38話 ロックタートルの捕獲
「今日見せるのはロックタートルの捕獲というクエストを通して、携帯型捕獲魔法機械と携帯型捕縛結界、納品ボックス、アイテムボックスの使い方。あと、初級魔法でも使い方次第で格上にもダメージを与えられるって事を教えちゃうよ! もし強いモンスターの巣窟に迷い込んだ時でも、最後まで諦めずに頭をフル回転させれば生き延びられるかもって知恵。っぱ、こーいうのが初心者にとって大事っしょ?」
オレちゃん先輩はやる事リストが書かれた紙のメモに目を通しながらメーシャとヒデヨシに言った。
「アイテムボックス?」
メーシャがワルターの言ったアイテムボックスという単語が気になってしまったようだ。
それもそのはず。メーシャが知っているのはデウスが創造してくれた、容量がほぼ無限のアイテムボックスという名の専用異空間。流石に全く同じではないにしても、似たような仕様なのかそれとも全く別物なのか興味が出てもおかしくないだろう。
「名前くらいは聞いたことあるっしょ? ……これ、見てみ?」
ワルターがポケットについていたクリップ型の機械を取り外してメーシャに渡す。
「ボックスってカンジには見えないけど、なんか特殊な魔法陣とか描かれてるの?」
「言ってみりゃ、拡張機の応用版ってイメージだね! 普通の拡張機はバッグみたいなのに取り付けて入る容量を倍に増やすんだけど、これはその応用。ポケットでも帽子でも穴というか空間がある所に身につけてスイッチを押せば、元のサイズにかかわらず一定の容量を確保できるってワケ。今は最低限のアイテムしか入ってないし、試しにちょっとアイテムボックスを使ってみても良いよん」
「お、ありがとだし〜」
メーシャはスカートのポケットのふちにクリップではさむようにマキナを取り付けた。すると……。
「すごっ! ヒデヨシも見てみ?」
「どんな感じですか? ……ああ、ゲーム画面で見たことがある光景です!」
ポケットの中を覗くと四角い枠にアイテムの画像、アイテムの種類、アイテムの名前とある程度の効果などが見ることができた。
「え〜っと、携帯捕獲マキナ、飲料型回復薬、納品ボックス、捕縛結界、スマホ型魔法機械が入ってるのか。……でも、これって見ないとダメなら戦闘中に使いにくくない?」
メーシャが首を傾げる。
確かに、今は敵もいない安全な位置だからこそ、ポケットをゆったり覗くことができるが、戦闘中だとそんな余裕はないのでアイテムボックス内のアイテムを正確に取り出すのは至難の技だ。
「……って、思うじゃん! ところが違うんだな〜これが!」
冒険者初心者の疑問のあるあるなのだろうか、ワルターはうんうんと頷きながら楽しそうに笑う。
「なにかギミックでもあるんですか?」
「そう! まずあらかじめ登録しておいたアイテムは、手を入れるだけで即座に取り出すことができる。それに、複数登録してた場合でも直感的に取り出せるようになってる。しかも! 登録してなくても、手に魔力を帯びさせてればアイテムボックスの映像を視界にリンクさせて見ることができるから、直接覗けなくても選択して取り出すことができる優れもの!
昔はめちゃくちゃ使いにくかったみたいなんだけど、デイビッドが若い頃に冒険者本部に今の形を提案して作ってもらったってさ! 師匠って戦い方はダイナミックなのに頭まで回るんすげーわ」
ワルターはデイビッドのことを尊敬しているのだろう。楽しそうに、だが尊敬と対抗心が入り混じる表情で語ってくれた。
「ほうほう。僕のは拡張機ですが、アイテムボックスの支給がされるの楽しみになってきました」
ちなみに、初心者の星1冒険者はは容量拡張機が支給され、星2に昇格して本格的にクエスト受注が始まる際、シタデルに申請すればアイテムボックスが支給される仕組みになっている。
「めちゃくちゃ良いから、頑張ってなヒデヨシちゃん! ……おっと、お話も楽しいけどそろそろロックタートルの所に行かないと日が暮れちゃうね! いこっか!」
そして、一行は本格的にクエストを開始することになった。
● ● ●
「いるね」
メーシャたちは岩陰に隠れて1体だけで鉱石を食べているロックタートルを見ていた。
ロックタートルは基本的に群れを作らないため、十分な実力があれば事故も少なく倒しやすいモンスターだ。仮に実力が無くても、動き自体は遅いため逃げること自体は難しくない。
「昨日実戦したみたいだし、今回はオレちゃんのお手本だけしっかり見ててね。もし忘れても、調べたり誰かに訊いたら教えてくれるし、なんならオレちゃんがまた教えちゃうから心配しなくて良いぜ!」
ワルターはふたりにウインクしながら親指を立ててサムズアップ。
「うん、しっかり見てるし!」
「ありがとうございますオレちゃん先輩! お言葉に甘えさせてもらいますね」
メーシャとヒデヨシも親指を立てて返事を返した。
「……さ、パーティーの始まりだぜい!」
ワルターは岩陰から姿を現すと、髪をかき上げて腰の片手剣を抜く。
「グムム……」
ロックタートルはワルターに気が付いて警戒体制に入るものの、それだけに留まり自ら攻撃を仕掛ける様子はない。
魔力を多く含んだ鉱石でおおわれた甲羅は物理攻撃はもちろん、魔法攻撃にも強く、その他の部位も硬質化している上に魔力での修復能力があるので、生半可な攻撃では永遠に倒せない。
しかも、普段の食事も魔力を帯びたものだからか噛みつきも半分魔法攻撃のようになっており、魔法防御を上げていないと防御をしても貫通してダメージを受けるという、相手にするとなかなかやっかいなモンスターだ。
「じゃあ、まず手始めにロックタートルに単純な攻撃を仕掛けて見るから、どんな様子か見てて」
ワルターはメーシャたちにそう言うとサッと駆け出し、一気に距離を詰めてロックタートルを連続で切り付ける。
「……あ、全然効いてない」
剣を振る角度や勢いは良いものの甲羅は傷ひとつつかず。足や頭は薄皮を少し切れたものの、2秒と待たずに回復されてしまった。
「次は魔法いくよ。 ──"初級炎魔法"! ──"初級水魔法"! ──"初級風魔法"! ──"初級雷魔法" ! ──初級地魔法!」
ワルターはヒョイっとバックステップで10mほど離れると、炎の弾、水の渦、風の刃、雷のレーザー、石のつぶてを順に出してロックタートルに当てていった。
「……比較的雷魔法のダメージが大きいみたいですが、これで倒すのは難しそうですね」
ヒデヨシがメモをしながらつぶやく。
ロックタートルは確かに雷魔法を受けた時に一瞬だけ少し苦しそうな顔をしたものの、見たところ傷ひとつつかず姿も一切変わっていない。炎は暑さに強いからか無傷に終わり、風は単純に威力不足でかき消え、石は弾かれ、水に至っては回復してしまう始末だった。
「──ま、こんなカンジじゃん? んな攻撃をしてても、一生倒せずにオレちゃんのせっかくのカッコよさもミイラ系モンスターになって損なわれちゃうわな! ははっ」
ロックタートルはワルターのことを敵認定したのかようやく正面を向いた。
「でもでも、魔法ってのはこんな単純な使い方だけじゃないんだよね〜。考え方次第で色々工夫できるからメーシャちゃんたちもまた自分で試してみてね。じゃ、応用編開始」




