思いよ届け
「誰か、力を貸してくれぇぇぇぇぇえ!!!!」
ブルニアが期待したのは、コルピーレの町にある墓場で眠る人たち。
彼らの墓をそうじしたことはないけれど、町のピンチに駆けつけてくれるかもしれない。
…………そう思ったがダメだった。
町の住人の墓は、うんともすんとも言わなかった。
「……やっぱりダメか」
一度も彼らの墓をそうじしていない。
仕方がないことだった。
ブルニアは焦った。
ブルードラゴンの足元では、アイリス騎士団長が〔パデル王国〕の兵士を逃がそうと必死に動いている。
このままでは、彼女もブルードラゴンに踏みつぶされるかもしれない。
「だれか! 誰でもいい。力を貸してくれ!!」
______一回だけだよ?
小さな声が聞こえた気がした。
ブルニアの声と重なっていたので、よく聞こえなかった。「一回だけ」と言っていたような気はするが、「何を?」と考えていると地面が盛り上がった。
どんどん景色が変わっていく。
ブルニアはブルードラゴンの背中に乗ったまま、押し上げられた。
『グワーッ』
地面だと思っていたそれは、〔カモ〕の大群だった。
〔魚〕もたくさんいる。
〔カモ〕と〔魚〕の群れでできた巨大な波。
煙突の下にあるのは、暖炉か窯。
彼らは、コルピーレの町の住人に調理された〔食材〕だった。
彼らにとってみれば、暖炉や窯は火葬場。
そこをキレイにそうじする煙突掃除人が必死に願うなら、一度だけ手を貸してもいいと言ったのだ。
小さな協力者たちは、大きな波となり、ブルードラゴンの親子を森の登り口まで流していった。そのとき、ブルードラゴンのこどもに巻き付けられていたロープがほどけた。
ブルードラゴンは何が起きたのかよくわかっていない様子だったが、我が子を見るとくわえて山へと帰っていった。
「アイリスさん!!」
ブルニアはブルードラゴンから飛び降りて、急いでアイリス騎士団長を探しにもといた場所に走った。
第二騎士団は川辺に倒れ、疲れきって休んでいるようだ。
生き残ったパデル王国の兵士は、橋の近くの木にもたれかかっている。
やっと見つけたアイリス騎士団長は、横たわるパデル王国の兵士の側にうつむいて立っていた。
ブルードラゴンに踏まれて、命を落とした者たちだ。
両手を握りしめ、震えている。
きっと泣いているのだろう。
ブルニアは、そっと彼女を抱きしめた。
「私がはしゃいで魔法を使わなければ、彼らはブルードラゴンから逃げられた。
ちょっと脅すだけでよかったのに、力に溺れてしまった______」
「侵略しに来た人たちです。
ちょっと脅したぐらいじゃ、彼らは帰りません」
「……私は人殺しだ」
誰もアイリス騎士団長が彼らを殺したとは思わないだろう。
それでも、自分のせいだと言うのは彼女が優しいからだ。
どう言えば「気にしなくていい」と伝えられるか、ブルニアは必死に考えた。
今、彼女の頭の中は罪悪感でいっぱいで、何を言っても否定されそうな気がした。
「たとえそうであっても、あなたは変わらず優しい人だと思うし、俺はあなたが愛おしい」
抱きしめた腕をほどいて、ブルニアはアイリス騎士団長の右手の指先にそっとふれた。
「俺にも半分背負わせてくれないだろうか?」
「……え?」
「この瞬間でさえ、花束を渡したときと同じようにあなたのことが大好きだ」
アイリス騎士団長は、さらに目に涙をあふれさせてブルニアの胸におでこをつけた。
愛おしさに胸がいっぱいになる。
ブルニアは気づいていなかったが、右手の指先はしっかりと握り返されていた。
「ふん! 何をイチャイチャしてるのん!!
敵国の兵士のことで、メソメソしすぎなのん!!」
完全に忘れていた〔パデル王国〕の姫が、ボロボロのドレス姿で現れた。




