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揺らぐ約束

 クレアとの旅を約束したあと、僕たちは手をつなぎ、家へ帰ろうと森の中を歩いていた。

 クレアはご機嫌で、さっきからずっと鼻歌を歌っている。そんな無邪気な姿を見て、思わずクスリと笑った。


 「なによ?」

 「いや、嬉しそうだなと思って」

 「当たり前じゃない! ついに夢が叶うんだもの♪」


 クレアは、また鼻歌を口ずさむ。

 僕もクレアとの旅はとても楽しみだ。今すぐにでも出発したい気分になる。

 けれど、計画もなしに旅立つほど無鉄砲じゃない。しっかり準備してから行こう――そんなことを考えていた。


 「クレア、出発は明日でいいかな?」

 「当たり前じゃない、アルと一日でもはやく――」


 言葉は、そこで途切れた。

 クレアが苦しそうに胸を押さえ、その場に崩れ落ちる。

 ほぼ同時に、僕の頭にも鋭い痛みが走った。

 数秒間、頭を押さえ込む。けれど、耐えられないほどではない。

 それよりも――クレアだ。


 「クレア!」

 「大丈夫よ、アル。いつものことでしょう?」

 「でも……」

 「しつこいわね。大丈夫と言ったら大丈夫なの」


 そう言って、クレアは胸を押さえたままゆっくり立ち上がり、深呼吸をした。

 「よし、復活!」


 何事もなかったかのように笑うクレア。

 でも、その笑顔を見ていると、なぜだか――僕の中で、彼女が少しずつ遠ざかっていくように感じた。


 帰り道、僕たちはまた手をつなぎ、クレアは鼻歌を歌いながら歩いた。

 でもその時の僕は、クレアのことで頭がいっぱいであまり良い顔はしていなかっただろう。クレアに、旅を辞めないかと説得しようとも考えたが、おそらくそれは、無理だろう。今のクレアの笑顔を壊す勇気なんて僕には、ないのだから。


 「明日が楽しみね、アル!」

 「そうだね、クレア」


 平静を装って返事をする。

 そのときの僕の心は、もうボロボロだった。

 でも、苦しむクレアのそばでできることは、見守ることだけ。

 逃げ出したい気持ちを押し殺しながら、僕はただ、彼女を見つめていた。

 

 家に帰るとアルは、装備を装着し腰に剣を吊した。

 「僕は、魔石を取ってくるからクレアは、数日分の食料をお願いね。」

 「わかったわ、気をつけてねアル」

 アルは、家から少し離れている山の麓にある洞窟へ向かった。

 洞窟へ向かっていると、姿は捉えていないが数メートル先に何かがいることに気づき、木の裏から覗く。するとそこには、2匹の飛兎がいた。飛兎は、臆病な性格をしていて向こうから攻撃をしてくることはないのでアルの剣が鞘から抜かれることはない。

 こちらの存在に気づかれると、目にも負えない速さで何処かに逃げてしまうので、アルは気配を殺す。

 「飛兎だ、珍しいなぁ」

 アルは、飛兎を凝視するとあることに気づく。

 「手に持ってるのは、なんだろう」

 片方の飛兎の手には、緑色の石があった。アルは、そのことに気づくとその場を離れて歩き始める。

 「ああいうのは、邪魔したらダメだよね」

 魔物同士で、緑色の石を渡すという行動は、一つの愛情表現だ。昔、クレアと散歩してたら石を渡してる飛兎を見かけて、意味を教えたら顔を真っ赤にしてたっけ。その日の夕方家に帰ったらクレアがいなくて探しに行ったら、川で何かを探していたような。

 昔のことを色々思い出してると、いつのまにか洞窟に到着していた。アルは、息を吸い込み、中へと足を踏み入れる。

 

 「久しぶりに来たけど、ずいぶん変わったな」

 この洞窟は、かなりのペースで地形が変動し、新たな構造とともに魔石や魔物を生み出す。

 「ここら辺はずいぶん開けてるな。見た感じ、魔物もいないし……魔石を取って帰ろう」

 アルは魔石の前に立つと、静かに剣を構えた。

 次の瞬間、剣先が見えないほどの速さで刃が振り下ろされ、音もなく魔石が断ち切られる。

 「このくらいでいいかな」

 切り取った魔石を手に取ると、腰のポーチへと丁寧に収める。

 目的を果たしたアルは帰路につこうとした――が、そのとき、背中に何者かの視線を感じた。

 気のせいだと思い込み、そのまま来た道を戻っていった。

 

 家に着くと、そこにクレアの姿はなかった。

「まだ集めてるのかな」

そのうち帰ってくるだろうと思い、アルは少しの間眠ることにした。

今日はいつもより早く目が覚めてしまったのだから、仕方がない。

 

 数時間が過ぎ、目を覚ます。けれど、家を見渡してもクレアの姿はなかった。

 「もう夕方なのに、まだ帰ってないのかな」

アルは、クレアを探しに行こうと外に出る。


 「クレア、大丈夫かな」

 クレアを探し、一心不乱に歩いていると、少し開けた場所に、ひときわ大きな木が根を張り、周囲の木々を見下ろすようにそびえていた。その木下で、クレアは、静かに眠っている。

 クレアのそばに膝をつき、そっと頬に触れる。

指先に伝わるぬくもりに、アルは思わず微笑んだ。

「帰ろう、クレア」

そう呟いて背中に抱き上げると、クレアが小さく寝言をこぼす。

「ふふ……アルの匂い」

アルは苦笑しながらも、どこか嬉しそうに目を細めた。

 

 外がすっかり暗くなった頃、アルは家にたどり着き、背負っていたクレアをそっとベッドに寝かせた。

 その場を離れようとしたアルだったが、クレアに袖をつかまれて足を止める。

 「まって……アルもいっしょに寝る」

 寝ぼけた声でそう言うクレアに、アルは苦笑しながら答えた。

 「そうだね。もう寝ようか」

 明日の旅の準備はまだ残っていたが、今はこの時間を優先しよう。

 クレアに誘われるようにして隣に横たわると、クレアは静かな寝息を立てながらこちらを向いて眠っている。

 「おやすみ、クレア」

 アルはそう呟き、目を閉じた。


 

 

 

 

 


 

 

 

 


 

 


 

最後まで読んでいただきありがとうございます!

投稿頻度は、あまり高くないと思いますが

是非読んでいただけたらなと思います!(^°^)

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