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虹かけるメーシャ   作者: 藤巳 ミタマ
職業 《勇者》
44/76

44話 閃光ステロペス

 コカトリスの縄張りは煌めきの岩山頂上にある。

 アレッサンドリーテとコンドリーネを繋ぐ道はコカトリスの縄張りを大きく外して通されているのだが、かの昔、今より近い場所に道がつなげられていた時に、縄張り意識が強いコカトリスによって遠距離石化光線で少なくない被害者が出てしまったゆえに敷き直された経緯がある。


 モンスター避けもあり通るのは冒険者か護衛をつけた要人くらいなのもなので、普通の状態異常である麻痺や毒なら体が動かせるので自分でも治療できるし万が一かかったとしても然程問題にはならないだろう。

 しかし、一度かかれば微動だにできなくなる石化では話が変わってくる。加えて、広範囲の光線でパーティごと石化されることも少なくなく、最悪の時期では30人以上の石像がコカトリスの縄張りにできていたとか。


 そして今回の『コカトリス討伐』の対象は、縄張り外にも行動範囲を広げてモンスターや冒険者を襲っている。行動の変化の理由は分からないが、被害が出ている以上その理由を解明するのを待ってはいられない。




「……この辺りから縄張りだね。てか、縄張りの外にも出てるらしいけど会わなかったな」


 メーシャが周囲を見渡すと、砕かれた岩に折られた木々、食べ終わったであろう大量のモンスターの骨がいたるところにあり……そしてその全てが石化していた。

 ここで戦闘があったのだろうか。


「食欲旺盛ですね……」


 今回はメーシャの技を習得するための戦いなので、ヒデヨシはメーシャから少し離れて付いてきている。


『メーシャ、技の改善案はそれで何か思いついたか?』


「一応考えもあるし準備もしてきたけど、成功するかは試してみてだね」


『そうか、良かった』


「危険と判断したら僕も加勢しますからね」


 メーシャが石化したらヒデヨシがアンチストーンポーションで治すのと、メーシャがヤバそうなら加勢して隙を作り、逃げるかそのまま戦うかを決める手筈になっている。


「うん、ありがと。…………来たね!」


 話していると、おもむろにメーシャたちをおおう大きな影がやって来た。


「ゴロロロフフ……!」


 体高3.5m翼を広げた大きさは6mの蛇の尻尾を持った軍鶏。コカトリスがが現れた。


 コカトリスは気が立っているようで、目は血走り、周囲をせわしなく警戒し、威嚇しているような唸り声をあげている。


「お嬢様、健闘を祈ります」


『がんばれよ』


 ヒデヨシが邪魔にならないように離れるや否や。


「グォロロロロゲデュルルロウ……!!」


 戦闘開始。初手コカトリスは爪を立ててメーシャに向かって急降下。麻痺効果がある。


「──"初級風魔法(ヒュル)"!」


 メーシャは風魔法で離脱し、そのまま続けて詠唱。


「──"初級地魔法(ツブ)"!」


 無数の砂利をコカトリスの顔に飛ばして目くらましをした。


「っし!」


 メーシャはこの隙に魔法陣から何かを取り出そうとしたが……。


「ゴギャー!」


 コカトリスはすぐさま羽ばたきカマイタチを起こして牽制しつつ、メーシャの動いた気配を察知して火炎ブレスで追撃する。


「くっ……! ──"初級水魔法(チョロ)"」


 メーシャは水のベールを作り出して身体を守り、ベールが焼き尽くされる隙に距離を離した。


「グッグルルルォオ!!」


 砂利を取り払ったコカトリスは麻痺ブレスを撒き近寄りにくくした上で、クチバシにエネルギーを溜め始めた。


「もしかして……! ──初級風魔法(ヒュル)!!」


 何かを察した急いでメーシャは風を手に集めてウロボロスのチカラを練り込む。


「グッギュロァアアアアアアア!!」


 轟々と唸りをあげて、そのモノクロの奔流(ほんりゅう)が放出された。石化光線だ。

 その光線は線というより荒れ狂う河川のようで、周囲に飛び散った粒子は無差別に石化させ、光線だけでもコカトリスを丸ごと隠すのも容易な太さだった。


「──"天沼矛(アマノヌボコ)・雫"! うぉりゃぁあ!!」


 光線が直撃する寸前、メーシャは狙いもそこそこに風の矛を力任せに投擲。


 ──拮抗。


 風の矛は光線に触れると高速回転して押し寄せる奔流を切り刻み、粒子も風も飛び散らせながらもなんとかせき止めることができた。

 だが、相手は意思が続く限り光線を出し続けられるのに対し、こちらは投擲した矛のエネルギーが尽きれば消え去ってしまう。


「くっ!?」


 力任せに投げた代償か、メーシャは体を浮遊させていた風から吹き飛ばされ転がりながら落下。しかも、その途中で腕に石化光線の粒子を受けてしまう。


「あんまりチカラ使いたくなかったんだけど! えっと、名前はたしか……"ミラクル"だ!」


 メーシャはウロボロスのミラクル(奪うチカラ)で石化の魔力を奪い取り腕を元の状態に戻した。


「ゴロロロ! グァッ!」


 コカトリスも待ってくれはしない。続けて麻痺ブレスを放射線状に吐き出し、あという間にメーシャの周囲を囲んでしまう。そして、地面をえぐるように蹴ってメーシャに距離を詰めた。


「負けない! ──"初級地魔法(ツブ)"」


 メーシャはすかさず金属を含んだ粉末状の砂を周囲に広げ、大きく跳び上がったと同時に。


「──"初級炎魔法(アチ)"! くらえ、粉塵爆発だ!」


「グリュォオ!?」


 無数の連鎖的な爆発がコカトリスを襲う。それは、麻痺ブレスを吹き飛ばし、ススを巻き上げ、爆音を響かせ、コカトリスの羽を少し焦げ付かせた。

 ダメージと言うには弱かったが、コカトリスは視覚も聴覚も一時的に奪うには十分だ。


「っし! 出てきて……"マジック"!」


 メーシャは空中で魔法陣から事前に初級地魔法(ツブ)で作った手のひら大のハリをふたつ取り出し、そのうちのひとつをコカトリスに投げて軽く突き刺す。

 これは地魔法の金属部分をできうる限り抽出して作られたものだ。


「──初級雷魔法(ゴロ)!」


 そしてもうひとつに雷魔法をかけて、ウロボロスのチカラを使って形を整えていく。


「ゴリョァアア! ゴロロロ!!」


 体勢を直したコカトリスは、羽ばたきを利用して呪いの羽毛を飛ばした。


「うぐっ! ……もう少し!」


 呪いを受けたメーシャは生命力の流れを阻害され、当たった左半身からどんどん体の力が抜けてしまう。しかし、雷を帯びたハリを持つ右手も、片足も最低限動かすことはできた。

 メーシャは諦めずにバックステップを利用して距離を調整していく。


「ゴルロロロロ!」


 だが、コカトリスにとって動きが鈍ったメーシャの速度は地面を這いずる虫同然。

 すぐさま追いついて、トゲのような鱗が無数に付いた尻尾でメーシャを叩きつける。


「うぐぁっ!!」


「ゴロァア!」


 しかも無防備なところに麻痺ブレスの追撃。メーシャは直撃してしまう。


「お嬢様!!?」


 尻尾攻撃を受けて大きく吹き飛ばされたメーシャを見て、ヒデヨシは思わず飛び出そうとする。が──


「……できた!!」


 体のほとんどが言うことを聞かないながらも、メーシャはとうとうその雷槍を顕現させることができたのだ。


「……ゴッルラア!」


 危険を察知したコカトリスは口にエネルギーを貯める。至近距離で石化光線を出すつもりだ。


「彼の者を討ち滅ぼせ…………」


 メーシャは言うことを聞かない体を無理やり動かして狙いを定めようとする。


「グルルロロロラァアアア!!」


 だが、早いのはコカトリスだった。

 放たれた石化光線は敵を逃しはしないという意思のもと形を変え、その場で広範囲爆発を起こして周囲を飲み込む。

 回避ができないメーシャの身体は周囲の地面ごと石化していく。そして、石化の波が全てを包み込みそうになったその刹那。


「──"雷霆(らいてい)・ステロペス"!!!」


 声に呼応したその雷槍はギュルギュルと回転しひとりでに飛び出した。

 空気を破る雷鳴、真昼の空をも照らす閃光、そしてあだなす者を討ち果たす稲妻。それは、つたないながらも、神の槍の名に恥じない業物(ワザモノ)であった。


 雷霆はまず周囲の魔力を瞬く間に吸収し無力化、メーシャを苦しめていた状態異常も周囲の石化も全て消し去る。

 次に吸い取った魔力で己の勢力を更に強め、みずから目的地である()()()に狙いを定める。そう、メーシャが事前に打ち込んでいた地魔法のハリだ。


「ゴギョァア!!」


 コカトリスは異常事態に戦線離脱を試みるが、時すでに遅し。放たれた雷霆は必中なのだ。


「いけー!!!!」


 最後。雷霆は避雷針のハリに向かって音速を越えるスピードで直進する。


「ゴロロァアアアアア……!!?」


 そしてコカトリスを貫いたかと思うと、まばゆい閃光と共にその身体を構成する魔力が魔石ごと消滅した。


「やった〜!!」


 メーシャはみごと新技を成功させ、コカトリスに勝利したのだった。



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