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いのちのパン屋さん〜明日への光〜  作者: 地野千塩


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小さきもののライ麦パン(3)

 マリは芝犬を店の中に連れていくと、店長と思われる男から、両手いっぱい紙袋を貰っていた。


「マリさん! ヒソプの散歩ありがとう。これは、今日のパンだよ。色々入ってるから、ゆっくりお食べ」

「わー、蒼さん。ありがとう!」


 何が嬉しいのか、マリは目元をうるうるさせながら、喜んでいた。


 確かに店長らしき男は、イケメンだった。二十五歳ぐらいだが、色素が薄く、王子様系のイケメンだった。ただ、さすがパン屋だけあり、体格もよく、腕や指は肉体労働を常時している事を連想させた。意外と白いコックコートがよく似合っていた。胸元には、天野蒼という名前が刺繍されていた。


「あと、今日、友達連れてきた。成瀬里奈って子。高校の頃からの友達なの。あ、私はこれから転職活動もあるから、帰るね」


 マリはそう言い残すと、足早の帰っていった。小さなパン屋の中は、蒼と二人きりのなってしまった。正確にはイートインスペースの方で、芝犬がいるわけだが。


 ざっと店内の大きなテーブルを見ている。商品はほとんど売り切れのようだった。パン屋で定番商品である塩バターパン、あんぱん、カレーパン、ガーリックトーストなどもない。食パンもない。薄焼き煎餅のような変なパンはあったが、名前も正体もわからないので食べたくない。三つ編みの形のパンは、フワフワで美味しそうだったが。


 チルドケースの方には、サンドイッチがあった。ライ麦パンで作ったサンドイッチで素朴な雰囲気がある。他のパンは売れきれみたいだし、このパンを選ぶしかなさそうだ。


「ごめんね。実はけっこう、パンも売れきれで。種無しパンと、ツォップ、サンドイッチぐらいしかないんだ」

「この平べったい変なパンって種無しパンっていうの?」

「うん。聖書の中にあるパンを再現してみました。ツォップは、カトリック教徒とユダヤ人が安息日に食べたりするパン。実は、私、キリスト教の関係者なんだよ」


 宗教の名前を聞き、里奈は思わず顔を顰めそうになる。自己啓発セミナーにズブズブだった里奈は、宗教に頼るなんて弱者そのものに思えてしまう。


「あ、今、宗教キモいって思ったでしょ?」

「やだ、なんでわかったのよ」


 里奈は、バシバシと蒼の腕を叩く。おばさん臭い仕草だが、正直イケメンに興味はない。それよりも自己啓発セミナーの申込みたい。


「確かに宗教はキモいけど、里奈さんだって神社行ったりしてるじゃん?」

「エスパー?」


 蒼の勘の良さに、怖くなってくる。自己啓発セミナーの講師は、神棚を飾り、神社に行くと成功しやすいとも言っていた。里奈にとってはスピリチュアルは騙しの手段だったが、実際、そうすると運気が上がる事もある。スピリチュアルは胡散臭いが、自己啓発セミナーの講師がしている活動は、なぜか正義の様に見えてしまった。


「まあ、エスパーみたいな事しちゃってごめんね。食事になるようなパンは、ライ麦パンのサンドイッチしかないし、マリさんのお友達だから、タダで奢ってあげるよ」

「いいの?」


 ぜいぶんと気前が良いとは思ったが、確かキリスト教は、福祉活動も熱心だったと思い出した。里奈もキリスト 教系列の高校だったが、年中ボランティア活動をやっていた。バザーのようなものを開き、パンも売っていた事も思い出す。そういえば学校にいた神父が「聖書の言葉やイエス様については、命のパンだと例えられています」と説明していたのを思い出した。確かにキリスト教とパンは関係深いのかもしれない。宗教は気持ち悪いが、こう言った福祉的な活動については、悪くはない。そんな里奈の気持ちを見透かすように、蒼はニコニコと笑っていた。


 琥珀色の蒼の目を見ていると、確かに嘘などはつけないタイプだろう。自己啓発セミナーの講師には、絶対いないようなタイプに見えた。


 そもそもこんなイケメンだったら、それこそ自己啓発系の講師やYouTuberにでもなって楽して大金を稼げばいいのに。そんな事も思ったりした。


「パン屋の仕事って好き?」

「好きっていうか、副業だし。好きとか以前の問題だよね」

「副業? パン屋が?」


 やっぱり蒼は不思議くんかもしれない。確かマリもそう言っている事を思い出した。

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