51話 キマイラとエメラルドの煌めき
前足と片方の頭がライオン、後ろ足ともう片方の頭がヤギ、尻尾が毒蛇のモンスター。
約600年前甚大な被害を出した末当時の王と賢者数十人、兵士数百人の命と引き換えに封印されたのだが、メーシャが異世界フィオールに来て早々復活。
外に被害が出ないように結界で閉じ込めたが、その結界もメーシャが準備をする間に限界を迎え、とうとう今日破壊されてしまった。つまり、今こそ戦いの時だ。
「ゲレレレ……!」
メーシャの気配にヤギの頭が目を覚まし、それに続いて他の頭も目を覚ました。
「グルルォ……」「フシュルル……」
立ち上がれば体高が7mに達し、体長は10mを超える巨体。蛇の尻尾を加えればそれ以上か。迫力としては十分だ。
「残念だけどあーしが勝つからね。覚悟して!」
メーシャがキマイラにピッと指を差したその瞬間。
「グェレレレレ!!!」「グォオオオオオ!!!」「シュルァアア!!!」
戦闘開始した。
「──グルルルォオ!!」
最初に動き出したのはキマイラだった。まず、ライオンの前足で引っ掻いて牽制しつつ、ライオンの頭が火炎ブレスをメーシャに向かって吐き出した。
「──初級風魔法! ──初級水魔法!」
メーシャはジャンプで爪を軽くかわしつつ魔法で飛翔、水球を放って火炎ブレスに炸裂させる。
──ドゥオッ!
瞬間、水蒸気爆発が起こる。だがメーシャとキマイラには何の影響も及ぼさなかった。
「ゲェレレレレ!!」
ヤギの頭が鳴き声を震わせると稲妻が降り注ぎ闘技場一帯を包みこんでいく。
メーシャが右に左に回避するが、キマイラもそれを眺めるだけに終わらない。
「シュフルルル!」
逃げ場が減ってきた所で蛇の頭が毒液を噴射して追い詰める。しかし──
「──ミラクル!」
メーシャはすかさずオーラの手を出して毒液を"奪い"、迫り来る稲妻を観察しながら反対の手で魔力を練る。
「──"初級地魔法"! からの〜……!」
尖った石を無数に呼び出して電気の流れをコントロールし、その間に風魔法を呼び出して矛に形を変形。
「──"天沼矛・雫"!!」
天に向かって天沼矛を投擲。尖った石と稲妻を絡め取りながら突き進み、次第に天沼矛の渦によってかき消されていった。
「ゲレレレ……!!」
キマイラが全身に電気をまとわせてメーシャに飛びかかる。
スキルを放った直後で流石に回避まで間に合わないと踏み、メーシャは全身に生命力を循環させて身体強化。渾身のハイキックだ。
「うぅおりゃあっ!!」
「ゲリュレレェイ!?」
メーシャの蹴りが直撃しキマイラの前足の爪が欠ける。
「──シュラララ!!」
ヤギは怯んだが、その隙を縫うように蛇が噛み付いてきた。
「──"初級地魔法"! からの……。 ──"ゲイボルグ・クリード"!!」
金属の投げ槍が蛇の頭に炸裂し、刹那のうちに5つに分裂して蛇の胴体を切り刻みながら進んでいく。
「ジュッルウラララ!?」
大ダメージを受けた蛇の頭は断末魔を上げながら戦闘不能。バタリと地面に倒れ伏した。
「次はだれ?」
メーシャは倒れた蛇を一瞥し、雷魔法を出しながら他のふたつの頭を睨みつける。
「グルルォオオ!!」
怒りに顔を歪めたライオンの頭は、己の身体のサイズにも及ぶ灼熱の火球を撃ち出した。
「──"雷霆・ステロペス"!!」
メーシャの打ち出した雷の槍は火球に直撃。互いが互いのエネルギーで威力を一瞬で落としてしまうも……。
「グルルルォオォ!!」
ライオン頭がブレスを吐き出し火球に火をくべる。
雷霆はエネルギーを吸収して強化し続けるが、火球の威力の上昇が早く少しずつ飲み込まれていく。
「──ゲレレレ!!」
その瞬間ヤギ頭が雷霆を飲み込み、身体ごと尻尾を振ってフリーになった火球を打ちだす。
「──"初級水魔法"!」
水をオーラで形を変え、メーシャは三叉槍を作り上げる。
「──"トライデント・アルファ"……!!」
メーシャは水の三叉槍で火球を迎え撃った。
──ドボゴゴゴゴゴ……!!!
トライデントは火球に突き刺さると渦を巻いて飲み込んでしまう。そして、メーシャは投擲の構えに入る。
「──くらえ、トライデント!!」
「ガルルルルゥウガガガアア!!?」
瞬間移動とみまがうスピードで放たれたトライデントはキマイラのライオンの頭を狙った。ライオン頭は咄嗟に噛み付いて止めるが、弱まらない勢いにギリギリと牙が欠けていく。
「ゲレレレレェエエ!!」
ヤギ頭が雷のブレスで横からトライデントを攻撃。方向をズラして回避するつもりだ。だが、それはメーシャから目を離し大きな隙を見せるも同義。
「──"雷霆・ステロペス"!!!」
刹那。死角から放たれた雷の槍はライオンの頭を撃ち抜く。
「ガフゥッ……!?」
ライオンの頭は最後に火を吹いたが、石のように固まって戦闘不能になった。
「最後……いくよ!」
メーシャはオーラを右足に集中させていく。そのオーラは濃く、強く、凄まじく、エメラルドの宝石がキラキラと輝いているようだった。
一歩、また一歩と進むたびに右足の煌めきがエネルギーを増して、漏れ出たチカラのカケラがバチバチと空気を弾き地面を抉る。
「ゲルルレレレ……!!」
ヤギ頭だけになったキマイラは後がないと察したようだ。雄叫びを上げて、全てのエネルギーをかき集め稲妻を生成していく。
「あんたの全力を打ち破る……!」
駆ける。衝撃で岩が舞う。刹那と共にメーシャが姿を消す。
「──ゲレレレェエアアア!!!」
キマイラが力を振り絞り雷のレーザーを撃つ。
「──ジャッジメント……!!」
だが、レーザーはオーラに弾かれ、メーシャは勢いをそのままに突き進む。そして──
「サイス──!!!!」
その回し蹴りは轟音をまとい、衝撃波をともなってキマイラへと振り下ろされた。
「──ゲヒャアアアアアアア!!!!」
ジャッジメントサイスはキマイラを一刀両断。
──大爆発。空気が爆発するように膨らみ、瓦礫や打ち上げられた岩を消しとばす。
エメラルドの煌めきは周囲を燦々と照らし、チリチリと鈴のような音を鳴らしながらぶつかると、魔石となっては雪のようにフワフワと振ってきた。
「……きれい」
そうつぶやいたのはカーミラだった。
「圧勝……でしたね」
ヒデヨシが魔石の雪をふわりと手に取り、勝利したメーシャに目を移す。
『…………ふっ。メーシャのやつ、コツを掴んできたな』
デウスは何かを察して満足そうに笑った。
「……あ、魔石じゃん! 技で出るとか聞いてないんだけど! ボーナスタイムか? あつめないとだっ」
三者三様でキマイラ戦の余韻に浸っていたが、当のメーシャはは戦闘後と思えない程……いや、戦闘後だからこそなのか、気が抜けてリラックスしているのだった。
「オーラの手の方が集めやすいかな? それとも風で? ちょっと、ごめんみんな! 集めるの手伝って欲しいんだけど〜!」
「……あ、いま行きます!」
「ごめん、今行くからね!」
「……キュイッキ〜!」
「おお、サンディーも尻尾で集めて……って、勢い強くて逆に散らかってるからっ!」
「キュ?」




