58話 ヴァイキングの誇り
メーシャは中濃ソースの材料やネットで調べた作り方をまとめたデータをカーミラに送り、ある程度量を確保できるよう生産ラインと人員の確保をお願いした。ついでにカツオ節も。
するとカーミラからは、人気や売り上げが上がればその都度ソースの生産量を増やすこと、カツオ節は似た魚はいるのでそれで作れるか試してみるが時間がかかりそうと返信が返ってきたのだった。
ひとまず少しの間はメーシャの持ってきたソースを物足りないと思わない程度に節約していくしかない。幸い、おばあちゃんがリニューアルしたソースは絶品で、たこ焼き……"真・ダンテ焼き"も生地にダシを入れ、中の食材の塩気を調整したおかげで本体だけでも美味しいものになっている。
そして次の日、来たるリニューアルオープンに向けてヒデヨシと灼熱さんはトゥルケーゼで宣伝活動、アメリーは一旦ギルドに帰って漁師のツテを持っているメンバーをあたり、メーシャは魚屋さんの紹介でタコ足を手に入れた人に会う事になっている。
* * * * *
お昼過ぎ、メーシャは大きな船着場に来ていた。
「時間も場所も合ってる……よね」
見回すと、船首は折れて船体がツギハギだらけの、海竜の帆を持つ船が一隻近くにあるだけだった。ただ、ボロボロではあるが甲板で50m走ができそうな程大きい。
「まだ着いてないのかな……? 忙しいみたいだし、遅れるのかな?」
メーシャが唯一の手がかりである船を調べるか否か迷っていると、何やらガサゴソ音とともに大きなあくびが船から聞こえてきた。
「むむん……? ふわぁあああ…………んお? ああ、寝過ごした!!」
猛獣のような声とは裏腹に、とても焦ったような様子で船内を駆け回る音が聞こえる。
「……あの人かな? あの人だろうな」
メーシャが船の近くでしばらく待っていると、ヴァイキング風の壮年の男が慌てながらロープを伝って降りてきた。
「──すまない、遅れてしまった!!」
メーシャを見るや否やその男は頭を下げる。
「いやいや、そんな待ってないし大丈夫。それに急な予定だったし、むしろ来てくれただけで御の字ってやつだし」
「助かる。実は朝の7時くらいまでエモノのいる場所を探していてな。家に帰る時間も無いんで船でそのまま待っているつもりが、いつの間にかスヤっといっちまったみたいだ」
「そんなギリギリまで探してたの? てか、大丈夫?」
「大丈夫だ。海の漢はこのくらいでやられちまうほどヤワじゃない。それより……ヤツの居場所は暴いたから楽しみにしておいてくれ。
オレはここら一帯のボスをやらせてもらっている"シグムンド"だ。今日はよろしく頼む」
シグムンドはチェーンメイルに黒い毛皮を羽織り、そこから伸びる隆起した剛腕、脇の隠れた部分にはいくつものナイフ、頭にはヒレのついた海竜の兜、背中には海竜の牙と鱗でできたスケールシールド、のついたハリガネのような白い髭と虎のように鋭い顔つきと、オーガすらかすむ程の迫力ある風貌の男だった。
「あーしはメーシャ、よろしくだし。そういや、お船がボロボロになってるけど、何かあったの?」
メーシャはシグムンドと握手を交わしながら気になっていた事を訊いた。
「ああ、これはヤツの8本足にやられてしまったんだ。完全に不意を突かれてな、水の王の船首像まで取られてしまった。……逃げられる前にヤツの足先を切ってやったが、オレたちの船首像を奪われてこれでチャラとはいかないだろ。
今日はヤツに海を荒らし、オレたちヴァイキングをコケにしたらどうなるか教えてやるぜ」
声色は覚悟を感じたがシグムンドの目は笑っていた。
それは今回の対峙はやるかやられるかの殺伐したものではなく、暗に本来の意味での漁であるとメーシャに伝えているのだろう。
「頼もしいじゃん。あーしは何したらいい?」
メーシャは風魔法で空を飛び、船の甲板に移動しながらシグムンドに確認する。船をボロボロにするタコなのでバトルする可能性がある。
「そうだな、何もしなくていい…………と言いたい所だが、ヤツが逃げそうになったら引き止めてくれるか? 今の船のコンディションじゃ追いつけそうにないからな。万全なら逃がしはしないんだが」
シグムンドは走り高跳びの要領で跳躍し、最後に宙返りで体勢を整えて着地した。
この2人に船に乗るためのハシゴは必要ないのだろう。
「それじゃヤローども!! 出航するぞ!!」
『『『『『ぅうおおおおおおおお!!!!』』』』』
シグムンドが声を上げると、船内にいた仲間たちがメーシャたちにもハッキリ聞こえるくらいのすさまじい雄叫びを上げる。
──グググ……!!
そして、シグムンドとメーシャたちはタコの住む海域に向け出航したのだった。
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「そういえば、メーシャさんはヤツ……"タコ"をたべるんだったな。じゃあできるだけ傷つけないほうが良いのか?」
海を少し進んだところでシグムンドが訊いた。
「ううん。包み込んじゃうし結局細かく切るから傷自体はついても良いかな。でも料理のキモではあるから、できるだけ味が変わっちゃうようなのはナシがいいかな」
「……大砲とか状態異常はやめた方がいいわけか。ま、今回は直接いきたいから問題ないな。……それはそうと、朗報だ」
シグムンドが少し悪びれたような笑みを浮かべる。
「朗報って!?」
楽しそうな雰囲気にメーシャもワクワクしてしまう。
「調べてみた感じタコは沖にかなりの数がいる。今日相手にするヤツが邪魔していてエサの豊富な浜付近に寄れないみたいだが、それを解決すれば安定してタコの漁ができるはずだ」
たこ焼き(真・ダンテ焼き)のタコ供給不足は悩まなくて良さそうだ。
「それはありがたい! まさに順風満帆だな〜。……これでたこ焼きが売れたらチェーン展開とかしちゃおっかな? そしたらあーしってば社長!? おばあちゃんが社長かな? 会長でもいいけど。また訊いとこ」
メーシャは目を閉じて潮風を感じながら、届きそうな夢に思いをはせる。
「世界中に広がっちゃったらどうしよ……」
少しの間メーシャがそうしていると、シグムンドが何かに気がついた様子で船をウロウロしながら海を観察しだした。
「どったのシグムンドさん? ……もしかして、とうとう来たっ!?」
「……大正解! メーシャさんはその時はよろしくな。じゃ、オレたちの誇りを取り戻してくるぜ──」




