59話 ヤツとの再会
「……大正解! メーシャさんはその時よろしくな。じゃ、オレたちの誇りを取り戻してくるぜ──」
シグムンドがそうメーシャに言ったそのすぐ後、大きな波とともに重い衝撃が船を襲う。
「おっと」
船が傾いてメーシャはとっさにバランスをとった。
船は頑丈なのか、横に45度くらい傾いても沈没はおろか穴すら空いていない。
しかし、前回の遭遇ではこの船がボロボロになるほどのダメージを負ったことを考えると、今の衝撃は攻撃というよりシグムンドたちへの挨拶みたいなものだろう。
「前回はいきなりだったのに、今回はずいぶん礼儀正しくなったじゃないか。……じゃあ、オレも応えてやらないとな!!」
シグムンドはバッと駆けると、船体の横についている3mくらいあるイカリを素早く手に取ると、海を見るや瞬く間にエモノを捕捉して勢いよくぶん投げた。
──ドッシャーン!!
面白いくらい高く舞い上がる水飛沫とは裏腹に、イカリはまっすぐ綺麗に水中を突き抜ける。そして──
『……!?』
水中を動き回るタコの土手っ腹に見事ぶち当ててしまった。
「……浅いな」
シグムンドが呟く。
そう、イカリはタコに直撃したものの、進む間に水の抵抗を受け、当たる瞬間もタコが体を引いて威力が半減してしまったのだ。
「ま、挨拶だしいいだろ」
水中はタコのフィールドであり、ダメージらしいダメージが出なくても問題はない。水面に来てからが本番だ。
「オレはじれったいのは嫌いでね……それじゃ、さっそく本番行こうぜ! ──"中級雷魔法"!!」
シグムンドは船とイカリをつなぐ鎖に雷魔法を通し、タコのいる水中にいくつもの雷を落とす。
『──!!』
タコは縦横無尽に水中を移動して回避していったが、それもシグムンドの策略。徐々にに水面の方へ追い詰められていく。
「……見えてきたな。次はこいつでどうだ?」
いつの間にか取ってきた銛を構えて丁寧に狙いをつけたが──。
「キシャー!!」
ワニの頭を持った2mくらいのトビウオ型モンスターが、突如として海から飛び出し、鋭い牙をギラつかせながらシグムンドの頭目がけて飛んできた。
「あのタコ、モンスターまで従えてるのか……」
シグムンドは横目で確認するとふところから冷静にナイフを取り出し、刹那のうちにモンスターを切り刻んでしまった。
「チッ。また潜りやがった」
一瞬目を離した隙にさっき攻撃を仕掛けてきたのと同じモンスターが、海面付近に無数に集まってタコの姿を隠してしまった。
「しかたないな……。メーシャさん、自分の身は自分で守れるよな?」
時々海から飛び出してくるトビウオ型モンスターから、シグムンドは自分だけでなくメーシャも守っていた。
しかし、シグムンドはしばしここから離れるから、自分で身を守れということだ。
「これくらい余裕だからだいじょうぶ! それより、このモンスターって食べられるの?」
「刺身はコリコリして、火を通すとふわふわ。噛みしめるとじんわり旨味が出てくる、白身のうまい肉だ。中に入ってすぐの船長室に包丁があるから使っていいぞ」
シグムンドはそこまで言うと、銛だけを持ってモンスターはびこる海にダイブした。
「おっけー、いってらっやーい! ……美味しいのか。シグムンドさんが帰ってくるまでにいっぱい捕まえとこ」
そうしてモンスター大量捕獲に挑むメーシャだった。
● ● ●
そして3分後。
「──あ、逃げちゃった。ま〜でも、だいたい捕まえたからいっか」
メーシャは数十匹のモンスターをシメてアイテムボックスにしまっていた。
「そろそろかな…………ん?」
──ぶくぶくぶく……。
海を確認すると、水中から空気と大きな影が上ってきている。
「帰ってきたのかな?」
メーシャが少し身を乗り出して覗いて見ていると……。
「っぷはぁあ!!」
満足げな顔のシグムンドが、銛でひと突きにされたタコを背負って水面に顔を出した。
「おお、めちゃでかいじゃん! たこ焼き何個分だし!」
シグムンドが背負っていたのは全長5mはある巨大タコだった。
「これくらいは朝メシ前だ。……そう言えば、起きてから何も食ってないな。あとで何か作るか……」
シグムンドはイカリの鎖を引き寄せるようにスルスルと登り、あっという間に甲板に戻る。
「そう言えばつながりなんだけどさ」
「なんだ?」
「船をボロボロにしたのってタコでしょ?」
「そうだな」
「なのにめちゃくちゃアッサリというか、楽勝だったね。もっと激戦をくり広げるのかと思った」
こんなにすぐに終わるのに、なぜ前回遭遇した時はなぜボロボロになるほどに苦戦したのか疑問に思ったのだ。
すると、シグムンドはヤレヤレ……みたいな顔をして答えてくれた。
「すまないが、コイツはヤツじゃない」
「え、そうなの?!」
「このタコはヤツの近くにいた……子分みたいなもんだな。ヤツもそうだが一定の距離をとってタコスミを撃ち出して攻撃してくるから、ヤツ自体は流石に捕まえられなかった。が、群れの仲間であり移動の遅い腰巾着みたいなこいつを捕まえたんだ。……ヤツを誘き寄せるためにな」
群れになんの情もなければ来ないかもしれないが、ボスならば仲間が狩られて何も行動を起こさないなんて事はないだろう。
「つまり、これから決戦ってことか」
その刹那。
──ドゥオンッッ!!!
赤い触手が船縁を掴み、ギシギシと音を鳴らしながら振動が上に上がってくる。
「どうやら決戦会場はここみたいだな。……ふむ、こんな巨体だと引き上げるのに骨が折れそだし、自ら船に乗ってくれるのは助かるぜ」
その巨体は船を我が物顔で占領するとギョロリとした目でシグムンドを見下ろす。
「30m以上はありそうだね。……シグムンドさん、ひとりでいけそう?」
シグムンドの余裕のある表情からあまり心配はしてないが、船のこともあるし一応メーシャは確認した。
「毎週オレは海竜と1対1でやり合ってトレーニングしてるからな、これくらいのタコは逃げさえしなけりゃ何も問題ない。…………ああ、船か。念のためにヤバそうなら防いでくれ」
一瞬シグムンドはこの場所が自分の船ということを忘れていたようだ。
「……わかった」
「よっしゃあ!! じゃ、何の憂いも無くなったところで大暴れだァ!!」
シグムンドは魔法陣をいくつも展開し、タコに目線を向けたまま快活な笑いを見せた。




