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虹かけるメーシャ   作者: 藤巳 ミタマ
第一次地球戦
3/76

3話 深海からの使者

 メーシャたちのいる同じ海岸線の少し離れた浜辺に、10人ほどの人だかりができていた。


「なにこれ」「こわーい」「触手……?」


 その浜辺にうち上がっていたのは、軟体生物の黒い触手のようなものだった。ただし、海面から覗かせるだけでも10mは超える巨木のようなサイズである。

 そして、海に沈んでいる部位も合わせれば触手だけでも20をゆうに超え、ダイオウイカより大きいのは確かであり、加えて胴体もあるであろうことを考えると、この目の前の生物の体長は世界最大級のシロナガスクジラ並なのだ。


「でかすぎる……」「すご」「ここにいて大丈夫?」


 そう心配する声とは裏腹に誰が呼んだでもなく少しずつ人が集まっていき、あっという間に元の倍以上の人数になってしまう。


「──む〜……通してー。人が多すぎて前が見えない〜」


 そこに人だかりをかき分け進むメーシャの姿があった。


「ちう! ちううちちう……!」


 ヒデヨシはメーシャの頭の上に乗り、前がほとんど見えないメーシャのために行く道を教えている。


「……ん?」


 そして、しばらく苦戦しながらもなんとか進んでいくと、ようやく人だかりの切れ目が現れたが……。


「やっと抜けた──! って、おわ!? ちょっぶっふぉぁあああ!!?」


 勢いあまって飛び出してしまい、メーシャはそのまま頭から砂浜にスライディングしてしまったのだった。


「うぅ……砂の味」


 メーシャは起き上がったものの全身砂まみれでしょんぼり。しかし、目の前の光景はそのしょんぼりを一瞬で吹き飛ばしてしまう。


「って!! なんじゃぁこりゃあ〜!!!!?」


 触手をほぼゼロ距離で見たメーシャはあまりの大きさにビックリしてしまい、見上げながらそのまま後ろにひっくり返ってしまった。

 すぐそばで大騒ぎだったものの幸い触手は微動だにせず、もし掴まれたらひとたまりも無いだろう。


「ちゅいっち!」


 冷静なヒデヨシはメーシャヘッドから離脱して華麗に地面に着地。


「──海が。海が荒れていたんだよ」


 福耳の釣り人のおじさんが、メーシャがひっくり返っているのもおかまいなしに語り出す。


「そして──。そんな日は釣れるんだ……」


 おじさんは得意げにフッと笑い、帽子をクイっと直しながら言い放つ。


大物(ビッグフィッシュ)がさ!!!」


「うるさいわっ。──って、おっちゃんが釣ったの!?」


 ツッコミもそこそこに、おじさんが今回の立役者だと知ったメーシャは大盛り上がり。


「そういうことー」


 おじさんも嬉しそうに親指を立てサムズアップ。グッジョブなのは誰もが認める所だろう。


「……えっ! ちょっと待って?」


 メーシャは何かに気付き、手を口元にあてて目を見開く。


「じゃ、じゃあ……おっちゃんってば()()()()()()()()ってコト!? ウラヤマシイッ」


 イカの可能性も捨てきれないが、その時はゲソの唐揚げでもイカ飯でもイカ焼きでも、なんならイカのたこ焼き風でも問題ない。だが今は、シュレディンガーの触手の今だけはタコの可能性()に賭ける。


「いや食べないよこんな正体不明のタコ。お腹壊したらどうするの。無理に捕獲してケガしても嫌だし、もちろんこのまま海にかえしま……」


「──いっぽんだけ!!」


 メーシャは慌てておじさんの言葉をさえぎる。でっかい食べ物はロマン。ここを逃せば次はないかもしれないのだ。


「いらないなら1本だけちょうだい! ヤバそうならちゃんと『ぺっ』ってするからさ!」


 メーシャはヒデヨシが眉を(眉じたいは無いが)しかめるほどの熱意でおじさんに懇願する。


「まあ……そこまで言うなら譲っても良いけど。なにする……」


「──たこ焼き!!!!」


 メーシャの食欲はもう、()()が出来るほどお利口さんではなかった。『ぐぅ〜』と鳴るお腹がたこ焼きが食べたいのが真実であることを物語る。


「失敬! この後の()()()の事を考えるとつい……。で、ではタコ足は譲渡して頂けるということで異存ないですね?」


 少し頬を赤らめながらメーシャが顔をそらす。そして、照れ隠しなのか妙な敬語でおじさんにふたたび確認をした。


 ──トントンッ。


 1番大事なところで後ろから肩を叩かれるメーシャ。ここウヤムヤになってしまったら後悔するので、ひとまず無視を決め込もうとするが……。


 ──トントントントントントン……。


 あーまーりーにもしつこい!


「うぅ。ジャマすんな……」


 ガマンの限界なメーシャは内心泣きそうになりながら、ひとこと文句を言ってやろうと振りむくと……。


「──し?」


『ニュ〜ン』


 タコ足だった。

 さっきまで微動だにしなかったタコ足が、メーシャの肩を叩いていたのだ。

  だがそれだけに収まらず、タコ足は次にメーシャの腕にからみつき、


「あ〜〜れ〜〜〜〜!!?」


 番長の一本釣り。

 釣り上げられたマグロのごとく宙を舞うメーシャは、状況を処理できずにオペラ歌手も顔負けのビブラートを奏でるしかできない。


「おじょう、ちゃーん!!!」


「ちうちー!!!!」


 釣りのおっちゃんとヒデヨシが助けに入ろうとするが間に合わず。


「──はっ!? ぐぬぬぬ……!」


 絶体絶命に思われた状況だったが、メーシャはなんとか冷静さを取り戻す。そして──。


「うぅおりゃああ!!」


 触手を両手で掴んで体に引き寄せ、うまく体をねじりつつ勢いをつけて…………急降下!


 ──ザッボンッ!!


 大きな水飛沫を上げながら着水。

 番長の身体能力は伊達じゃないのだ。しかも、運の良いことに何とか足がつく深さで、これなら踏ん張りが効きそうだ。


「まけるかー!!」


 タコ足を肩に引っ掛けて両手で持ち、渾身の力を振り絞って引っ張る。


「がんばれー!!」「いけ番長!」「ちーう〜!!!!」「すげー!!」


 様子を見ていたギャラリーも、メーシャの勇姿に思わず熱い声援を送ってしまう。


「「「うおおおー!! がんばれー!! いけー!!!」」」


 ──最高潮だ。ここまでバイブスをガチアゲされればヒヨッコDJも駆け出しアイドルももちろん番長も、うちに秘めたるパッションが爆発して忘れられないパーリィナイトになるに相違ない。


「あ〜……うん。とりま謝っとく。ごめん……」


「……ちう?」


「だ〜〜〜〜め〜〜〜〜だった〜〜〜〜〜!!!」


 ひょいと持ち上がった身体はもう制御が効かず、メーシャは人生2度目の一本釣りをされてしまう。

 魚でも何度も一本釣りされることはないので、やはり番長は別格なのかもしれない。


「おじょうちゃ〜〜ん!!?」「ちちゅうちぃ〜〜〜!!?」


 大盛り上がりを期待したギャラリーもこの釣り展開には困惑の色を隠せないようだったが……諸行無常。


 ──ドボンっ!!


 ……奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。現実はそう甘くないのであった。



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