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虹かけるメーシャ   作者: 藤巳 ミタマ
職業 《勇者》
75/76

75話 慈悲深き者

 イノシシの頭、ヒト型の上半身、ドラゴンの翼と下半身を持った全身が血の色のモンスター"オーカス"。

 その巨体は30mを超える高さ、オーラ量は元のオークロードとは比べるのもおこがましい程絶大で、原初たるウロボロスや魔王の能力を模した()()のチカラを操る。


「──素晴らしい!!! これが、この姿が、このチカラこそが!! ああ……私は御使様の……御使様のお手伝いができるのですね!!」


 オーカスは天をあおぎ、チカラに酔いしれ、輝かしい未来を想い涙した。その姿はまさに敬虔(けいけん)であり、まっすぐであった。


「これがオーカス……! くっ……目がかすむ……それに、身体の力が抜けて……」


 圧倒的質量のオーラのせいなのか、それとも『覇王』の特性なのか、姿を目の当たりにした瞬間ワルターたちは思わず膝をつきそうになってしまう。

 身体が重い。いや、軽い? 抵抗しようとすれば何十倍もの重力がかかったかのように重く、しかし流れに身を任せてひざまずかんとすればその圧力はウソのように消える。



「……おやおや、なにか居ると思ったら……ああ、愛おしい! 一歩を踏み出せずにいる迷い子たちではありませんか。恐れずとも良いのです、こちら側に来なさい。私たちは歓迎しますよ」


 オーカスは耐えるしかできないワルターたちを見るや、慈悲深く優しい目と声で諭す。絶大なチカラを手に入れた全能感と目覚めという名の盲信が、オーカスに()()()の『愛』を芽生えさせたのだろう。



 ただしばらくの沈黙の後、一行がなびかないのを見てなにか気が付いたのか、満面の笑みで再び口を開いた。


「おお……これは失礼。私が至らぬばかりに、迷い子を困らせてしまったようだ!

 ()()()()といえど、新しい世界に……未知なる世界に踏み出すのは恐怖が伴う。すぐに受け入れられなくて当然です。……そうか、御使様は私にこの子たちを導けと言うのですね?

 覇王として目覚めた初めての試練……先導者としての、チカラがここで試されるということですね!」


 オーカスは喜びに酔いしれて震える。

 その時ドス黒いオーラが全身から漏れ出て、触れる草木が枯れて大地が腐ってしまう。やはり、ラードロ同様このオーカスもこの星にとっての毒なのだろう。


「……この地に害を及ぼす貴方にくみするわけがないでしょう!」


 アメリーが必死に耐えながら声を発する。


「おやおや、不信感を与えてしまったようですね。ですが、安心してください。

 ……たしかに、この地は一度このように命を終わらせます。しかし……ほら、よく見てください。私のチカラを分けてあげると、このように()()()姿()をもってよみがえるのです。素晴らしいでしょう?」


 オーカスの言うとおり、エネルギーを注がれた大地は姿を変えて、邪気を放つ毒々しい泥のようになってしまった。

 草木もオーカスに似た邪気をまとう、樹木型モンスターへと変化する。


「ギシャァア……」


 凶悪な人面を持つ樹木型モンスター。しかし、オーカスの命令を待っているのか、無闇にワルターを襲わずその場で待機している。


「どうでしょう? 少々姿が変わって驚かれたと想いますが、この姿になれば目が覚め、チカラが溢れ、幸せに包まれ、世界が輝いて見えるのです。……しかし、気が付いてしまうのです。

 この世界は素晴らしい……ですが、争いにまみれ、悪意が飛び交い、慈悲も踏みにじまれる悲しみに満ちた世界でもあると。

 ──だからこそ救いたい!

 この世界からそのような悲しみを無くしたいのです!!」


 オーカスは感極まり涙を流すが、それでも語るのをやめない。まるでそれが使命だと言わんばかりに声を絞り出す。


「我らが主であるゴッパ様ならば、ゴッパ様が世界の大王ととなれたならば、迷い子たちを導き悲しみを消し去ることができる。

 なのに、邪竜ウロボロスは我らが使命を汚し、貶め、世界に混沌を招こうとするのです。ああ、なんと嘆かわしい……! 真なる世界はもうそこまで来ていたと言うのに……。

 ……さあ、刃を納めて手を取り合いませんか?

 主のため、私や御使様とともに……邪竜を倒し、世界から悲しみを無くしましょう……!」


 それはまさしく慈悲の笑顔だった。

 だが、決して相入れない存在であった。

 邪神が勝てばこの世界は滅び、生命は目の前にいる樹木型モンスターのように操り人形になってしまう。悲しみは目の前からは確かに消える。だが、それは目を背けているに過ぎない。

 洗脳され、盲目的に前を向き、星を滅ぼしていく。

 恐怖から逃れるため、悲しみを消すためにとはいえ、大きすぎる代償をともなう提案である。


「すごい魅力的に感じるのは、邪気に当てられてるから……なんだよな。相手を知らずに出会ったなら、さすがの俺ちゃんも騙されそ。

 ……ま、そうはならなかったし、もちろん倒すけどね」


 ワルターはすでに圧力に適応していた。

 ワルターの持つ覇王の宝石のおかげか、ウロボロス教会で男のおかげか、その勇気のおかげか、オーカスのチカラの前でも自由に動けるようになっていたのだ。


「フフフフ……私に剣を向けるのですか」


 ワルターに攻撃の意思を示されたオーカス。だが、それに驚くでもなく、怒るでもなく、悲しむでもなく、ただただ余裕を持ったまま微笑みを見せる。


「一歩を踏み出すのに、今と決別するのに背中を押して欲しいのですね? 

 あなたは今、不安に駆られている。その先の道が()()()()ではないと、信じきれていないでいる。

 ……良いでしょう、全力でぶつかってきなさい。私も全力で応えましょう!!」


 オーカスとの戦いが始まった。




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