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温かいイングリッシュマフィン(2)

 船瀬茉莉花は、高校生の時の同級生だった。当時は今と違い、カルトのカの字もないキャラクターだった。誰にでも優しいし、いじめっ子を守っていた事もあった。多少、お花畑な面がある事は否定できないが、ちょっと天然ボケも入り、愛されキャラだったと良子は記憶していた。少なくともメンヘラではなかった。


 茉莉花とはカフェ巡りの趣味が一致し、休日にはよく一緒に遊んでいた。特に茉莉花は、英国風のカフェが好きで、イギリス料理にも詳しかった。


「日本の人達は、英国料理を誤解してるよ。スコーンやイングリッシュマフィンとか、美味しいものいっぱいあるのに。なんで英国料理が不味いっていう偏見ができてるの?」


 よく、そんな話もしていた。確かに英国風カフェで食べるスコーンやケーキは不味くはなかったが。


「それだけ日本料理に誇りがある人が多いんじゃない?」

「誇りがあるなら、他国の料理は認めるはずじゃない。それは単なる高ぶり、偉そうにしてるだけなんじゃない?」


 いつもはフワフワと天然っぽい茉莉花だったが、料理やお菓子に関しては自己主張が強かった。


「まあ、美味しければ何でもいいじゃん」

「そうだけどさー。一方的にイギリス料理を悪く言うのはおかしい。そもそも味覚って子供の時に育つから、自国の料理が一番美味しく感じるようにできているのよね。だから、他の国の料理を批判するのは、正しくは無いのよ」


 茉莉花は、口を尖らせて子供のように文句を言っていた。そうは言っても、こうして女子二人でお茶をするのは、楽しく、時間はあっという間に過ぎていった。青春の一ページと言われたら、否定はできない。


 そんな時間が永遠に続くかと錯覚しそうになったが、良子は作品の受賞が決まり、大学生活と作家生活の二足の草鞋生活になった。


 一方、茉莉花は実業家の大金持ちに見そめられる、大学卒業後、すぐに結婚して専業主婦になっていた。女性なら誰もが羨むようなシンデレラのような結婚だった。結婚式では明らかに茉莉花に鋭い姿勢を送っている女性陣もいたが、良子は素直に祝っていた。


 その後、茉莉花は、夫の仕事に伴い、アメリカや香港に引越し、なかなか連絡はとれなくなっていた。年賀状のやり取りは一応していたが、それ以上のものはない。子供も生まれる時期かもしれないし、良子も仕事が忙しかったので、その点は仕方ないと思っていたが、突然去年から連絡がくるようになった。


 普通の友達としての連絡だったら、とても嬉しかっただろう。しかし、茉莉花は、そんな動機では連絡を送ってはこなかった。


 良子にとって一番嫌なパターンだった。カルトの勧誘目的での連絡。


 どうやら茉莉花は、今は日本にいるようだが、子供はなく、暇を持て余していたらしい。そんな中、近所の友達にカルト勧誘され、信者になってしまったらしい。高校生の時も天然の抜けたキャラだと思っていたが、ここまで抜けているとは知らなかった。


 勧誘の電話が来るたび、優しく断っていたが、だんだん相手はメンヘラ化していき、深夜に電話がくる事も珍しくなくなった。


 しかし、こうやって「論破」している時は、ちょっと気分が良くなったりもして、ブロックする事はできなかった。我ながら性格が悪いとは思うが、心の底ではシンデレラのような結婚をした茉莉花に嫉妬していた面もあったのかもしれない。


「良子、一緒に英国カフェ行かない?」


 徹夜明け、仮眠をとったら夢に茉莉花が出てきた。高校生の時と変わらず、抜けた笑顔で良子にカフェに誘っていた。


 何で茉莉花はああなってしまったんだろう。どこからどう見ても幸せな結婚をした専業主婦にしか見えないのだが。


 ベッドから上半身を起こし、しばらく茉莉花の事について考える。


 時計を見ると、まだ朝だったが、徹夜明けだったせいか、茉莉花の夢を見たせいなのか、気分はスッとしない。


「うーん、お腹減ったな」


 涼子はキッチンに向かい、冷蔵庫の中を漁ったが、ろくなものはない。同居している母は朝早くに仕事に行ってしまったようだ。毎朝早く起きて仏壇の掃除をし、ご先祖様に日々の生活を報告してから仕事に行く母とは、生活リズムが微妙に違い、最近あまり顔を合わせていない。


 ふと、某ファストフードのソーセージマフィンやハッシュポテトのモーニングメニューが目に浮かんだ。あれを食べれば、今の不快な気分が落ち着くかもしれない。


 さっそく、良子は身支度を整えて、駅前にあるファストフードへ向かった。

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