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アイリス


 最初は、兄に遊んでほしかっただけだった。

 かまってもらうため、兄と一緒に、父から剣を習った。


 剣をにぎってみると、予想以上に楽しかった。

 っていると、「これが正解の振り方」と感じる瞬間がある。剣が軽くなり、自分の体が大きくなったような感覚。くうを切っているのに、確かに何かをしっかりと切りいたという手ごたえ。これを体験すると、世界がきらびやかに見えた。「今の感覚をもう一度」と繰り返していると、気付けば兄より強くなっていた。


 15歳になると、父の率いる第二騎士団に入った。

 20歳で父の後を継ぎ、第二騎士団の団長になった。

 異例の速さの出世のため、周りの大人があせった。


 私が他国に嫁いだら、国の損失になるそうだ。

 なので、王子の婚約相手にされた。そんなことしなくても、私は国外に嫁ぐ気はない。結婚できるかも怪しい。命を奪うのが好きというわけではなくて、ただ、剣を握るのが楽しかった。



「王子、お手合わせをお願いいたします」



 剣を握って大きくなったので、王子とのデートは剣の稽古だった。



「はっはっはぁ! アイリス。俺の勝ちだ!!」

「負けました」



 第二騎士団長の私が本気を出すわけにはいかない。

 うっかり王子を殺してしまったら、大変なことになる。だから、「王子としてこれだけ強ければ充分」という基準を自分の中に作って、毎回戦った。



「それ、デートというより、王子に稽古けいこつけてるだけですよね?」



 バイモ副団長には、そう言われた。

 王子とはどんなデートをするのか聞いてきたので答えたら、そういう感想だった。

 手合わせするたびに王子は強くなっていくので見ていて楽しかったし、王子も楽しそうなので良いじゃないかと思った。



「アイリス。お前が騎士団長になれたのは、親のちからだ。

 伯爵家に生まれなかったら、父親が第二騎士団長でなかったら、お前はこんなにもてはやされない。覚えておけよぉ?」



 ある日、王子にそう言われた。

 周りの人は、私は充分強いからと、気を使って厳しいことを言わない。

 だから、王子のこの言葉に感動した。



「お前にはピンクが似合わんなぁ? 無理にフリフリのドレスを着るのはやめろぉ」



 王妃様が選んでくれたドレスだったのだが、言いにくいことを、ズバッと言ってくる。

 私も、ちょっと私には似合わないのではないかと思っていた。そうか。断ってもよかったのだと理解し、心が軽くなった。


 恋愛というものはよくわからないけれど、なんていい人なんだと思った。

 お互いを高めあう夫婦になれるのではないのかなと思った。



 剣ばかり握っていたので社交の場は苦手だった。

 パーティーに参加したとき、王子の妹君にあいさつにいったら泣かれてしまった。



「ひどいですわぁぁ!!」


「いったいどうしたんだ!?」


「お兄様!

 アイリス様が私を“お前なんか、お飾りの野菜だ”とおっしゃるんです!!」



 とてもキレイな黄緑色のドレスだったので、「新鮮なレタスのように、あざやかなドレスですね」と言ったのがまずかったらしい。

 私としては最上級に一生懸命ほめたつもりだったのだが、伝わらなかった。

 王子にとても怒られた。



「こんな女と結婚して、外交なんかできるかぁ!

 父上、婚約を白紙にしてください!!」



 そうだろうなと思う。

 私に外交は向いてない。

 王妃なんて、もともと私には無理なのだ。

 せっかく期待してくれたのに、こんな私で申し訳ないと胸が痛んだ。


 それでも、婚約は白紙にならなかった。

 今まで王子には、何人もの婚約者がいた。

 だが、王子は相手の欠点を見つけると不機嫌になり、婚約を白紙にしてきた。なので、私との婚約を解消したら、次の婚約者候補がいなかったのだ。






「アイリス! お前との婚約を破棄する!!」






 先週、ついに王子から婚約破棄を言い渡された。

 剣しか能のない私なので、仕方がない。



「そして、このビバー姫を俺の婚約者とする!!」



 王子はすごいと思った。

 自分で次の婚約者を見つけてきたのだ。

 周りがすすめる婚約者が合わないなら、自分で探し出すとは素晴らしい!

 この国は安泰あんたいだ。






「すまない。アイリス。

 彼女は隣国の〔パデル王国〕の姫なのだ。

 とても大きい国がゆえ、気をつかわなければならん」


「いえ、素晴らしいご決断だと思います」


「本当にすまない。

 しばらくは、王都にいるのは辛いだろう。

 国境付近のモンスターの討伐に行ってみるかね?」



 婚約破棄は気にしてなかったのだが、王様が気遣ってくれるのは嬉しかった。



「商人のウワサでは、コルピーレの町には〔守護神〕がいるそうだ。

 その人物を探し出し、力をかりるといい」











 こうして私は、コルピーレの町に来ることになった。

 〔守護神〕に会っていそうな冒険者に聞いても、〔守護神〕についてわからなかった。

 誰もが「〔煙突掃除人〕のことじゃないかな」という。町長もだ。

 〔煙突掃除人〕に会うと、幸せがおとずれるとか、ラッキーだとか言うそうだが、私は迷信めいしんの話をしているのではない。


 もしかしたら、商人だけが見ているのだろうか?

 わからないのなら仕方がない。

 まずは、町の近くの森の入口あたりからモンスターを減らして、ゆっくり〔守護神〕とやらを何日かかけて探すつもりだった。


 なのに、王子が来たため、早く結果を出さなければならなくなった。

 しかも王子は〔ブルードラゴン〕を倒すつもりでいる。

 コルピーレの町は、〔ブルードラゴン〕の恩恵おんけいを受けている。

 倒されては困るし、王子の身に何かあってはいけない。人の話を聞くお方ではないから、とにかく作戦を進めなければならない。











「____……!!

 ……ょぅ! ______団長!!」



 バイモ副団長の叫び声で目が覚めた。


 そうだ!

 今はモンスターの討伐中だ!!



「すまん! 私はどのぐらい気を失っていた?」



 言いながら、魚系のモンスターに拳をねじ込む。

 〔ブルードラゴン〕の影響でこのあたりは水が豊かだ。川に住み着くモンスターもいっぱいいる。パープルカープに、グリーンカープ。まだらカープと、鯉のモンスターだけでも種類が豊富だ。


 中でも一番やっかいなレッドカープの群れに、今まさに襲われている。一匹一匹の体がデカいうえに、団結力があるのがやっかいだった。

 剣はとっくに折られ、みな素手で戦っている。気を失っているものも何人かいた。



「くそっ! どんどん追い込まれていく」



 川から離れても、陸地を跳ねながら追ってくる。

 どこからかパープルカープが矢のようにこちらに飛び込んできて、次々と地面に刺さった。

 いっそのこと山を登ってみると、カープの群れは追いかけてこなくなった。






「ずっどーん!!」






「なんだ!?

 このにぶく重たい音は!?!?」



 大きな音と共に、辺りが暗くなった。

 見上げれば、一匹の巨大なオレンジカープが私たちの頭上を跳んでいた。

 オレンジカープの跳躍力ちょうやくりょくはすごい。「ドラゴンも飛ばなければ捕まえられない」と言われるほどだ。



「団長!! あんなのが落ちてきたら全滅です!!!!」



 どうやって回避する!?

 剣はもうない。

 素手や木の枝を使って戦っている。

 私も団員たちもボロボロだ。






____お守りにちょっと……アレを分けてくれないか?






 ふと、きのうのことを思い出した。

 さわらなくても、魔力が高いのがわかる強そうな冒険者だった。筋肉もしっかりついていた。剣の腕前もなかなかのものだろう。そんな人物が、ほしがる〔お守り〕。

 新人のためとはいえ、時間に余裕がないと言いつつも、ほしがっていた。



「団長! 急に考え込んでどうしたんですか!!」


「……そういえば、あいつは私の動きについてきていたよな?」


「は!? いったい何のことですか!?」



 巨大なオレンジカープの体が、ゆっくり落ちてくる。それでも〔煙突掃除人〕のことで頭がいっぱいだった。






____すみません。宗教の話はちょっと……






 信仰には、うといようなことを言っていた。

 そんな人間が〔お守り〕を配るか?

 これは絶対、何かある!!


 私はふところに入れた〔お守り〕を右手で掴み、「バッ!」っと取り出した。



「そうだ! これは〔お守り〕なんかじゃない!!

 今は使われないが、魔法の杖の素材になる〔ハシバミの木〕だ!!!!」



 残った魔力を全て右手に込め、思いきり叫ぶ。






春雷繚乱スプリングサンダー・プロフュージョン!!!!!!!!」






 呪文を唱えると、まぶしく荒々しい光が森を走り抜け、「バチバチ」とこの辺りにいたカープを黒焦げにしていった。


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