60話 誇りにかけて
「──よっしゃあ!! じゃ、何の憂いも無くなったところで大暴れだァ!!」
言うが早いか、シグムンドは背後に展開した無数の魔法陣に両腕を突っ込み、爆発矢が装填されたふたつのボウガンを取り出すと、睨みつけるタコの顔面に向かって射出した。
「…………!」
──ドドゥオンッ!!
ほぼ同時に着弾し爆発。タコは足で矢を防いでいてダメージはなさそうだ。しかし──
「──想定内。次はこれでどうだ!」
爆発の粉塵とガードのために足を出したことで、巨大タコはシグムンドの接近を許してしまう。そして、今度は曲剣を取り出してタコ足を攻撃。
「硬いな……。だが!」
薄皮1枚切っただけで、まるでヤスリで削られたように剣の刃が無くなってしまったが、シグムンドはすかさず数十本の剣を射出し、同じ所を切っては剣を捨て、切っては剣を捨てを繰り返し乱れ切り。
「はい、1丁あがり!」
シグムンドはみごとタコ足を1本切り落とした。
この間2秒。しかも、何度も切り直したにもかかわらず、切り口はまるで切れ味の良い包丁でスッと切ったかのように美しい。
ただ、油断していたタコも大人しく全ての足を切り落とされるほど寛容ではない。
「──!!」
タコ足で勢いよくなぎ払う。
船に気を使う必要のないゆえに勢いは凄まじく、まさに破壊の一撃。
「……それなら!」
シグムンドは2mもあろうかという大盾を魔法陣から取り出し、どっしり構えて薙ぎ払いをガード。後ろに押されて床が多少削れたものの、衝撃を全て受け切ったおかげで船も破壊されずに済んだ。
「──シグムンドさん! あーしが魔法とかスキルで船を守るから気にせず戦って!」
メーシャが少し離れた所で叫ぶ。
憂がないと言ってはいたが、流石に船が大破してしまえば船内のクルーも自分もメーシャも海に放り出されてしまう。だから、シグムンドはほぼ無意識的に船を傷付けない戦い方をしてしまっていたのだ。
ただ、メーシャは魔法とウロボロスのチカラがある。
地魔法を船にかけて頑丈にしたり、風や水でいなしたりできるし、それでも壊れそうな攻撃が来てもウロボロスのチカラで船へのダメージを無くすことができる。なので、シグムンドは船が沈没するのを心配しなくて良いのだ。
「……おっと、オレとしたことが眠い戦い方してたみたいだな」
シグムンドは肩を軽く回し一度深呼吸して気持ちを入れ替えると、獰猛な捕食者の目付きになり、毛は逆立ち、なり燃えたぎるようなオーラを噴出させた。
「起こしてくれてありがとうよ、メーシャさん。もう大丈夫だ」
言葉通り今までの雰囲気とは一変して、シグムンドはまさに目を覚ました虎のようだった。
「……!!」
タコが隙ありと、すかさず足で叩きつける。が、シグムンドは背中のスケールシールドを素早く取り出し、回転するように攻撃をいなしてしまう。
「くくっ。攻撃にコシが入ってないぜ? それじゃオレに届かねえ」
シグムンドはギラリと笑う。
「──!!」
タコは何かの間違いだと、今のはきっとマグレだと自分に言い聞かせるように何度も何度も何度もシグムンドに攻撃を仕掛ける。なぎ払い、叩きつけ、押し出し、しかし全ての攻撃が通り過ぎてしまう。
スケールシールドでズラされ、最低限の一歩だけで回避され、首を曲げただけで攻撃が素通りしてしまい、タコはシグムンドの存在が実は幻なのではないかと錯覚してしまうほどに攻撃が当たらなかった。
「……っ!!」
正攻法では通用しないとさとり、マストを折って投げつけようと試みる。が──
「ざんねん! そうはさせないよ!」
マストはメーシャの魔法で岩石のコーティングがなされてビクともしない。ヒデヨシからもらったブローチのおかげなのか、その岩石の硬度は鋼の数十倍を誇るミスリルのクラスまで達していた。
「…………」
万事休すか。いつもなら快勝できない相手なら撤退し、不意打ちのもと沈めるのがセオリーだった。今回群れの仲間を襲っわれたがゆえに仇撃ちと覚悟を決めてきた。
しかし、ここまで戦況不利ではどうしようもない。ここで己まで命を落とすのは目の前の男の思うツボ。
ならば、やる行動はひとつ。
「…………!!」
タコは思い切りスミを吐いて視界をくらまし、すかさず海に飛び込もうとした。
「──っ!?」
だが、何かが前をはばんで逃げられない。いや、正確には進めるが、進んでいくと呑み込まれそうになるのだ
「逃がさないよ〜!」
そう、タコの前を塞いでいるのはメーシャのオーラだ。
このオーラはウロボロスの"奪う"特性が適用されているので、そのまま進めばそのままアイテムボックス行きである。
──逃げられない。
タコはようやくその事実に気が付いた。
最初から負けていたと言うことだ。
この船に乗り込んだ時点で? 違う、シグムンドの船を襲うと決めた時点でだ。
「……!」
タコは戦うしかないと覚悟を決める。もはや負けと決まっていたとしても、シグムンドに傷のひとつでも負わせたい。
「おいおい、考えごとをする程ヒマなのか?」
殺気。
「──!?」
この身にナイフのように突き刺さった殺気に反応して、間髪入れずにタコスミを吹き出す。
しかし、投げられたスケールシールドがスミを弾いてしまい、シグムンドの接近を止めることができない。
「切り刻んでやるぜ」
同じ曲剣だった。だが、切れ味は先ほどと比較にならず、瞬く間にタコ足が1本細かく切り刻まれてしまう。
「……っ!!」
次にタコは2本の足を使って挟み撃ちを試みた。
「ふん……!」
シグムンドはナイフを数本投げ、迫るタコ足を船にはりつけにしてしまう。そして、魔法陣からハルバードを取り出してグルンとひと回転。2本の足を裁断。
「次で決めるぞ。覚悟は良いか……!」
シグムンドは魔法陣から巨人が使うのかというほどデカい、10mはあろうかという黄金に光る両刃の大斧を取り出して跳び上がる。
「──!!」
そして……。
「誇りにかけて!!!」
一閃両断。
大斧の侵攻はタコ足の妨害なぞ意に介さず突き進み、タコをその足ごと巻き込みながら真っ二つに斬り伏せた。
「…………船首像分の誇りは取り返せたか。──メーシャさん、待たせたな。これで安定したタコを提供できるぜ」
「おお〜! マジ感謝、ありがとだし〜!」
こうしてこの海域には平和が戻り、遠海に追いやられたタコの群れもじきに帰ってくるだろう。
シグムンドが相手したタコも上手くシメられていて、切り口も全てきれいに付けられており、この個体もたこ焼き作りに利用できそうだった。余談だが、切り刻まれたタコ足も真・ダンテ焼きに入れるのにちょうど良い大きさであった。
そして数日後、メーシャたちはダンテ焼き屋さんをリニューアルオープンさせるのであった。




