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最強ダンジョンドキュメンタリー取材班(一名)!

作者: 遠梶満雪

 昨今注目されている、地方ダンジョンの荒廃問題。


 中央のダンジョンに人材が集中することで地方では過疎化と高齢化が進み、それによるモンスター被害の拡大は地域住民を悩ませている。


 一部の有志が討伐を進めているが、効果の程は芳しくないという。


 取材班(一名)はその実態を確かめるべく、とある人物の元へ向かった。


 以下は取材班の持ち帰った映像である。


──────────────────────


「いやあ、どうも! わざわざこんな田舎の山奥まで」


 場所はG県の山中。約束の地点で待っていたのは若々しい女性だ。栗色のポニーテールを揺らして挨拶してくれる。深緑の木々を背景に、健康的な肉体が跳ねている。


「私、小鳥遊(たかなし)こみちと申します!」


────取材担当の(たちばな)です。よろしくお願いします。


「橘さんですね、よろしくお願いします!」


 小鳥遊さんは現在22歳。この近くにあるK町の出身で、幼い頃からダンジョンに親しんできた。それと同時に、モンスター被害に苦しむ近隣住民の姿も見て育ったという。


 彼女が故郷を離れず、高校卒業後ここで探索者としてダンジョンに挑んでいるのもそこに理由があった。


「私は、みんなが平和に暮らせるようにお手伝いしたいんです」


 そう言って笑う小鳥遊さんの笑顔は眩しい。


────早速ですが、今日の活動について教えていただけますか?


「はい、今日はS山第二ダンジョンの上層でモンスターを討伐します。最近は数が多くて、外に溢れて畑を荒らしちゃうので」


 そう言いながら彼女は使い込まれた大剣を背負った。よく手入れされているらしく、刃が鈍く光っている。古びた油の匂いが漂っている。


「今日は危ないところには行かない予定ですから安心してくださいね」


 微笑んで先を進む彼女についていく。


 S山第二ダンジョンの入口は山の麓から十数分登ったところに存在する。調査難易度は五段階識別の三段階目。中級探索者以上が推奨される、やや厳しいダンジョンだ。


 崖に空いた横穴を覆うように積まれた石造りの小さな入口は吸い込まれるように暗く、冷気が染み出している。


「ここは入口だけすごく狭くて。頭、気をつけてください」


 入口横に置かれたボロボロの箱からランタンを取り出す小鳥遊さん。


 魔法で灯りをつけると、そのまま屈んでダンジョンに入っていく。


────魔法も使えるんですね。


「ええ、本職は剣士なんですけど、パーティ組む余裕もないので。自分で全部何とかするんです」


 魔法は近所のおばあさんに教えてもらっているそうだ。都心部における探索者ギルドの役目を、地方では共同体そのものが担っていると言える。


「さあ、まずは第一階層です」


 細い横穴を抜けると、広々としたドーム状の空間に出る。天井からは青天が覗き、周囲は明るい。足元は火山灰が固まっていて硬い。


 それらが示す通りこの山は火山で、古文書によると最下層に火竜の存在も確認されている。


「この辺りには魔獣化した野生動物や、スライム、歩きキノコなど低危険度モンスターが生息しています」


 低危険度とはいえ、人里に現れればかなりの脅威である。また、下層の強力なモンスターの餌となってしまうため、積極的に数を減らしたいところだ。


 小鳥遊さんはそれまで隠れていた物陰から飛び出すと闊歩(かっぽ)するモンスターたちに斬りかかる。


 その細い身体からは想像もつかないほど力強く大剣を振り回し、鉄の塊で敵を薙いでいく。


 さながら台風といった姿だ。


 ひとしきり退治し終えると、小鳥遊さんは素材集めを始める。彼女のような専門の探索者にとって、素材を売って手に入る金は生活の基盤だ。


 魔獣の毛皮や爪、スライムの薄皮、歩きキノコの傘などを丁寧に鞄へ詰めていく。


「まあこのくらいの素材だとあんまり大したお金にはならないんですよ。だから、探索者って副業でやるくらいが丁度良いとか言われるんです」


────最近は討伐を配信する探索者もいますね。


「あー! 見ました見ました! あれ凄いですよね、私はあんな風に面白く喋りながらカメラも持って戦うなんて出来ないです」


 素材集めを終えた小鳥遊さん。更に下層へ向かうと言って歩き始めた。


「次は第二階層です」


 腰から何やら薄青い液体の入った瓶を取り出すと、下へ降りる階段に振りまく。


「低階層用のモンスター避けです。焼け石に水ではありますが、こまめに撒いておくようにしているんです」


 こうすることで地上へのモンスターの進出を食い止める効果があるという。


「第二階層のモンスターは先ほどとあまり変わりませんが、日が差さないのでスケルトンも出るようになります」


 スケルトンは武器を持ち、知能も高い、危険なモンスターだ。外にこそ出ようとしないが、ダンジョンを荒らす原因になるので駆除が推奨されている。


「スケルトンは他のモンスターを攻撃しますが、当然食べません。なので、死体が放置されて衛生的に問題が出てくるんですよね」


 石造りの通路の隅に巨大なねずみの死骸が転がっている。弓矢が刺さっているところを見るに、これもスケルトンの仕業だろう。


 小鳥遊さんは火炎魔法でねずみを焼却する。


 その熱と光におびき寄せられたのか、スケルトンが集まってきた。


「下がっててください! 排除します!」


 そう言うと小鳥遊さんはスケルトンに突進していく。大剣を振りかぶると、剣の腹で相手を叩きのめした。


 一番手前にいたスケルトンの身体が粉砕され、ばらばらと地面に落ちる。


「やあっ!!」


 突き出された手の平から爆発魔法が放たれ、奥のスケルトンも砕かれた。


「………………ふう」


────流石ですね


「えへへ、まあ、慣れてますので」


 骨の山を前にして、小鳥遊さんは照れくさそうに頭を掻いている。



 そこに巨影が現れた。



「………………え?」


 小鳥遊さんが振り返る。こちらを睥睨(へいげい)しているのは牛頭の怪物だった。筋骨隆々の黒々とした肉体。血で染まった頭部の角。


「…………っ、橘さん、逃げてください!」


 小鳥遊さんは取材班を突き飛ばした。カメラが回転する。


「牛頭が第二階層に出てくるなんて初めてなんです! 今の私の装備では応対しきれません!」


────小鳥遊さん。


「麓の町の人に知らせて、討伐隊を呼んでもらってください! それまで私が食い止めます」


────逃げないんですか。


「逃げたら追ってきます、外に出すわけには行かないんです」


 入口は狭かったが、牛頭ほどのパワーがあれば無視して飛び出してくる。


「あの入口だって、十年前にあった『暴走(スタンピード)』のあとに皆で直したんです」


 牛頭の拳を剣で防ぎながら、苦しげに小鳥遊さんが言う。


「私はっ……もう誰も失いたくなくて………………っ。だからっ!」


────分かりました。


「橘さん………………!?」




────『召喚(サモン)』。全武装(フルアームド)




 取材班が宙空から太刀を引きずり出す。山歩き向きの格好が和装の探索服に切り替わる。


────少しだけ、カメラを任せます。


──────────────────────


 小鳥遊が押し負ける。五倍もあろうかという体躯差では仕方ない。


 その瞬間、横を橘がすり抜ける。とん、と小鳥遊を後方へ押し出すと、片手に持っていたカメラを渡す。そのままの勢いで牛頭に駆け寄る。


「橘さん!?」


 驚きのあまり名前を連呼することしかできなくなっている小鳥遊を背に、橘が立ちはだかった。


「いざ、尋常に」


 佩いた太刀を引き抜くと、瞬間的に飛び上がり、牛頭の頬を蹴り抜く。


 よろめいた牛頭の首に向かって刃を振る。しかし、頭突きのように繰り出された角を避けるためにそれは中断せざるを得なかった。


 牛頭の肩を足場にして、後ろを取る。返す刃で頸動脈を狙って突き出した。


「これがお前の死だ。────詠唱、四重奏」


 閃光が四回。


 爆発的に加速した太刀が牛頭の首を刎ねた。


──────────────────────


────大丈夫ですか?


「は、はい…………」


 小鳥遊さんからカメラを受け取る取材班。すでに元の格好に戻っている。


「探索者……だったんですか?」


────元、がつきますが。あ、免許はまだ有効です。


「橘……引退した太刀使いの探索者……まさか、ね」


────小鳥遊さん?


「…………はは、あはは! 橘さん、強かった! ありがとうございます!」


────いえ、取材のお礼ということで。


──────────────────────


 後日。

 某番組制作会社オフィスにて。


「君ねえ…………ドキュメンタリーで取材班が手ぇ出しちゃダメでしょ」


────すみません。


「だけど配信した動画の評判はいいよ。…………よくやったね」


────ありがとう、ございます。

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