手をとる
〔パデル王国〕の姫は、ボロボロのドレス姿でも目がギラギラしていた。
「国民のために命を落としたから、誇らしいことなのん!!」
「国民のため? 侵略戦争が?」
「さっきも説明したじゃないのん!
〔パデル王国〕は疫病が流行して住めないのん! 移住するしかないのん!! ず~っとそうやってきたのん!!
これだからバカはキライなのん!!!!」
姫の言い分だと、疫病が流行するたびに侵略戦争をしかけるということになる。
新しい土地に行けば、疫病はないかもしれない。あまり学がないブルニアだが、なにか違うような気がした。
それは、根本的に何の解決にもなっていないように思える。
「ずっと逃げ続けるということか?
いつか侵略する土地もなくなるんじゃ……?
疫病がどうして流行するのか考えた方が____」
「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!」
〔パデル王国〕の姫は会話を打ち切り、近くに倒れている兵士の剣を取った。
そして、勢いよくブルニアに切りかかる。
(早い! 剣の扱いになれている)
何の迷いもなく、次々と的確にブルニアを切りつける。
ワイヤーブラシで受け止めるが、いつまでこの速さに耐えられるかわからない。
「あははははは!
驚いたぁ?
ビバーが崇拝する〔暗黒聖女〕は剣も使えるそうだから、猛特訓したのよん♡
下級騎士なんかに負けたりしないんだからぁ!」
剣とワイヤーブラシがあたる音が鳴り響く。
人と戦うのは初めてのブルニア。
モンスター相手なら何の遠慮もなく戦えるが、相手は女性のうえに隣国の姫。
かすり傷をつけただけでも国際問題だろう。
攻撃を何とかかわすだけで精一杯だった。
「ブルニア殿、〔正対〕だ!!」
アイリス騎士団長が叫んだ。
剣の扱い方は習えなかったが、敵との向き合い方は教えてもらった。
(常に敵の真正面で構える……!)
ブルニアは攻撃が来るたびに、敵の真正面を意識して向きをかえた。
隣国の姫は小柄な体を上手く使いこなし、攻撃の手を止めない。
(……大丈夫)
アイリス騎士団長と町長の言葉を思い出す。
二人とも内気な自分のことを「強い」と言ってくれた。
(俺は強い!!)
ブルニアは攻撃をかわしながら、一瞬の隙をついて姫をワイヤーブラシでぐるぐる巻きにした。
「くぅぅ……。下級騎士に負けるなんて屈辱的ぃ……」
〔パデル王国〕の姫は、涙を流し、心の底から悔しそうに転がった。
本当に国民のことを思っての行動だったのだろう。
「あなたの国を想う気持ちは素晴らしいと思います。
でも、何か違っている気がするんです。
兵士も国民の一人じゃないかと____」
「じゃあ、どうすれば良かったのん!!
日に日に国民は減っていくし、城に仕える者まで病気で倒れる!
一刻を争う事態なのん!!」
姫が泣き叫ぶと、姫の左頬にあったハートのホクロが「ヒラッ」とめくれた。
〔つけぼくろ〕だったらしい。
ハートのかわいらしいホクロの下には、シミが隠されていた。
「……ふん。見えてしまったのん……」
ブルニアもアイリス騎士団長も、シミをじっと見つめた。
普通のシミとは何かが違って見える。
彼女のシミは、日焼けによるそれではないようだ。
「…………ビバーも……疫病に、侵されてしまったのん……。
もう寿命は長くない……ビバーが死ねば、〔パデル王国〕の王族は途絶える。国が亡ぶということよ?
だから!
生きている間に!!
動けるうちに!
少しでも多くの国民を救いたかった!!」
国民のことを想い、涙する姫。
彼女の言うことが正しいように思えた。
だからといって「どうぞ侵略してください」なんて言えない。
「侵略ではなく、助けを求めればいいと思います」
「……流行遅れの田舎の国に、何ができるのよ」
「でも、疫病は流行っていません。
プライドを捨てて、力を合わせるべきです。
あなたは、王子の婚約者です。この国のみんなが力になってくれます。
微力ですが、俺もあなたの国に行って力をお貸しします」
「……え? 来るの? ビバーの国に?」
隣国の姫の目が、突然丸くなった。
とても不思議そうにしている。
「疫病だらけの国に来るの?」
「え……まぁ……俺のできることは〔そうじ〕ぐらいでしょうけど……。
俺、〔煙突掃除人〕なので…………」
「エントツ?」
「はい」
「騎士じゃないの!?」
「はい。俺は剣も魔法も使えません」
「召喚師でもなくて?」
「あぁ、亡霊のことですか?
あれは、彼らにお願いしただけです」
剣も魔法も使えない者に負けたのかと、姫は驚いた。
「まぁ、いいわ。
ビバーの国は道路にゴミがいっぱい落ちてて汚いから、亡霊のみんなとキレイにしてほしいのん♡」
隣国の姫がブルニアの左腕にとびついた。
上機嫌で腕をからませてくる。
「お前とはもっと早くに出会たかったわん♡」
「え、あ、あの……」
女性からこんなにも近寄られたことがなかった。
ブルにはどうしたらいいのかわかず困っていると、アイリス騎士団長が間に入ってきた。今度はアイリス騎士団長がブルニアの左腕をそっと持っている。
「姫、私もブルニア殿と〔パデル王国〕に向かいます」
「えぇん? あなたは来なくてもいいのよん?
この国を守らないといけないでしょん?」
「ブルニア殿は私の罪を半分背負ってくれるそうなので、離れるわけにいきません」
「ふぅん。そうなのん♡」
隣国の姫は「ふふふふ」と笑った。
どうやら、からかわれていたらしい。
笑いながら姫は川の近くで倒れているワタ王子の所まで行き、ピタッと笑うのをやめた。
「ほら、お前もビバーの国にいくのん!」
「え? 俺も!?」
「何回ビバーとイチャイチャしたと思ってるのん!
お前も疫病に感染しているに決まってるのん!
助かりたいなら、国をあげて協力するのん!!」
こうして、〔シュラーゲン王国〕と〔パデル王国〕の二つの国は、協力して疫病と戦うことになった。
ブルニアのそうじのスキルは思った以上に大活躍した。
町がキレイになると疫病の進行速度は低下し、とても感謝された。
特効薬も作られ、完治する人が増えていった。
〔パデル王国〕の姫も完治し、ワタ王子との結婚式も行われた。
ブルニアも結婚式によばれ、アイリス騎士団長と参加することになった。
町長に「パートナーにドレスを贈るんだよ」とアドバイスをもらい、彼女に似合いそうなドレスを探した。
「ぴ、ピンクのドレスを贈られるとは思わなかった」
アイリス騎士団長は、かつてワタ王子に「ピンクのドレスは似合わない」と言われた過去があるため、とても驚いた。
ブルニアはそのことを知らないので、不思議に思った。
「? 女性はピンクが似合うと思います。
その……とてもお似合いです」
顔を赤くしてブルニアが答えたので、アイリス騎士団長はお世辞を言われているわけではないと理解したようだった。
「アイリスさんの黄金の髪はとても魅力的なので、それをさらに引き立てるドレスがほしいとお店の人にお願いしたんです」
定番の濃い目のピンクではなく、薄めのピンク色をしたドレスは、ブルニアが言うようにアイリス騎士団長の髪をよりステキなものに見せていた。
「____そうか。
ピンクが似合わないんじゃなくて、私に似合うピンクじゃなかっただけか」
「え? 何か言いました?」
「ははは!
こんな高そうなドレスを贈ってくれるなんて、ブルニア殿はお金持ちだなと言ったんだ」
アイリス騎士団長は、そっとブルニアの手をとった。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!!
鐘が鳴る町で煙突掃除人が戦うとカッコイイだろうなと思いながら書きました。楽しかったです。
締め切りを作るっていいですね。そのおかげで最後までたどりつけました。




