り向くと同時に、鋭い爪が頬をかすめた。
血が滲み、視界が赤く染まる。
「アル!」
「平気だ……っ!」
クレアの魔力の光が揺らぐ。
疲労のせいだろう。息が荒く、魔法陣が歪み始めている。
(まずい……クレアの限界が近い)
アルは彼女を庇いながら、剣を振るった。
だが、次第に動きが鈍る。
洞窟全体が息づくように震え、闇が再び押し寄せた。
「アル、もう無理よ! こんなのじゃ――」
「諦めるな!」
「でも……!」
クレアの瞳が揺れていた。
その奥に、覚悟の色が宿る。
アルは一瞬、嫌な予感を覚えた。
「アル……お願い」
「何を――」
「生きて」
その言葉が響いた瞬間、眩い光がクレアの両手から放たれた。
空気が震え、魔物たちが一斉に後退する。
「やめろ、クレア! そんな魔力、今使ったら――!」
「行って!」
「ふざけるな! 一緒に――」
「お願い、アル!」
涙を浮かべて笑う彼女の姿が、光に包まれる。
「クレアァァァァァァーーーッ!!!」
爆風がアルを飲み込み、身体が宙を舞った。
洞窟の天井を突き抜け、外の闇へと弾き飛ばされる。
風の轟音と、心臓の鼓動だけが響く。
(なぜだ……なぜ、俺なんかを……)
クレアの声が遠くで消えていく。
その瞬間、アルの心は、真っ黒に染まった。
――守れなかった。
また、誰も守れなかった。
地面に叩きつけられた衝撃と同時に、視界が滲む。
拳を握り、血が滲むほど地面を殴る。
「俺は……弱い……!」
「全部、俺のせいだ……!」
嗚咽が漏れる。
胸の奥から溢れた叫びは、夜の森に溶けて消えた。
「クレア……ごめん……」
涙が頬を伝い、意識が闇に沈んでいく。
最後に見たのは、彼女の笑顔だった。
――柔らかな光が、まぶたを照らす。
どれほど時間が経ったのだろうか。
アルは、ゆっくりと目を開けた。
木の天井。
乾いた草の香り。
包帯が巻かれた腕。
(……ここは?)
「クレア!」
跳ね起きるように上体を起こし、アルは叫んだ。
その声が空気を震わせる。
しかし、返事はない。
代わりに、鳥のさえずりが窓の外から聞こえた。
息が乱れ、心臓が痛む。
あの瞬間の光景が、何度も脳裏をよぎる。
「なんで……なんでクレアは……」
「俺なんかを……助けて……!」
髪を掴み、頭を抱えた。
全身が震える。
涙がまたこぼれた。
「俺が……もっと強ければ……!」
「俺が、守れたのに……!」
ドアの向こうで、静かな声がした。
「……起きたか」
ゆっくりと振り向くと、村長が立っていた。
その表情は、悲しみと覚悟が入り混じったものだった。
「ここは、リリィの家だ」
「……リリィの?」
「お前が倒れていたのを、村の者が運んできたんだ」
アルは、しばらく言葉を失ったまま天井を見つめた。
村長は、そっと続ける。
「クレアのことが、気になるんだろう」
アルの肩が、わずかに震える。
「……あいつは俺を吹き飛ばした。自分を犠牲にして……!」
「そうだな。しかし――」
村長の声が静かに続く。
「クレアは、まだ生きているかもしれない」
「……え?」
「洞窟の奥から、まだ強い魔力の反応がある。
完全に消えてはいない」
その一言で、アルの瞳に一瞬だけ光が戻る。
「確証はない。だが、お前が行かなければ、誰も救えん」
村長の言葉に、アルはゆっくりと拳を握った。
まだ震える手を見つめながら、歯を食いしばる。
「……必ず、助けます。クレアも、村のみんなも」
その瞳には、もう迷いはなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
投稿頻度は、あまり高くないと思いますが
是非読んでいただけたらなと思います!(^3^)




