71話 始まる儀式と供物
朽ち果てた旧城砦の地下の一室にて、杖を持ちローブをまとったイノシシ頭のモンスターが、部屋の中央に鎮座した暗闇にうやうやしく拝礼する。
「──御使様、ただいま参りました……。命令とあらばこのオークロードめに何なりと」
しわがれた声が部屋に響く。
オークロードとは、オーク系モンスターの最中でもっとも知能が高く魔法も得意とする最上位種である。そして、この軍においてラードロに次ぐ高官であり作戦のかなめだ。
「……オルクスがなす術なく倒れた。それだけではない。ブラックハイオークが進化せぬよう、事前に魔石も破壊しているそうだ……」
暗闇からまがまがしく揺らめくドクロが浮かび上がる。
それは黒いドロが混ざり合うように固まっていき、次第にローブをまとった死神のような姿に変わる。
邪神ゴッパの側近"サブラーキャ"だ。
「……耳にしております。軍が壊滅するのも時間の問題かと」
自軍が壊滅する……その言葉とは裏腹に、オークロードの口元は笑っていた。
「人間どもを供物にするつもりだったが……オークロード」
「ははっ……。ではオークたちの魂を使い、とり急ぎ覇王の儀式を執り行います」
オークロードは狂気的な笑いに顔が歪み、喜びに身体が震えつつも、声ばかりは冷静を保とうと努める。
ラードロに狂信的なオークロードは、己の存在が役に立つばかりでなく、破滅という果実をこの手に入れられる喜びに狂喜しているのだ。
「して、御使様……人間どもは……どうしましょう?」
荒ぶる息を必死に抑えながらサブラーキャに尋ねる。
「好きにすると良い」
魂が足りなければ人間から補っても良いが、覇王にさえなれれば後は用済み。己の力を試すため蹂躙するか、無視して次の作戦に入るか、はたまた街を襲って恐怖を植え付けるか、全てはオークロードに委ねられた。
「ありがたき幸せ……! 目覚めた者は大いなる御使様のためモノ言わぬ傀儡とし、愚かにも天に弓引く者どもは……"覇王"を更なる高みへと昇らせる供物とさせて頂きます……!」
オークロードは狂喜に身を委ねて鼻息を荒くし、全身を震わせ、顔を歪め、よだれを垂らしながらこの部屋を後にした。
「覇王の更なる高み……か、野心家め。魔王のチカラをそうやすやすとは扱えまい。とは言え、チカラはチカラ……もしチカラに呑まれたなら、その時は我が道具として使ってやろう……」
サブラーキャは不敵に笑ったが、すぐに怒りに満ちた声色に変わる。
「だがまずは、目障りなウロボロスの飼い犬を始末せねば……」
そして暗闇は地下から姿を消したのだった。
* * * * *
「──っしゃー! 全員突撃だし〜! あーしに続け〜!!」
「「「「「「ぅおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」
メーシャは大軍を率いて広い荒野のど真ん中でオークの大軍と正面衝突していた。隊長ではないものの、リーダー的立ち位置で実質的に先陣を切っているのだ。
「皆さん、討ち漏らしは僕たちが担いますので、まっすぐ進んでください!」
「キュキュ一キィー!」
ヒデヨシとサンディーが左舷を。
「あっし達も負けてらんねぇぜぃっ!!」
「俺も久々に暴れまわるか!」
アレッサンドリーテギルド本体から分かれた灼熱さんと、虎の獣人大剣使いでありギルドマスターのデイビッドが右舷を担っていた。
戦況は大きく動いており、メーシャはオルクスを倒した後別働隊と合流しながらオーク軍を倒していき、分散していた小隊は全て壊滅。
雪だるま式に討伐隊も大きくなり、戦力をそろえたメーシャ達は砦も瞬く間に落としていった。
「マーティンさんのとこイイカンジだよ! サンディーそこは大丈夫そうだから100m後方に近付いてきてるのお願い!」
オークも魔石でクローンを増やして迎えうったが焼け石に水の状態で、この状況に危機感を覚えたオークたちは散らばった軍を集めて総攻撃を仕掛けることにしたのだった。
「ヒデヨシ、そこのオルクスまかせた! カーミラちゃん、前衛が疲れてきてるから隊列の入れ替え手伝って! デイビッドさん灼熱さん、隊列組み替えで倒し損ねが増えるからサポートお願いね!」
「「「おおおおおお!!!」」」
ただ、トゥルケーゼギルドとが攻めている砦だけは籠城の構えを守り、ワルターは攻めあぐねて こう着状態になっていた。
そう、この砦こそオークロードが守る砦であり、覇王の儀式が行われる祭壇がある場所である。そして、今こそその覇王が生まれようとしていた。
しかし、それを知っているのはまだサブラーキャとオークロードのみ。
「みんな、あと少しだよーっ! がんばって! ──"雷霆・ステロペス"!!
……オレちゃん先輩の隊からの連絡ないけど大丈夫かな? 砦に結界もあるらしいし、苦戦してんなら手伝ったげないとか?」
戦いながらメーシャは思案する。
こちらの戦いはもう時間の問題。それにメーシャが抜けてもカーミラがいるから問題ない。
ならば、攻め手に欠けるワルターの方に加勢した方が被害を抑えられるはずだ。
それに、まだ"覇王"が出現してないことが気になる。
もしみんなの気が緩んだ瞬間や、疲労が限界に達した時に不意打ちされれば一気に壊滅させられる……なんてことも否定できない。
「……やっぱ、移動すっかな。──カーミラちゃん!」
メーシャはオークを倒しながら後方のカーミラに声をかける。
「はいっ!」
「あーしトゥルケーゼギルドんとこ加勢するから、ここ任せて良いかな?」
「……邪神の幹部も覇王も出てきてないし、砦が静かなのも不気味だし……そこになにかありそうなのは確かだもんね。……分かった。ここは大丈夫だから行ってきてあげて!」
カーミラはすぐに状況を察してメーシャを見送ることにした。
「ありがとう! じゃ、行ってきます!」
メーシャはカーミラに隊を任せると、自分に風魔法をかけて砦の方へ飛んでいくのだった。




