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いのちのパン屋さん〜明日への光〜  作者: 地野千塩


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幸せなラージクリンゲル(2)

「という事で、悔い改めの祈りをしたよ」


 光は、放課後福音ベーカリーに足を踏み入れていた。看板ワンコのヒソプは、散歩に出掛けてしまった。店のちょっとしたお手伝いをしている村上マリが、いつも散歩をしてくれているようだった。


 イートインスペースに座り、仕事がひと段落した蒼と向き合って座っていた。テーブルの上には、ラージクリンゲルというパンがある。形はプレッツェルにそっくりだが、スライスアーモンドがトッピングされ、甘い香りもしていた。


 店のテーブルに一番目立つところに推されて置いてあり、ついつい頼んでしまった。


「そっか。占いはやめた方がいいね。これが一番神様から心が離れるからね。悪魔が裏にいるから、最初は幸せでも、だんだん気が狂ってぃるから」

「そっかー」


 蒼は相変わらず色素が薄いイケメンだったが、最近は気が抜けた笑顔を見せるようになった。初対面の時のようにイライラしたりはしていなかった。


「そういえば蒼ってクリスチャンなの?」

「クリスチャンっていうか、社畜っていうか」

「どういう事?」


 ちょっと不思議くんである事は否定できないが、近くに同じクリスチャンがいるのはちょっと心強い。


「あれ、あの筆ペンの色紙なの?」


 イートインの壁には、達筆な筆ペンで書かれた色紙が飾ってあった。どれも聖書の御言葉が書かれている。


「喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい。(ローマの信徒への手紙12章15節)」


 今日は、この御言葉が気になってしまった。両親と一緒に悔い改めをした時は、明らかに泣く人と共に泣いていた。今度は、喜ぶ人と共に喜びたいと思ったりする。


「お客様の一人で、すごい達筆な人がいるからね。今はアメリカに住んでいるんだけど、お金払って書いて貰ってる」

「へー、すごいね」


 壁にある御言葉を見ていたら、光もだんだんと元気になり、目の前にあるラージクリンゲルをちぎって食べる。バターたっぷりのデニッシュ生地でクリームの甘味があり、見た目よりは腹にたまるパンだった。たぶん、半分も食べられない。


「このパンはデンマークのパンだよ。誕生日の人が買ってみんなにお裾分けする幸せのパン。特別な日のパンだね」

「え、特別って?」

「実はこのパン屋のオーナーから人事異動があって、しばらくこのパン屋から転職する事になった。転職っていうか、本業に戻るだけだけどね」


 そう語る蒼の表情は、少し寂しげだった。


「別に閉店するわけじゃないから、いつでもパン屋にきてね」

「そっか……」


 そうは言っても光も寂しい気分になってしまった。オレンジ色の明るいパン屋は、この蒼の雰囲気にぴったりだったから。


「このパンってプレッツェルの形にも似てるね。ひらがなの『め』の字みたい」

「うん。プレッツェルは、愛や腕という意味もあるんだ。祈りという意味もある」


 なぜかここで、蒼は少し寂しげな表情を見せた。


「光、祈れ。困った時でも、そうでなくてもいつでも祈れ。神様は全部聞いてくれるから」

「う、うん……」


 占い師に行ったのも、自分の弱さが引き起こした事だった。目に見えない神様より、目に見える占いの方がわかりやすかった。両親に反抗したい気持ちもあったが、根っこには心の傷を自分で対処できない弱さがあった。目に見えない神様を信頼できない臆病さもあった。クリスチャンは宗教に頼る弱い人という印象もあったが、全く姿を見せない神様に祈り、信頼するのは、心が強くないと出来ないのかもしれない。


「私、もっと強くなりたい。そう思った」

「ま、その前にラージクリンゲルをお食べ。あんまり塩辛い事を最初から言っていても、息切れするからね」

「うん」


 こうして蒼と一緒に食べたラージグリンゲルは、表面はサクリと香ばしく、中身はクリームで甘かった。


 確かにこのパンの幸せ味を独り占めするのは、もったいない。


 お土産にこのパンを買い、切り分けて貰って両親や友達、香織にも配ろう。

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