62話 アンデッドを統べる者
トゥルケーゼ近郊の廃れた古い墓地。
トゥルケーゼが再開発された数十年前に使われていた墓地であり、長らく放置されていたが近年魔力が溜まり、その魔力を吸った土地が遺体に影響を及ぼし、ゾンビ、スケルトン、ゴーストなどのアンデッドを発生させているという。
そして、そのアンデッドによる被害が冒険者だけでなく街道を進む商人町人にまで達したことで、これ以上は放置できないとトゥルケーゼの役人と冒険者たちが動きだし、近々土地の浄化作業をすることになっている。
「──浄化するのって来月だっけか、それまで間に合わなかったか〜」
そう呟きながら墓地に繋がる道を進むのは、メーシャの冒険者研修を請け負ってくれた髪の毛がツンツンのチャラい男、通称オレちゃん先輩こと"ワルター"。
「対象はリッチか……。久しぶりのオオモノでドキドキしちゃうじゃん? ま、リッチと弱いアンデッドくらいならすぐ終わるっしょ」
そう、今回の依頼は『墓地に現れたリッチの討伐』である。
リッチとはゴーストなどの実体がないエレメント系の幽鬼型モンスターの上位種であり、見た目はローブと王冠をかぶった骸骨のような姿で大きな鎌を持っている、いわゆる死神のような姿をしている。
リッチはゴーストとは違い魔法だけでなく物理ダメージも与えることができ、周囲の死体をアンデッド化し操ることもできるので、放置すれば動物もヒトもモンスターも関係なく襲ってアンデッド化し、どんどん勢力を大きくしていくので早めの対処が要求される。
* * * * *
件の墓地にて。
『──さァ……よみがエレ……!』
リッチが手をかざし、おどろおどろしい黒いオーラを地面に注ぎこむ。
「「「……ア゛……ア゛ァア……」」」
すると、地面から無数の白骨化した手が伸びて、うめきながらスケルトンが外へ出てきた。
『──出てくるのだワガ、しもべヨ……!』
リッチは次に口から黒い霧を吐き出し、その闇から数えきれないほどのゴーストを呼び出した。
無数のアンデッドたちは優に数百を超え、今もなお数を増やしていくがそのどれもが自我のないリッチの操り人形のような状態である。
『これデ……御使様も我を……』
リッチはそう呟くと、アンデッドたちを連れてトゥルケーゼ方面へ進み出す。
リッチはこの個体が独自の組織を作っているのではなく、より上位の存在に仕えているようだ。
「──はい、そこのキミ元気? 良かったら、このオレちゃんとどっか行かない?」
その時、リッチ軍団の前にひとりの男が現れた。
『……キサマ、我の邪魔をするか』
リッチは警戒の色を強め、その暗いオーラがより深くなる。
「邪魔だなんて……。オレちゃんは的にはトゥルケーゼじゃなくて、誰もいないとこで遊ぼってお願いしてるだけなんだけどなぁ」
ワルターがポリポリと頭をかく。
『御使様に選ばれるべきハ、オークどもではなくこのリッチである……! 我が道をはばむナラ、トゥルケーゼの者どもの前にキサマから手駒に変えてヤロウ……!』
御使様とやらは、最近勢力を伸ばしているオークと関わりがあるようだ。
「……とりつく島も無いってまさにこの事って感じ? オレちゃん面倒ごとは嫌いだしできれば穏便に済ませたかったんだけどな……ま、ダメもとだったし覚悟決めるかぁ〜」
ワルターは肩をすくませてため息をつきながらも、腰にある剣を抜いて全身に魔力をまとわせた。
『サァ我が駒たちヨ……仇なす者を葬るのダ!!』
──ガァア……!!!
リッチのひと声でアンデッドたちが動き出す。
「──全体中級炎魔法!!」
ワルターは慣れた様子で炎魔法を発動。
踊り狂う火炎の渦は迫るアンデッドをなぎ払い、爆発を起こして周囲一帯を炎の海に変えた。
「ウガアア……!?」
魔法を受けたスケルトンは骨が灰に変わり、その身体を崩壊させてしまう。
しかしゴーストたちは実体のないエレメントゆえに、ダメージこそ受けたものの倒し切るには至らなかった。
「……でも、コレで終わらないのがオレちゃんのすごいとこ!
──付与魔法・中級雷魔法!」
全身と片手剣に雷をまとわせ、ワルターは電光石火の勢いで高速移動。すれ違いざまにその雷の刃でゴーストを斬り伏せていく。
「──ゥヴォオオオ!!」
後ろに控えていたゴーストが詠唱を終えて、ワルターに向かって初級闇魔法を発動した。
いくらワルターが一気に数十の敵を倒しても、アンデッドはまだまだ存在しているのだ。
「ま、そうなるよね……!」
闇の弾はワルターに向かって追尾して飛んでくる。初級の魔法なので一撃の威力こそ低いだろうが、敵の量も量なので1度隙を見せれば数百の魔法が一斉に襲いくるのは目に見えている。
何か対処をしなければジリ貧になって返り討ちだ。
「……よっと!」
自身の足にまとわせた雷で地面を弾き、瞬間移動レベルの速度で移動して攻撃をかわしていく。とは言え、圧倒的物量の前に少しずつ逃げ場を失っていき、ワルターは少しずつ追い詰められていく。
「動ける場所も無くなり、無数の魔法もワルターという1点に集まり、絶体絶命の危機……と思うじゃん?」
ワルターは冗談ぽ笑うと2種類の魔法を発動。
「──初級水魔法! ──初級地魔法!」
水魔法で地面にぬかるみを作り、地魔法でドーム状の壁を展開した。一時的に自身を守るシェルターである。
これである程度の攻撃から身を守れるだろう。が、ワルターの策はここから本領を発揮する。
「──全体初級雷魔法!」
弱い雷魔法を四方八方に撃ち出して闇の弾全体を感電させる。多少はこれでかき消される弾もあるものの、全体を見れば焼け石に水であり、もちろんこれで掃討できるとは思っていない。
「だから、こうすんのよ。──"初級炎魔法"」
放たれたのは爪の先程度の火種だった。
風が吹けば今にも消えそうなほどの小さな火種であった。だが、ひとつの闇の弾に触れたその時、その策の秘めたる牙がどれだけ鋭いものかアンデッドは思い知ることになる。
大爆発。
電気が炎を吸い寄せて、触れれば火花を散らしながら燃焼し、そしてその火花が周囲にある電気を帯びた闇の弾に触れてまた燃えていく。
それはまさに爆発というべき勢いで広がり、周囲のアンデッドごと闇の弾を消し炭に変えていった。
『──こしゃくナ……!』
吸い寄せる性質を持っている闇属性がその爆発に拍車をかけ、すさまじく広がる炎を前にさすがのリッチも己を守ることに手一杯。しもべのアンデッドを消されていくのをながめることしかできない。
「こんなもんかな……」
敵はリッチのみになった頃、涼しい顔のワルターが地魔法のシェルターから外に出てきた。
「グヌヌ……もはやキサマは手駒にせぬ。我が直々に葬り、その魂を喰らってやるわ……!!」
己のしもべを消され、プライドを傷つけられ、計画と野望を邪魔されたリッチは怒りを爆発させる。
「……リッチちゃん、そんなに怒ったら足元すくわれるよん? まあ、オレちゃん的には仕事がすぐ終わるからありがたいけどさ!」
ワルターの剣先が光り、リッチの陰ををとらえた。




