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いのちのパン屋さん〜明日への光〜  作者: 地野千塩


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燃える炭火とフォカッチャ(3)

 福音ベーカリーは、小さなパン屋ながらもイートインスペースがちゃんとあった。窓辺にあり、太陽の明るい光が降り注いでいた。イートインスペースの割には、テーブルには花柄のテーブルクロス、一輪挿しもあり、ちょっとカフェっぽい雰囲気だった。


「はい、フォカッチャとコーヒーだよ」


 蒼は皿とコーヒーを持ってやってきた。フォッカチャには、ミニサラダもついていた。


「えー、いいの?」

「いいの、いいの。サービス」


 蒼はそう言いながら、茉莉花の目の前に座ってしまった。意外と仕事にはゆとりはあるようだ。そういえば以前来た時、パン屋は副業でやっているとか言っていた。本業は何をしていつるか謎だが、その点は深く突っ込んではいけない雰囲気が出ていた。


「あれ? 良子のサイン?」

「うん、無理矢理良子さんに書いてもらった」


 イートインスペースの壁には、友達の鈴木良子もサイン色紙も飾ってある。実は良子は佐々木マロンというライトノベル作家で、既刊は五十冊以上も超える。表紙は可愛いイラストの本が多いが、徹夜は当たり前で、かなり激務の仕事のようだった。今更だが、忙しい良子にカルト勧誘の電話などをかけて迷惑だっただろうと反省する。良子の立場に立てば、論破の一つや二つは言いたくなってしまうだろう。


「良子さん、今度このお店を舞台に異世界ライトノベル書いてくれるらしい。いや、照れるね」

「そっか。良子も頑張っているんだね」


 一方自分は、どうだろう。韓国語の勉強もたいして進まず、趣味の筆ペンも今はほとんど活かせていない。急に自分は社会から見捨てられている存在だったと気づき、それを誤魔化すかのように、フォカッチャを食べる。まだ熱々で、塩味が効いている。案外、これだけ食べても満足できそうだった。


「フランスパンは焼きたてっていうより、出来上がって三時間後に食べるのがおすすめ」

「へー」

「ライ麦パンは、焼きたてじゃなくて翌日がいいよ。これは日持ちがきくからね。菓子パンや惣菜パンは焼きたてが一番だよ。うちのパンはお昼頃も焼きたて食べられるから、なるべくその時間 に来てね」

「そっかー。カレーパンやピザパンは、焼きたてをすぐ食べたいね」


 しばらくパンの話で盛り上がるが、ふと、あの看板に書いてある事を思い出した。


「あの看板の聖書の言葉の意味って何? そういえば私、カルトにいた時、イルミナティや悪魔崇拝者の不幸を願う祈りをしてたんだけど」

「はー、茉莉花さん……。カルトに騙されるのは、仕方がない面もあるけど、それだけはやめよう。逆効果だから」


 蒼は心底呆れたようで、顔を両手で覆っていた。繊細そうな見た目とは違い、手はゴツゴツとした職人のものだった。火傷の跡もあった。


「世の中に悪魔崇拝者がいるのも人間への懲らしめだったりするよ。神様は自分に反いた人間には、悪い指導者の元に引き渡すっていう裁きをするんだよ。むしろ悪魔拝んでるっていう思想の支配者の方がまだマシだよ。普通の何の思想も無い人間が支配しだしたら、もっともっとカオスになるよ。ある意味彼らはわかりやすい」

「うーん、確かに。よく覚えてないけど、旧約聖書のバビロン捕囚ってそんな感じだった」

「そもそも悪い人も、悪魔や悪霊のせいでそうなってるんだよ。悪魔や悪霊に悪い事を吹き込まれて、変な行動してるだけだよ。単なる操り人形と思うと、怒ったり復讐する気持ちも失せるよね。一番の解決策は、陰謀論やって悪魔崇拝者やイルミナティの手口を暴露する事じゃなく、神様に立ち返る事、悪魔崇拝者やイルミナティの人の為に祈る事。彼らは心の平安も何も得られないし、憐れむべき人達だよ」


 そんな綺麗事と思ったが、蒼の琥珀色の目を見ていたら、やっぱり他人の不幸を願う祈りは間違っていたと感じる。逆に誰かから不幸を願われていたりしたら、とても怖い。


「浮気性の夫や、不倫女の事も許した方がいい?」


 彼らの事を考えると、胸が痛いが。


『もらったパンの代わりにフォカッチャを返す』


 いつか夫が言っていた言葉を思い出す。復讐したい気持ちは無いわけじゃない。


「当たり前だよ。というか、不倫なんか神様が一番のブチギレ案件だよ。別に許さなくてもいいから、このまま復讐なんてしないで放っておくべき。神様が代わりに復讐するよ。まあ、彼らに祝福したら、燃える炭火を積めるけど、どう?」


 蒼はここでイタズラっ子ぽい表情を見せた。


「祝福の仕方ってどうやるの?」

「じゃあ、お手本見せる。家に帰って、部屋で一人でやってみてね!」


 ニコニコ笑顔で、蒼は茉莉花の夫や不倫相手を祝福していた。


 神様


 私は自分を傷つけた夫や不倫相手を許し、祝福します。


 どうか彼らに金銭、健康の祝福があり、心の平安が守られますように。イエス・キリストの御名前によりお祈りいたします。


 アーメン。


「アーメンって初めて聞いた」

「あれ? アーメンぐらいは、キリスト教系陰謀論カルトでも教えてもらってなかった?」

「そういうの全くないね。お酒とコーヒーを飲んだらダメとか、ワクチンは獣の刻印っていう話題ばっかりだった。フラットアースも言ってたな。あと、カトリックが土曜日礼拝から日曜礼拝に変えた陰謀とか。異言の祈りもしろとか」

「うーん。そっかー、そっか……。フラットアースや異言の祈り自体は一応聖書に根拠があるから、全てが悪ではないんだよ。お酒やコーヒーも依存的な人は控えた方がいいのも事実。他は全部デマだけど」

「意外、カルトの教えは全部間違ってると思った」

「まあ、特にキリスト教系陰謀論カルトと、普通のキリスト教はちょっと紙一重みたいな所はあるからね……。今は陰謀論好きな人が通いやすい教会って、ほとんど無いしね。その辺は、日本の教会は取りこぼして勿体ない事してるよ。今、コロナの違和感からイエス様に気づいた人って結構多いのに。普通の教会より陰謀論カルト教団のが魅力的に見えちゃってるのは、大問題だよね」


 蒼は呆れつつも、帰りにお土産のパンもいっぱいくれた。食品ロス問題があり、廃棄するより、タダで貰って欲しいようだった。両手いっぱい紙袋に入ったパンを貰ってしまった。甘いパンの匂いを感じながら、自分も祝福されているような気がしてならなかった。少なくとも、もう孤独は感じていなかった。

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