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焦げた風の中で

丘を越えて、崩れかけた門をくぐると、村の中心にまだ煙の残り香が漂っていた。

 焦げた木の匂いと、どこか遠くで泣く子供の声。

 それでも、人々は生きていた。――息をし、互いに支え合いながら。


 リリィは駆け出した。

 「お父さん! お母さんっ!」


 その声に、瓦礫のそばで動いていた男女が顔を上げた。

 次の瞬間、母親が叫ぶように名を呼び、リリィを抱きしめた。

 「リリィ……! 本当に……無事だったのね……!」

 「ごめんなさい……怖くて、逃げちゃって……」

 「いいの、もういいのよ……!」


 母の手が震えながら娘の髪を撫でる。

 父親はそれを見つめながら、唇を噛んでいた。大きな手でそっとリリィの肩を包み込む。

 ――家族の温もり。

 その光景に、クレアが小さく息をついた。


 「よかったね、リリィ……」


 その声には、心の底からの安堵が滲んでいた。

 アルも、ほんの少し口元を緩めた。


 やがてリリィの父親が、二人のもとへ歩み寄る。

 「お前たちが……リリィを助けてくれたんだな」

 「はい。たまたま通りかかって……」

 「礼を言わせてくれ。本当に、ありがとう」


 その目は深く、疲れているのに優しかった。


 「ささやかだが……うちで休んでいってくれ」


 案内された家は、屋根の一部が焦げ、壁にもひびが入っていた。

 それでも中は温かかった。

 粗末な木の机の上に、焼いた芋と、干し草の香りがするスープが並べられる。


 「こんな時に、すみません……」とアルが言うと、父親は首を振った。

 「こんな時だからこそ、だ。助けてくれた恩人に何も出さない方が、村の恥になる」


 クレアは静かに微笑み、両手を合わせた。

 「いただきます」


 短い食事のあと、アルは慎重に切り出した。

 「……この村に、何があったんですか?」


 その言葉に、空気が一瞬、重くなった。

 父親は深く息を吸い、そして言った。

 「……村長を呼んでくる。俺の口じゃ足りねぇ話だ」


 しばらくして、年老いた男が入ってきた。

 背は曲がっているが、目の奥には力があった。


 「君たちが、外から来た旅人か」

 「はい」アルが答える。

 「……リリィを助けたと聞いた。ありがとう。今のこの村に、光が一つ戻ったようだ」


 村長は椅子に腰を下ろし、静かに語り始めた。


 「三日前の夜だった。空が赤く染まり、突然“あの獣”が現れた。

 山の方から降りてきて、家々を壊し、人をさらっていった。

 村の男たちは武器を取ったが……刃が通らなかった。

 残った者たちは逃げ、隠れ、こうして……命を繋いでいる」


 その声には、深い悔恨が混じっていた。

 「さらわれた者の中に、若い娘が二人いる。リリィの姉も、その一人だ」


 ――空気が止まる。

 クレアの瞳が、一瞬にして見開かれた。


 「リリィのお姉さんが……!」


 村長は静かに頷く。

 「そうだ。獣は夜になると再び現れ、山へと戻る。あの洞窟に棲みついたらしい」


 「そんな……っ!」

 クレアが椅子を蹴るように立ち上がった。

 「じゃあ、今すぐ助けに行かないと!」


 その声は震えていた。怒りと焦り、そして恐怖が混じった声。


 「クレア、待て!」

 アルが腕を掴む。


 「離してよ、アル! 時間が経てば経つほど――!」

 「行っても無駄だ!」

 「なにそれっ!? 人を助けるのに“無駄”なんてある!?」


 クレアの叫びが、家の中に響く。

 アルは眉を寄せ、低い声で言った。

 「感情で突っ込んだら、全員死ぬ。相手は村を壊滅させた化け物だ。俺たちだけじゃ、どうにもならない」


 クレアは唇を噛む。

 涙が、怒りとも悔しさともつかない光を帯びて滲んだ。


 「……でも、見捨てられないよ……。助けを待ってる人がいるのに……」


 アルはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと手を離した。

 「見捨てるなんて言ってない。確実に、助けるために考えるんだ」


 「……作戦を立てる、ってこと?」

 「そう。あの獣を倒す方法を探す。準備をして、情報を集めて……それから動く」


 その言葉に、クレアはようやく目を伏せた。

 「……ごめん。私、焦ってた」

 「わかってる。でも、クレアのそういうところ、嫌いじゃない」


 その一言に、クレアは思わず顔を上げた。そして少しだけ目をそらす。

 「な、なにそれ……」

 「褒めてるんだよ」

 「……もう、バカ」


 少しだけ、二人の間に柔らかい空気が戻った。


 村長はその様子を見て、静かに頷いた。

 「若い者よ……頼んだぞ。村には、もう戦える者がほとんどいない」


 「任せてください」

 アルは真剣な目で答えた。


 夜。

 アルは焚き火の前に座り、剣を磨いていた。

 クレアはその隣で、地面に地図を描いている。


 「明日の朝、山の麓まで行って、洞窟の様子を見よう」

 「うん。罠の跡とか、足跡も調べたい」


 炎の明かりが二人の顔を照らす。

 燃える薪の音が、静かな決意を刻むように響いていた。


 ――焦げた風が通り抜ける夜。

 二人の瞳には、確かな光が宿っていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

投稿頻度は、あまり高くないと思いますが

是非読んでいただけたらなと思います!(^q^)

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