41話 チャピとの出会い
ゴーストを倒すために集落のはずれに来たメーシャたちだったが、出現ポイントに移動しようとした刹那、天をも貫く粉塵爆発。
あっけに取られるも束の間、ローブを羽織った大福みたいな魔法使いが姿を現したのだった。
「私はチャピ! 用事が済んで帰ろうとしたところでラードロ化したラードロとオークがいたので掃除しといたんですな!」
チャピと名乗る魔法使いの話によると、どうやら依頼のゴーストはラードロに乗っ取られていたらしい。
「オークがこんな所にも……」
行く先々で聞くオークの被害にメーシャは眉をひそめる。ただ、今回は幸いなことに既に退治済みだが。
「えぇっと、僕はヒデヨシです。星2冒険者のトリッカーで、ここにはゴーストに対処するため来ました」
ヒデヨシは律儀に挨拶を返す。
「あーしはメーシャ。同じく星2冒険者の勇者だよ。一応クエストは一緒なんだけど、魔法がうまく使えなくてさ…………ゴーストの魔法を通して何か掴めないかな〜って思ったんだけど、もう居ないよね? ゴースト……」
メーシャが苦笑いを浮かべながらチャピと名乗る大福に尋ねる。
「ははっ。1匹もおりませんな! このとおり」
チャピはどこからともなく、1cm四方くらいのサイズの焼け焦げた布の切れ端を取り出した。
「魔石ならその辺にたくさん落ちてると思いますが、敵は全滅、残った素材もこれだけなんですな」
チャピは少し申し訳なさそうにメーシャに布の切れ端を渡す。
「もういないならしゃーないか……」
メーシャがしょんぼりしていると、チャピが少し考えた後口を開いた。
「魔法ならこのチャピ、たしなむ程度には得意なんですが、よろしかったら相談に乗りましょうかな?」
「…………いいの? あ、でも、ほんとにこんあこともわかんないの? ってなるかもだけど、聞いてくれる?」
「もちろん!」
メーシャは魔法を使おうとした時にどうなるか、魔法の本を読んでも欲しい情報がなかったこと、そして今まで魔法を使ったことがなかったことなどをチャピに伝えた。
● ● ●
「──なるほど。メーシャどのは魔力の出力が弱いうちに細かい魔力の扱いを練習できなかったわけですな? だから、その細かい魔力の扱いをできるようになりたいと」
「そうなるね」
「暴発も、魔法を使う時に出される魔力の量が多すぎて起きてる可能性が高い。それと、風魔法ができた理由……」
チャピがむむむ……と思考を巡らせる。
「どうですか? チャピさん、何かわかりますか?」
ヒデヨシがドキドキしながら訊く。
「……ひとつ、メーシャさんは一度扱えれば多分すぐに習得できると思いますな。あと、風魔法を習得した時の状況から察するに、風の精霊が影響しているはず。精霊は周囲の魔力を安定させることができますので、初級魔法習得だけならその風精霊の契約者さんと一緒に魔法の練習をすれば初級魔法ができるはず」
カーミラの契約している風の精霊"フーリ"が近くにいたおかげで魔力が暴走しにくくなり、メーシャの不器用な魔力の扱いでも初級魔法という細かい作業ができたというわけだった。
「おお! 少し前進だね! ちょっと疑問なんだけど、風の精霊でも炎魔法使えるの?」
「強い精霊だとその属性の性質をもつ魔力や魔法を身体を維持するために吸い込みますので、他の属性だと威力が出やすく難易度が上がりますが、それでも魔力が安定しやすくなる性質はそのままですので使いやすくはなるはずですぞ」
「よかった、ありがと! しょうじき、光明が見えたってカンジだし! じゃ、カーミラちゃんに予定合わせらんないか聞かないとだね。えへへ……」
メーシャはホッとして笑顔をこぼしてしまう。
「いえいえ、力になれて良かった…………そうだ!」
チャピはそこまで言って何かを思い出したのか、ローブの内側から何やら取り出した。
「……指輪と、本?」
ひとつは黒い宝石がついた銀の指輪、もうひとつは黒い表紙のめちゃくちゃ古そうな本だった。
「この指輪ははめると出せる魔力が10分の1になる代わりに生命力の効率が倍になるというものですぞ。きっと役に立つはず。……あと、この本はこのチャピが小さい頃に女の人がくれた魔本で、もう読み尽くしたのでメーシャさんにお譲りするんですな」
魔力は魔法を使ったり魔法をうける時に魔法防御として役にたつのに対し、生命力は体内で循環させることで物理防御力が上がったり、身体の一部に集中させて攻撃の威力をあげたりするのに役に立つ。
さらに、生命力はその名の通り生命維持にも使用するので、効率が上がるとなれば同じだけ攻撃を受けたり運動をしても耐え切ることができるし疲れにくくなるというものだ。
ちなみに、魔力は魔法だけでなく精神や気力にも作用するので、追い詰められたり疲れたとしても魔力を消費して立ち直ることができる。
なのでこの指輪は、戦いにおいては高威力の魔法が使えなくなるが、日常生活においては無駄な魔力消費がなくなり生命力効率が上がる分、心身共に疲れにくく健康になるおいしい代物だ。
「いいの? 貰ったものだし大切にしてるんじゃないの?」
その魔本を開いて見てみると、理解するのにつまずいたのか推測が書かれていたり、本に書かれ足りないであろう細かい解釈、文字で説明しきれなかったのかイラストでの注釈など色々書き込まれている。
「たぶん大丈夫……いえ、メーシャさんにお譲りしたいんですな。…………でも、もし必要だと確信した時が来たらその子に渡してくれると嬉しいですぞ!」
「……ん? 分かった、そうするね」
チャピの少し意味深な言い回しが少し気になったが、まっすぐなチャピの瞳を見て意志も本も指輪も受け継ぐことにした。
「……メーシャさんは才能がありますので、きっと魔法をうまく扱えるはずですぞ。ではこれで……また会いましょうな」
チャピはそういうと杖を振って魔法陣を展開。メーシャとヒデヨシに微笑みかけてワープして去っていった。そして心なしか、デウスも見ている様な気もしたのだった。
「……不思議生物だったな」
「でも、あの方のおかげでお嬢様も風以外の魔法が使えるかもですね!」
『だな。ってか、装備のデメリットを逆にメリットとして使うのはいい案だな。メーシャのジャッジメントサイスの衝撃波部分は弱くなるからラードロ戦には外したほうが良いが、生命力で身体能力も上がるし上手く属性を扱うことができるって考えたら、普通のモンスターと相対する時はむしろ戦いやすくなるまであるな』
「感謝しないとだね。…………っし、じゃあゴーストももういないみたいだし、今日のところは帰ってゆっくりしよっか! 明日はカーミラちゃんがちょうどオフみたいだしね」
メーシャはスマホに届いたメッセージを確認して言う。
『昼夜逆転しちまってるし、それがいいかもな』
徐々に広がっていく柔らかな日差しがメーシャたちに朝の訪れを知らせていた。




