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告白

 今がチャンスだ。

 第二騎士団が他のモンスターの相手をしている間に、王子の俺がブルードラゴンを倒す。

 倒すなと言われているが、それは弱い奴らの言い分だ。

 モンスターなど、いないほうがいいに決まってる。

 あの女から手柄てがらを横取りして、俺の方が優秀だと皆にしめすのだ!



 最初から、気に入らなかった。

 女のくせに騎士団長?

 家の権力で得た地位じゃないか。

 一度も俺に勝てたことない奴が、チャホヤされるのが気にくわない。


 きっと俺なら、ドラゴンだって一人で倒せる。

 念のため、この国一番の冒険者と言われるレンギョウとやらも連れていく。



 じつはあの時、父上に報告した商人を城の出口でつかまえて、話を聞いた。「〔守護神〕は白い髪」と言っていた。ヤツが見たのは夜だ。白とは限らない。薄く黄色がかった髪のレンギョウで間違いないだろう。

 アイリスの鼻を折ってやるのが楽しみだ。




「大変です!

 ブルードラゴンに見つかりました!!」




 兵士が叫ぶと同時に、ブルードラゴンが兵士の背中を黒い爪でつらぬいた。

 地面に血が広がる。



 なんだこれ、なんだこれ、なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれ…………。



 いとも簡単に人が死んだ。

 魔法をくらったわけでもなく、キバで引き裂かれたわけでもなく、すぅ~っと飛んできて爪でちょっとつついたぐらいの動きだった。

 兵士だけでなく、護衛の騎士も次々に黒い爪で刺された。しかも、鎧ごと。



「王子! 先手必勝です!!」



 この国一番の冒険者とやらが何か叫んでいる。

 どうやら、ブルードラゴンと戦えと言っているようだ。

 護衛の騎士たちも次々と死んだのに、そんなことできるか。



「あんなヤバい奴とやれるか!

 やりたいならお前がやれ!!」


「あんたが、“俺はやれる”と言ったんだぞ!!

 俺ではブルードラゴンにはかなわないと、逃げるのがやっとだと、前もって言っただろ!?」


「じゃぁ、お、俺を逃がせ! 命令だ!!」


「はぁ?

 ……王族がこの町のために一肌脱ぐと言うから来たのに、最悪だ」






◇◇◇◇◇




 橋に着くまでに、ブルニアは花をみながら歩いた。

 町の人からは、‟ちょっと変な人“という視線を向けられたが、気にならなかった。


 あんまりたくさん摘むと、「大好きです!」という感じが出すぎるような気がするので、左手で軽く握れるぐらいにしておいた。

 アイリス騎士団長のことが大好きなのだが、町長の「びっくりして反射的にことわられてしまう可能性がある」という言葉が頭から離れない。

 びっくりさせない程度の花束にしたかった。



(このぐらいの量なら、毎日贈れそうだ)



 毎日、花束を贈ることを想像すると、胸がはずんだ。

 好きな人に毎日会える。

 この町の〔煙突掃除人〕で良かったと思った。


 小さな町なので、煙突はそんなにない。一日一件ぐらいの仕事しかない。だいたい午前中で終わる。なので、代々の町長が〔煙突掃除人〕に橋のそうじの仕事をくれた。冒険者が必ず渡る橋。モンスターの討伐に来たアイリス騎士団長も必ず渡る。

 夕方になれば、彼女に毎日会える。そう思うと、とても幸せな気分になった。



 今日は欄干らんかんから、橋のそうじをすることにした。

 花束を渡す場所を少しでもキレイにしたかった。

 毎日そうじしているので充分じゅうぶんキレイだったが、ブルニアは橋が輝くようにしたかった。雑巾ぞうきんを握る手に力が入る。


 橋のそうじの間に、どうやって花束を渡すかも練習した。



「これ、どうぞ。ここに来る間、キレイに咲いているのを見かけたんです。

 アイリスさんの髪の色のようだったので、あなたにあげます……。

 あ、“あなた”!! ____あなたなんて、キザかな?」



 一人で真っ赤になって、また橋のそうじに戻る。

 それをり返していた。



「この花はアイリスさんのようだ____って、アイリスさん!?」



 第二騎士団が、徒歩で森から帰ってきた。

 白い鎧は汚れきって、みんな疲れてフラフラだった。

 ライオンのたてがみのようなアイリス騎士団長の髪も汚れて、ボサボサになっている。



「アイリスさん!! 何があったんですか!?」


「いやぁ。ちょっとがんばりすぎただけだ」



 はにかむアイリス騎士団長の後ろから、みんなと同じようにボロボロのバイモ副騎士団長が現れ、「王子に余計なことをされないよう、モンスターを今日一日で討伐した」と説明してくれた。



「それにしても、橋でブルニア殿に会うと安心するな。

 剣も魔法も使えないブルニア殿が立ってるだけで“、あぁ、ここは安全なんだな”と安心できる。みんなが〔煙突掃除人〕を見てはしゃぐ気持ちもわかる」



 フラフラでも、気を遣ってくれるアイリス騎士団長は本当に優しいとブルニアは思った。


 ふと、彼女の視線がブルニアの右手に止まった。

 右手には、アイリス騎士団長に贈る予定の花束が握られている。

 ブルニアの手が震えた。

 いざ渡そうと思うと、途端とたんに緊張してきた。

 よくない想像が頭を駆け巡る。



道端みちばたで摘んだ花なんて、いらないと思われるかも。

 やっぱり、花屋で買えばよかった。

 そもそも、俺から花をもらって喜んでくれるだろうか?

 でも、今、渡さなかったら、他の誰かへのプレゼントと勘違いされるかも)



 アイリス騎士団長の視線は、まだ花束にあった。

 彼女の頭が少し後ろにかたむく。「あぁ、もしかして……」と何かをさっしたような表情になった。誰かへのプレゼントと思われてそうだ。

 ブルニアは、他に好きな人がいると勘違いされるぐらいならと、花束を持った右手を突き出した。

 手がさらに震える。



「あ、アイリスさん! こ、これ、どうぞ!!」



 言えた!

 言えたが、目を開ける勇気が持てない。


 嬉しそうな顔をしているだろうか?

 嫌そうな顔をしているだろうか?

 驚いた顔をしているだろうか?

 軽蔑した顔は、できたらしてほしくない。


 ブルニアの頭の中で、ぐるぐるぐるぐる想像が駆け巡る。

 しかし、アイリス騎士団長が何も言わないので、そっと左目を開けてみた。

 続いて右目も開けてみる。

 彼女は、マジメな顔をしていた。



「ブルニア殿、ありがとう」



 心からの感謝を述べたアイリス騎士団長は、そっと花束を受け取った。

 そして、右手で花を一凛いちりん抜き取ると、花を、食べた。



「あ、アイリスさん!?」


「団長!?」



 これには、ブルニアだけでなく、バイモ副騎士団長も驚いた。

 他の団員は、不思議そうな、不安そうな顔をしていた。



「やはり、この花は魔力回復に良い。

 ブルニア殿はすごいな。

 魔力がないのに、知識が深い。

 それに、よく私が魔力切れだとわか______

 ?

 みんな、どうした?」



 アイリス騎士団長は、ブルニアが救護に来てくれたと勘違いしているようだった。

 まさか、道端で摘んだ花が魔力回復に良いなんて知らなかった。さすが冒険者の町だなと、ブルニアはうっすら思った。


 とりあえず、今日はこれでいい。

 明日、違う花を摘もうと決めた。

 すぐに思いに気づいてくれなくてもいい。

 彼女がいる間、毎日花を贈っているうちに少しずつ気づいてくれれば、その間に体を鍛えて強くなれる。 

 まぁ、一週間や二週間でどこまで強くなれるかわからないが、それでいいと思った。



「団長。きっと、そういうのではありません。

 一般に、男性が好きな女性に贈るものと思われます」


「というと?」


「ブルニアは団長のことが恋愛対象として好きだから、花束を贈ったのだと思われます」



 バイモ副騎士団長が、これ以上ないくらいに丁寧ていねいに解説してくれた。

 ブルニアは顔が真っ赤になった。

 ここまで丁寧に、自分の想いを解説されるとは思わなかった。



______びっくりして反射的にことわられてしまう可能性があるよ?



 町長の言葉が頭をよぎる。



(もしかしたら、バイモ副騎士団長もアイリスさんのことが好きなのかもしれない。

 だから、みんなの前で俺の気持ちをさらして、この恋をつぶしに!?)



 嫌な想像ばかりしてしまう。

そりゃあ、ずっと側で支えてきたのに、〔煙突掃除人〕に先を越されるのは悔しいだろうなとも思う。邪魔したくもなるものだ。


 バラされたらしょうがない。

 計画は狂うが、いつかは言うつもりだったのだ。

 照れて、咄嗟とっさに「そんなつもりじゃない」とウソをつくのだけは嫌だ。そう思うぐらい、ブルニアはこの恋を大切に思っている。






「……はい。確かに、俺はアイリスさんのことが好きです」






 言った。

 言ってしまった。

 アイリス騎士団長の反応を見るのがとても怖い。

 やはり、町長の言う通りびっくりして、とりあえず振られるのだろうか?

 ブルニアは、恐る恐るアイリス騎士団長を見た。


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