40話 粉塵爆発と魔法使い
メーシャは研修を終えて数日間、指定されたハーブや薬草を持ってくる簡単な採取クエストや、プルマルとかトレントとかの討伐クエストをこなしつつ、戦いのコツを掴めないかと試行錯誤していた。きたるキマイラ戦を見据えてある程度戦いに自信が欲しかったのだ。
「──アチ! やっぱ無理か……!」
メーシャは初級炎魔法の"アチ"を使おうとするが、魔力が不安定で今にも暴発してしまいそうだ。
そう、上手くはいっていなかった。魔法の本によると、適性がある者が声に魔力を必要分込めて魔法名を唱えれば発動するはずなのだが、メーシャはなぜかカーミラに教えられた初級風魔法以外使うことができず、発動しそうになっても魔力がまとまらずに爆発してしまうのだ。
「──初級風魔法……!」
メーシャは炎魔法をあきらめて風の刃を生成。そして、ウロボロスのチカラで凝縮して矛に変化させる。
「シュフルル……」
そして、今日の相手は鱗が鉱石でできた1mあるトカゲ"ロックサラマンダー"。
相手はメーシャが攻撃の準備をしているところに飛びかかろうとする。
「……当たらないよ!」
メーシャはヒョイとひるがえり攻撃を回避。それと同時にロックサラマンダーをロックオン。
「──"天沼矛・雫"!」
放たれた風の矛は敵に命中すると無数の風を生み出し、ロックサラマンダーの身体を消滅させたのだった。
──カラン……。
「……これじゃダメなんよなぁ……」
メーシャはドロップした魔石を回収しながらぼやく。
『フィオールの民は産まれながらにして魔力と触れ合っているから、初級魔法程度ではつまずかないし指先を動かすみてーに半分無意識に近い感覚で習得できるんだよな。でも、メーシャは魔法の無い世界で産まれたし、そもそも魔力の使い方が豪快だからな。多分、初級中級を習得したらそれ以上は他のやつらより上手く魔法を扱えるんだろうけどな……』
その魔法の教科書も初級魔法でつまづくことを想定していないので、メーシャの必要な初級も初級で基礎の基礎の知識が手に入らないのである。
「どうしよっか……そろそろキマイラ倒しときたいよね。ラードロが占拠したオークの砦を攻める話も、もう少ししたら動き出しそうって話だし……」
デイビッドと倒したオーガの痕跡を調べた結果、砦のオークはラードロの手先となり、オークキングを筆頭にして勢力を広めつつその先で兵士を増やしていることが分かったのだ。
なので、オークの拠点を発見でき次第マークしておき、冒険者とアレッサンドリーテ軍協力のもと一斉攻撃をしかけると今朝カーミラとシタデルから連絡が届いた。
「う〜ん……魔法を使うのを、もっと分かりやすく目で確かめられたら良いんですけどね? どういう魔力の動きをすることで魔法を放つ準備が整うのか……みたいな」
『……あ、もしかしたら』
ヒデヨシの言葉でデウスが何か閃いたようだ。
「なに?」
『エレメント系のモンスター、まだ会ったことないからピンとこないかもだけどよ。そういう魔力を物質に変化させずに、魔力のままにして身体にしてるモンスターが魔法を使ってるのを見たら、もしかすると何かつかめるんじゃねーか?』
「おお! あれだよね、ゴーストとか精霊みたいなのだよね? たしかに、そういうのだったらスケスケだろうし流れも見られるだろうし、普通の人が魔法を使ってるのを見るより分かりやすいかも!」
「いいですね! ロックサラマンダーの鉱石鱗も手に入りましたし、シタデルに帰ってクエストがないか探してみましょう!」
* * * * *
その日の夜、メーシャたちは『集落のはずれに出没したゴーストの討伐、または浄化』のクエストを受け、その依頼の場所へやって来ていた。
集落は10世帯弱の人が住んでおり、中にはこじんまりとした宿屋と道具屋がある以外、年季の入った木の家屋があるばかりだ。お墓も小さい分よく手入れされていて、死者がアンデッド化している様子もない。
つまり、今回出没したゴーストは元集落の住民ではなく、近くで倒れた冒険者かモンスターのなれの果てだろう。
「ふと思ったんですが、この世界って集落とか小さな村って多いんですか?」
『まあそうだな。モンスターがいる分、大きな土地を区分分けして全てをヒトが管理する場所にしちまうってのがどうしても難しいんだよな。だから、街道の中継地点とか川の近くに小さな結界を張った集落とか村が増えるんだ』
「ああ、何もないところに建てようにも襲われないようにしないとダメだし難しいか」
そうこう話していると。
「……あ、そろそろゴーストの出没の時間じゃないですか?」
ヒデヨシに教えられてメーシャはスマホを確認する。
「──ほんとだ。出現ポイントはここから西に100mほどだったね」
「ゴーストはヒトとかモンスターとかに限らず、命を落とした後強い無念が魔力に作用し、生前の持ち物を触媒にして生まれるモンスターで、姿は生前の姿と似ているかガス状なのがほとんど。たまに本人の意志や性格を引き継ぐこともありますが、基本的に体や持ち物を元に生まれるだけで本人ではないとか。光属性が弱点で、闇属性が得意。物理は効きませんが触媒になっているものを破壊して倒せることもあるとか。魔法は触媒や生前の特性によって使うものが違うらしいですね」
ヒデヨシはタリスマンを使ってシタデルの情報にアクセスし、今回の依頼で相手にするゴーストの情報をホログラムで呼び出した。
「……っし、じゃあさっそく──」
──爆発。
連鎖的に起こる無数のその爆発は、空気を割り、天を貫き、その灼熱は太陽のごとく夜を照らした。
「ぉわっ!? ちょっえぇええっ!!?」
メーシャは何が起きたのか瞬時に理解できなかったが、爆心地がゴーストの出現ポイントであるのと、少なくともこの位置が安全であるのだけは理解できた。
そう、普通このレベルの大爆発がこの距離で起こったなら、爆風や熱波が瞬時に襲ってくるはずだが、待てどもそれらはメーシャたちの所へは届かなかったのだ。
『結界か……!』
よく見ると半透明の壁が広範囲にわたって張り巡らされており、それが周囲を爆発の被害から守っていたのだ。
『だが、さっきまで結界なんてなかったぞ? しかも、この爆発を受けて全くの損傷もない頑丈さ……。これはそうとう高位の魔法使いだな』
デウスがまだ見ぬ魔法使いの腕に感心する。
「…………し、心臓が飛び出るかと思いましたね! でも、ド派手な花火みたいで面白いです!」
爆発がはじまってしばらくした頃、それまで目が釘付けになっていたヒデヨシが我にかえり、熱が冷めやらぬままにハイテンションでメーシャに報告した。
「まあ……破壊神でも降臨したのかみたいな爆発だけどね」
『メーシャが日本で放ったジャッジメントサイスの爆発も規模的には負けてねえけどな!』
「いや、張り合わなくてイイから! ってか、なんであーしの技で勝負してんの?」
『そりゃ、うちのかわいい勇者の初スキルなんだから、他の子に負けたくねえって思うだろ。……はぁ、これが親のこころ子知らずってやつか』
「デウスは親目線なのね……。まあ、いいけど」
ちょとお落ち込むデウスにメーシャが苦笑いを浮かべていると、少しずつおさまりつつある爆発の連鎖の中から何者かがしっかりとした足取りで出てきた。
「誰かがこっちに来ます!」
爆発を起こした張本人だろうか、結界を張った魔法使いだろうか……もしかすると、そのどちらもこの者の仕業かもしれない。いや、最悪爆発を受けて無傷だった第三者の可能性もある。
その者は緩慢な動きながらも歩みは力強く、今まで爆心地に居たのもあれ程の魔法を出したり受けたりしたとも思えないエネルギーを感じさせた。
「……ローブ? 杖も持ってるっぽいね。魔法使いかな……?」
メーシャは目を凝らしてその者の様相を探る。
『杖に使った魔力の残滓が残ってる。……理由はわからねえが、どうやら爆発も結界もあの魔法使いの仕業らしい』
「爆発で何者かを倒し、その被害が出ないように結界を張っていたと見ることもできますが……」
「とりま、警戒だけは怠らないようにしないとだね」
敵か味方か不明な上に相手はこちらに近付いて来ている。念の為にいつでも戦闘、もしくは退避できるようにした方がいいだろう。と、思ったその瞬間!
「──とぅや!」
──ドッカーン!!
魔法使いが杖を振ると、その背後で大爆発。今回は連鎖せずに一撃だけだったが、それでも周囲の土埃や視界を遮るものを全て吹き飛ばすには十分だった。
「え、ええ!?」
あっけに取られるメーシャ。
「……キリリ」
身体に角度をつけて腕を伸ばし、キレッキレのポーズをする魔法使い。……そして、明らかになるその姿。
「こ、これは……!」
ヒデヨシがツバを飲む。
その魔法使いは赤いフード付きローブを羽織り、赤い宝石のはまった使い込まれた木の杖、そして何よりみんなの目を引いたのが……。
「大福じゃん!」
そう、ローブを羽織った大福のような一頭身の姿だったのだ。
正確に言えばハリガネくらい細い手足は付いているし、頭からアホ毛が3本出ているし、目も口も付いているので大福ではないが、サイズ感もメイン色も見た目の弾力感も大福と言って差し支えがなかった。
「お嬢様、あれに似てます! くちびる族のモンスターの!」
「えっと、あれでしょ? 主人公にガチ目の殺意を持って襲う方じゃなくて、人と一緒に旅をするタイプの可愛らしい方のでしょ?」
「はい!」
「たしかに目は大きめで丸いし、くちびるは付いてるけどリアル系じゃないし、なんか、とってもキャッチーな見た目だもんね! ……ゆるキャラみたい」
『ふ、ふたりとも見た目に騙されるな! あの爆発を起こしたのはまぎれもないこいつだぞ!』
「そうだった! ゆるい見た目はともかく、魔法の腕はエゲツないんだもんね! ……でも、くふふふ……」
こちらが気になるのだろうか、ポーズをとったままチラチラ見てくるその姿がえも言えない面白さがあり、メーシャは耐えきれずに思わずわらいをこぼしてしまう。
「お、お嬢様! 油断は禁物ですよ! 実はあの見た目で人の魂を喰らう魔王かもしれないんですから!」
ヒデヨシがなんとか理性を保ち、そう言い放った時。とうとうその魔法使いが口を開いた。
「──人のの魂なんか食べませんぞ! まったく……このチャピの大好物はハンバーグだというのに……」
「マジか、めっちゃ流暢に話すじゃん……!」




