61話 真・ダンテ焼き屋さん タコタコ
たこ焼きやさん、もとい『真・ダンテ焼き屋さん タコタコ』リニューアルオープン当日。
「──おばあちゃん、具材の準備はできてる?」
「う、うん。でも、こんなに必要かねえ……?」
「多くても冷蔵庫に入れたら数日、アイテムボックスに入れとけば腐らないから大丈夫」
朝の8時前、メーシャと店主であるおばあちゃんは開店前の最終確認をしていた。
材料となる食材200食分の不足がないかや痛んでいないか、キッチン周りの器具と家電に不備がないか、エプロンやバンダナがちゃんとつけられているかなど。
ちなみにこの数日で家電は一新し、ボウルやコンロ周りの使い慣れた器具はメーシャがウロボロスのチカラで汚れとサビを奪い去ったり、歪んだ部分を直したりしてピカピカ。看板も新しく作り直し、お店前も掃除して電飾で飾り付け、『最後尾。〇〇分待ち』の看板と名前と個数を入力できるタブレットを念の為に用意している。
「一応魚屋さんにストック用意してもらってるからある程度は良いけど、想定以上に売れた場合は連絡して集めてもらわないとだから早めにね」
メーシャがここまで入念に準備し、そして来店が多くなることを想定しているのには理由がある。
数日前からヒデヨシと灼熱さんが広報活動してくれているおかげか、大通りやギルド、魚屋さんに漁業関係の建物に看板を立て、パンフレットも用意してネットで宣伝もしたおかげか、商店街の人と常連さんの口コミのおかげか、それとも全てが功を奏したのか、開店前だと言うのにお店の前に十数人並んでいるのだ。しかも、半分はご新規さんだ。
それと、いつもはガラガラな商店街なのに、活気にあふれる……とはいかないものの、通行人も少しずつ増えていっている。
「ここまで頑張ってくれたメーシャちゃんが言うなら、それに従うかね。おばあちゃんは、精一杯頑張ってダンテ焼きを焼くからね!」
おばあちゃんは冗談っぽくピックをクルクルっと回す。
「よし、じゃあ時間が来たら開店だ──」
● ● ●
「──いらっしゃいませ! はい、タコの中濃ひとつとエビのチリソースひとつずつですね! 少々お待ちください。……おばあちゃん、タコ中エビチリ!」
「はいよ!」
開店から1時間後、リニューアルオープンした『真・ダンテ焼き タコタコ』は良い滑り出しだった。スタートダッシュの人も合わせると、1時間で約50食以上売り上げているしまだ並んでいる人もいる。
しかし、最初の勢いもじょじょに弱まり、商店街を見回してもダンテ焼き(たこ焼き)を買ってない人はほとんど見当たらない。
「……お待たせいたしました! タコの中濃ソースとエビのチリソースです!」
「電子決済で」
「はい。ではこちらの端末にスマホ型魔法機械をかざしてください。……はい、ありがとうございました! (…………思ったより少ないな。どこか流れがとどこおってるのかな?)」
そんな疑問を持ちつつも、メーシャは並んでいるお客さんの対応し、少し手が空いたら生地の液を混ぜたりレジの点検をしていった。
「……やっぱそうか。SNSの方では良い感じの反応も食べたお客さんの感想も届いてるけど、そもそも場所が分からないとか、商店街に来たことがないとかで入りずらさを感じてる人も少なくないな」
少しして、メーシャはスマホで情報を集めていた。時刻は11時、お昼の稼ぎ時までには客足を回復させたい。
「人気は人気を呼んで、人気は人気を呼ぶ。どうにかして人を増やせないかな……」
「ヒデヨシちゃんと灼熱さんちゃんは、呼べないのかい? あの子らとっても面白いし、可愛らしいから呼べるんじゃない?」
おばあちゃんが提案する。
ヒデヨシと灼熱さんはここ数日の間、街の広場で漫談(地球で見た噺家の受け売りだが)、お悩み相談、ダンス、火の輪くぐりみたいなサーカス的パフォーマンスと色々チャレンジしているのだが、それがなかなかウケが良くて街の人がダンテ焼きにも好意的になっていた。
もしここに広場の人をそのまま呼ぶことができれば大盛況間違いないだろう。しかし、ヒデヨシたちは人気とはいえ知名度がなく、こっちに移動したと発信してもバズらない限りネットで引っかかる可能性はゼロに近い。
それに、1番人通りの多い広場から離れてしまうと人の目につく数が激減してしまう。
「あの子らのおかげでお客さんが途切れにくくなってるわけだし、できればヒデヨシと灼熱さんは広場にこのままいて欲しいかも。
でも……どうにかして目印というか、このお店を見つけやすくできないかな?」
「大通りからここまでは入り組んでるし、商店街もさびれちまってるから難しいねえ……」
そうしてふたりが悩ませていると、ふとカウンターの方で声が聞こえてきた。
「ダンテ焼きふたつ、くださいな!」
「あ、はーい! ……あれ?」
声が聞こえたと行ってみたものの、周囲にその声の主が見つからない。
「ん、気のせいか? でも、きこえたとおもったんだけどなぁ……聞いたことあるような声だった気もするし、どゆこと?」
メーシャが困惑して首を傾げていると……。
「──なう!」
カウンターの端っこに毛がふわふわの小さな白い猫が飛び乗った。
「えぇ、猫がしゃべったってこと!? …………あ、ヒデヨシもしゃべってるか」
メーシャが頭を切り替えて納得しようとするが、そこにまた小さな影が現れた。
「しゃべったのはこっちなんですな!」
カウンターをロッククライミングするみたいにして登ってきたのは、以前メーシャに魔本と指輪をくれた恩人(?)であり、ローブを着たしゃべる大福こと……魔法使いの"チャピ"だった。
「おお、ひさしぶり! チャピのおかげで魔法順調だよ、ほんとありがとね! そだ、ダンテ焼きだったね。具材とソースはどうする? てか、ネコちゃんはお友達?」
メーシャは知ったる顔を見てホッとしたのか、チャピに話しかける声も少し弾んでいる。
「それは良かったですな。具材はタコでソースは中濃ソースをふたつで。
こっちのネコはこのチャピの古くからの親友で名前を"ぴーころ"というんですな。ちなみに肉弾戦が得意で、あの魔王ゼティフォールの武術の師匠ですぞ」
「ははは。魔王かーじゃあすんごい強いんだね、ぴーころちゃん」
「なうん?」
ぴーころは首をかしげたような素振りを見せると、あくびをしてそっぽを向いてしまう。
チャピはなんかとんでもない事を言っていたが、ぴーころからは迫力のようなものが一切感じられないしきっとそういう設定だろう。
「メーシャちゃん、できたよ!」
お話をしている内におばあちゃんがダンテ焼きを用意してくれたようだ。
「おばあちゃんありがと! ……はい、ふたりともおまたせ〜。そだ、ふたりはここの出身? それともどっかから遊びに来たの?」
メーシャがダンテ焼きを袋に入れてチャピに渡す。
「出身は魔王国なので、出身ではないですな。チャピたちは元あった仕事がなくなって時間が空いたのでバカンスをしておりますぞ」
魔王国とは元々"魔王ゼティフォール"が治めていた国であるが、魔王が四英雄によって封印されてからは勇者ゼプト率いる英雄たちによって復興、現在は世界有数の魔法機械大国となっている。
国も豊かであるため休暇期間は海外でバカンスするのがポピュラーだという。
「そうなんだ! いいね!」
「実は友人がダンテ焼きが好きでしてな、お店もしていたほどで。まったく、懐かしいですな。まあ、理想の味にはならなかったみたいですが、あれはあれで美味しかった」
「ほえ〜。やっぱ、ダンテ焼きにはみんな苦悩してんだね」
「今ちょっと味見して良いですかな?」
チャピが袋の中を覗きながらメーシャに尋ねる。
「今他にお客さんいないし良いよ」
客足がお昼を前にして完全に途切れてしまったが、慌てても何かが上手くいくわけではない。
今は目の前のお客さんを大切にしようとメーシャはそう思った。
「いただきますぞ。…………これは!」
チャピが少し驚いたような表情を見せる。
「どったの? タコは珍しかった?」
「なう?」
チャピの声に、うとうとしていたぴーころも目を覚ました。
「いやはや……。これは、友人が語っていた理想のもの……正確には子どもの頃食べた忘れられない味とやらの情報と似ていますな」
「マジ!? なんか、めちゃ嬉しんだけど」
メーシャは嬉しくて思わず笑みがこぼれてしまう。
「マジですな! ただ、友人いわく、ソースの上に薄っぺらいヒラヒラ動くやつが乗ってて、それを噛んだらなんか美味しかったとか」
「ヒラヒラ……? カツオ節のことかな?」
今回カツオ節を安定供給はできないので上には乗っけていなかったのだが、ここ異世界フィオールにも似たようなものを乗せていたのだろうか。
たくさんの人に振る舞うほどはないが、チャピが食べる分くらいは余裕であるのでメーシャはかけてあげることにした。
「はい、合ってるかは分かんないけどカツオ節どぞ」
「ぉお〜!」
すると、カツオ節はたこ焼きの上で踊り出した。
「良かったらお友達にも分けてあげて」
メーシャはカツオ節の小袋を魔法陣から取り出してチャピに渡す。
理想そのものではないかもしれないが、少しでも近いものを食べられればインスピレーションも湧くかもしれないし、何より笑顔になれるかもしれない。
「……あ、それは難しいんですぞ」
「なう」
だが、チャピもぴーころも少し困った顔になってしまう。
「なんで?」
「友人はずいぶん前に亡くなっておりましてな、それにアンデッドにもなっていないので食べるのは厳しいですぞ」
「そっ……か、食べられないのは残念だ」
「まあ、その内蘇生しても面白いかもですな。あやつも何かあったら起こしてくれと、転生もしていないですからな!」
しんみりしていたメーシャとは裏腹に、チャピは楽しそうに笑う。
「え? ああ、そう……かも?」
言い出した本人が楽しそうで、メーシャはしんみりして良いのか笑って良いのか分からず困惑してしまう。
この世界では死というものが割とカジュアルなのだろうか?
「そう言えば、お客さんが少ないみたいですな。こんなに美味しいのに」
ダンテ焼きの残りを魔法陣に収納しつつチャピが残念そうに呟く。
「うん。道がわかりづらいのと、商店街のさびれ具合が近寄りがたいみたいでさ、ヒデヨシたちが集めた人たちがこっちに流れてこないみたい」
ヒデヨシたちの集客力とダンテ焼きのポテンシャルがどれだけ高くても、立地が良くなければどうしようもない。
「むむ。そう言えば、広場で人だかりができてましたな。……それで、お困りなんでしたら、その方々をこちらに呼び寄せますぞ?」
チャピがまたとない提案をしてくれた。もし本当なら乗らないわけにはいかない。
「良いの!? てかできるの?!」
メーシャは前のめりでチャピに確認する。
「できますぞ〜! 美味しいダンテ焼きを食べて気分が良いですからな、そのお礼もかねてド派手に行きますぞ!」
チャピはそう言うや否やどこからともなく杖を取り出し、空に向けて勢いよく魔法を放った。
「ド派手に?! って何する──」
──ヒュ〜…………ドーン!! ボボボボドーン!!
魔法の花火だった。
ひとつ目はたこ焼きっぽい模様を描き、ふたつ目は矢印で現在地を指し示し、他の小さいものはデフォルメされた魚やタコなどの魚介類の形になっていた。
「ついでにいきますぞ! ──そいや!」
チャピは次に地面に向けて魔法を放つ。
すると、地面がホワホワと光だしたかと思うと『真・ダンテ焼き屋さん タコタコ』の前からスゥーッと伸びていき、大通りと商店街をつなぐ道標になった。
「こんな器用に魔法ってつかえるのか……。すご」
チャピの魔法技術の凄まじさをまざまざと見せつけられ、メーシャは感動で言葉を失ってしまう。
「すごいねえ……!」
おばあちゃんも目がいつもの倍くらい見開いている。
これで道がわからないなんてことはなくなるはずだが、チャピの魔法はまだ終わらない。
「それそれそ〜れ!」
さびたシャッター、お店の色あせたテント部分、劣化して変色した看板などがみるみる内に色鮮やかになる。そして、閉まっているお店のシャッターと壁に動物モチーフの可愛らしい感じのマスコットキャラクターの映像が映し出された。しかも楽しげな音楽付きである。
「おお……! テーマパークみたいになっちゃった」
『──なんだなんだ……!?』
その変わりようにメーシャたちだけでなく、他のお店の人たちも驚いたのか外に出て来た。幸い、悪い印象ではない。
「──もしかしてここかな?」
「そうじゃないか? だってお店まで光が続いてるし」
どうやら道に迷っていた人たちがチャピの魔法に導かれてお店まで来れたようだ。
「やっと来れた!」
「おお! 商店街ってこんなだっけ!?」
「ダンテ焼きって丸いB級グルメでしたっけ?」
「ヒデヨシさんの言ってた場所ってここか」
ふたり、5人、10人、20人……商店街に入っていく人たちはまだまだ増えていく。
「効果絶大じゃん! ……あ、おばあちゃん! ダンテ焼きの準備しないと!」
「ああ、そうだねえ! こりゃ働きがいがありそうだ! じゃんじゃん焼くからレジはお願いね」
久しぶりに見たであろう大量のお客さんに、おばあちゃんの職人魂は火を付けられたようだ。
「いらっしゃいませ〜! こちら本日リニューアルオープンした真・ダンテ焼き屋さんのタコタコで〜っす! 美味しいダンテ焼きいかがですかー!」
迫り来る大群を前にメーシャはの声にも思わず気合いが入る。
「面白くなって来ましたな」
「なう」
「乗り掛かった船ですから、最後まで付き合いますぞ!」
「なうなうにゃー!」
そしてチャピとぴーころはカウンターの左右に分かれ、チャピは注文をとったり列の整理を、ぴーころは招き猫的な役割と待ち時間の退屈さを緩和してくれた。
「んで、あーしは受け渡しと会計をすれば良いわけだね! ありがとふたりとも!」
「なぁう!」
「どういたしまして! ではさっそく、具材が白身魚でグリーンソースをひとつですぞ!」
「りょうかい! ……では、先にお会計お願いします!」
「すぐに用意するからねえ」
やることが割り当てられ、それぞれが作業に集中できるようになったおかげで効率がアップ。お客さんもどんどん増えて、ノルマである200食もあっという間に達成してしまった。
● ● ●
12時半ごろお店のストックが無くなり追加してもらったが、お客さんは途切れる事を知らず14時時過ぎにもまた材料が枯渇。無理を言って色んな商人の皆さんにお願いしてダンテ焼きの材料をかき集めてもらった。
「──メーシャさん、材料の追加です! 冷蔵庫に入れときますか?」
「ありがと! すぐに使うから、おばあちゃんの横に置いてて!」
「はい! 他に足りなくなりそうなものがあったら今のうちから準備しときますよ!」
「……じゃあ、小麦粉お願いして良いかな!」
「すぐに持ってきます!」
● ● ●
そして、客をさばき続けて午後17時。
「──や、やっと終わった……」
ようやく閉店時間まで戦い切ることができた。
「初日だから休憩もそこそこにして売り続けたけど、今後も続けるならもっと人数もいるし休憩時間もいっぱいいるわ……」
カウンターの窓を閉めるだけ閉めて、疲れ切ったメーシャはその場で座り込んでしまった。
「ここまで忙しいのは産まれて初めてだったよ」
おばあちゃんはなんとか椅子を引き寄せて座る。
「チャピも流石に疲れましたぞ。それで、従業員はいつ集まるんですかな?」
チャピはぴーころのもふもふの背中の上で寝っ転がる。
「えっと、一応希望者は20人くらいいるけど面接とか教育とかあるから、実際に働けるのは1週間後。でも、その間のフォローをアメリーさんとワルターに頼んだから、明日から飲食経験のある人が来てくれるっぽい」
メーシャはカーミラにも頼んでみたが、どうやら騎士や兵士に飲食と接客ができそうな人材はいなかったとのこと。
「それは助かるねえ……。それは調理もできる人もいるんだよね?」
おばあちゃんは筋肉痛の右手を見つめる。
「もちろん。じゃないと、おばあちゃん休憩もお休みもなくなっちゃうからね」
「では、一件落着。ですな」
「だね」
「なう!」
こうして長い1日が終わった。
後日、チャピの道標と映像の魔法は後日再現できるよう専用の魔法機械を用意した。
メーシャも従業員が育つまで手伝い、材料の発注のやり方とか作業の順序とかの引き継ぎ作業を全部やった後、お店からひとまず離れることにしたのだった。
* * * * *
のちにメーシャは会社を立ち上げ『真・ダンテ焼き屋さん タコタコ』をチェーン展開しメーシャが社長に、おばあちゃんが会長に。そして、このダンテ焼き屋さんは人気を博し世界に羽ばたくことになるが、それはまだ先の話である。




