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虹かけるメーシャ   作者: 藤巳 ミタマ
職業 《勇者》
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64話 上位者の思惑

「私どもは別次元の世界の住民で、フィオールのような低次元の住む住民と比べて自らを()()()と呼んでおります。

 おっと、ピンと来ていないご様子! では、もう少し分かりやすく言うなら……古の時代に知恵を授けた時は『神』と、光の王が誕生した時は追いやられ『邪神』と、管理者として動いた時は『悪魔』と、そして……家畜たるあなた方の資源を回収するために降りた今は……『盗っ人(ラードロ)』と呼ばれる存在であります」 


「──ラードロ!?」


 そのピエロはまさかのラードロであった。

 そして、自らを高次元の空間の存在だと言う。真偽のほどは分からないが、力量も目的も分からない現状下手に刺激しない方が良さそうだ。

 欲を言えば、少しでも情報を引き出したい。


「ええ……不本意ながらそう呼ばれております。そして、私めの名前は"ハッフ=ワルフ"……あなた方のご活躍を同胞に伝え楽しませ、時に一助をするエンターティナーのような存在です。ニンゲンの皆様も動物のドキュメンタリーはお好きでしょう? それと似たようなものです。ああ、気軽に"ワルフ"とお呼びください」


 つまり、ハッフ=ワルフと名乗るこのピエロは、さっきの『家畜』という発言含め、フィオールに住む者全てを動物のように扱っているという事なのだろう。


「ふむふむ……同胞たるゴッパを助けずなぜヒトを助けるのか気になっているところでしょう。知りたいですか?知りたいですよね?」


 ワルフは楽しそうにウインクをしてワルターの次の言葉を待っている。


「……ああ、ワルフちゃんが教えてくれるなら。オレちゃんも色々気になってるし」


 ひとつひとつ慎重に気を抜かないように言葉を発するワルターの背中には冷たい汗が一筋流れ落ちる。


「ゴッパはウロボロスの宝珠を手に入れた今、世界征服の野望への道は磐石(ばんじゃく)でしょう。その上ゴッパ自身は慎重で、正直に申しますと……フィオール(こちらの)民は形勢不利。

 そのまま行けば順調すぎて面白みに欠けます。

 なので、少しばかり手を貸し、物語をより良いものにしようとこの度こちらへ参らせて頂きました」


 ワルフはそう言いながら素早く手を動かし、リッチが取り込んだ金色の宝石を手品のように出現させた。


「ウロボロスのチカラは荒れ狂う海のように掴みどころがなく、完全にコントロールするのはゴッパと言えど難しい。実際今もチカラこそ取り込んだものの本領は発揮できておりません。そこでゴッパは考えたのです。

 ウロボロスのチカラは原初の魔法。7つの属性に分かれる以前のチカラ。……そして、先ほどリッチも申しておりました『魔王のチカラ』とは7つの属性を収束させ、つかさどり、支配する存在。

 ですが、あいにく魔王は400年前にかたく封印され、今も生きる英雄が守っております。それを突破し、魔王ゼティフォールを復活させ、我が駒とし、ウロボロスのチカラをコントロールさせるのは至難の業。

 ……ならばそのチカラを生み出してしまおう……というのが、今回の作戦であります」


「……!」


 ワルターがまばたきした一瞬でワルフがそばまで近付き、宝石をおもむろに手に握らせてきた。


「オークはその魔王のチカラを生み出すための実験体。そして、成功すればその個体に魔王のチカラをコントロールさせる。

 ただまあ、本来の魔王のチカラともなればそれだけでウロボロスのチカラに匹敵するものなので、もちろんオークどもでは扱い切れませんでした。と言うことで、少し精度を落として性質が似た、まがいものを作った……」


「それが、この宝石……?」


「話が早くて助かります。

 ……その、魔王にこそ及ばないがそれに準ずるチカラをオークの上位個体に取り込ませることで、さらなる上位個体を生みだし、ゴッパ軍全体をウロボロスのチカラで武装しようと企んでいるんですねえ。

 名付けて『()()・オーカス』……次の戦いであなた方が乗り越えなければならない相手です」


「覇王……」


「ちなみに、その戦いにはもちろん……この作戦の指揮官である私とは別の上位者……"サブラーキャ"も参戦しますのでお気を付けください。戦力を集中させすぎると、別部隊が壊滅……な〜んてことになりますからねえ」


 ワルフは心底楽しそうにケタケタと笑う。この者からすると、どっちに転んでもエンターテイメントでしかないのだ。


「この宝石は大切なものなんだろ、オレちゃんに渡していいのか?」


 説明するなら見せるだけで良かったはずなのに、ワルフはワルターに握らせた。その真意は何か。


「いくつか作っているんですよ、既に。オーカス用は既に確保済みですのでご心配なく」


「じゃあ、オレちゃんにどうさせたいんだ?」


「そちらの陣営にも戦える方はいるようですが、オーク軍は膨大でその上オーカスまで出てくるとなれば少々辛い戦いになるでしょう?

 なので、先ほどのリッチとの戦いを経て才能を見込み、その石をあなたに差し上げます。必要な時がもし来た場合、どうぞご使用ください」


 リッチは暴走していたが、ワルターなら扱えるということだろうか?


「罠かい?」


 怪しさしかないこのピエロから、危ない石を貰ってはいそうですかと信じるのは難しい。


「そう思うならそれでも構いませんとも。実際、現在のあなたでは同じ末路を迎える可能性は高い。ですが、何か打開する方法はあるはずですよ」


「……分かった。これはありがたく貰っておくことにするよワルフちゃん」


 もし使えなかったとしても何かの手掛かりにはなるはずだ。


「この程度の試練でつまずいてもらっては困りますからね、期待していますよ。では……長々とお話ししてしまいましたし、これくらいでお暇させて頂きます。さようなら、今の時代の英雄さん……」


 そうしてワルフは不敵に笑うとその姿がゆらめき、一瞬の内に跡形もなく消えてしまったのだった。


「覇王オーカス、魔王のチカラ、ハッフ=ワルフ……。それとこの宝石を解析しないとな」


 あと、この宝石を万が一使うことになるなら、リッチの二の舞にならない方法を探さなければならない。


「魔王のチカラでウロボロス様のチカラを支配と言うなら、その逆も……って、それができたら困らないよなぁ〜……」


 緊張の糸がほぐれたワルターは、そうぼやきながら仲間のアメリーやメーシャが待っているトゥルケーゼの街へ帰っていくのだった。



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