天使の休日とイチゴジャム(3)
次の木曜日、蒼と紘一は休暇を楽しんでいた。いつもはコックコート姿の蒼だが、シャツにジーパンというラフなスタイルだった。一方紘一も、似たような格好だった。いつもは頭にタオルを巻いているが、今日は青いキャップをかぶっていた。
休暇といっても何をしたら良いか思いつかず、とりあえず二人で穂麦市駅前にある商業ビルに向かった。駅から直結している商業ビルで、本屋やレストラン、雑貨屋や化粧品屋など色んな店が入っている。
「とりあえず本屋いこうよ、ミルル。聖書が置いてあるかどうか、確認するよ」
蒼は相変わらずのワーカーホリックっぷりだったが、微笑ましいものなので、紘一も付き合った。
駅ビルにある比較的大きな本屋だったが、聖書は一冊もなかった。宗教のコーナーには、お坊さんのありがたい言葉の本、引き寄せの法則の本が山積みになっていた。
「おぉ、ミルル。これは由々しき事態ではないかい?」
「しょうがないですよ、先輩。日本はクリスチャン人口は少ないですからね」
「引き寄せや仏教の本には、きっと何か人間が好みそうな魅力があるんだな。少しチェックしてみる。何か我々の参考になるかもしれない」
蒼はしばらく他宗教やスピリチュアルの本も立ち読みしていた。相変わらずの仕事熱心ぶりに紘一はため息が出てしまった。
こうして午前中は、書店で時間を潰してしまった。蒼は宗教やスピリチュアルの本だけなく、ライトノベルや漫画のコーナーも見ていたが、かなり驚いていた。
悪魔(蛇や鬼や龍神も悪魔)が主役の漫画、生贄をテーマにしたライトノベルも多く、蒼の目は丸くなり、絶句していた。
「ミルル、世の中の人は、こんな冒涜の書を読んで面白いのか?」
「先輩、冒涜の書とか言っちゃダメですよ。神様を知らない人は仕方がないです。それにクリスチャンも、こういった娯楽には関心ないですから、危機感も無いんですよ」
「そ、そうか。しかし、カルチャーショックだった。作家や漫画家の才能、タラントも悪魔に盗まれていると思うと、腹がたつね……。まあ、こういった娯楽でも神様も何かメッセージを伝えているものもあるだろう。公正で平等な神様だから、どんなメディアに接していても、カンの良い人は神様に気づけるようになってるんだよ。JPOPも歌詞の『あなた』を『イエス様』に変えると讃美歌になっちゃうしね。スピリチュアルも悪いものだけど、元ネタは聖書からパクってるのも多いから」
「そうですよ、先輩、スピリチュアルからクリスチャンになった人も少なくないですよ。前向きに行きましょう!」
すっかり落ち込んでいる蒼を励ましつつ、次は映画を見て、昼ごはんを食べた。映画は、漫画原作の超大作ファンタジーだったが、人類を救うために主人公が一人、犠牲になるものだった。この映画は神様がつくらせたものだろうと感じ、蒼も紘一も周りが引くぐらい号泣し続けていた。映画は、ごくたまに神様からインスピレーションを受けて作られたものもあったりする。
「先輩、映画感動しました!」
「だな! しかし、腹が減ったー」
「次は、駅ビルのそばの公園に行きましょうよ。フードトラックが出ているそうですよ」
「フードトラックか。それは、興味があるね」
映画の感動は収まらないが、お腹は減る。二人で、駅ビル近くにある小さな公園に向かう。そこには、フードトラックがいくつか出店してうた。
ホットサンドのフードトラックが気になり、二人で買って食べた。公園の隅のベンチに座り、熱々のホットサンドを齧る。他に誰もいない事をいい事に、蒼や紘一の口の周りは、ホットサンドに挟まっていたチリソースで汚れていた。
「ホットサンドうまい!」
紘一は思わず声をあげる。青空の下で食べるので、余計に美味しく感じてしまった。熱々でチーズもトロトロだ。
「これは確かにうまいな。あ、ホットサンドにたこ焼き入れるって言うのはどうかな? 中にキャベツとマヨネーズを入れたら、味もマイルドになるんじゃないか?」
「先輩、グッドアイデアですよ!」
紘一が笑顔で賛同すると、蒼は口元を拭きつつ、このアイデアをメモ帳に書いていた。やはり、こうやって休暇をとってよかったのだろう。蒼を誘ってよかったと満足したところ、目の前に女がいて、こちらを睨みつけていた。占いの悪霊がついた年老いた女だった。
「もしもし、少し話しかけていい?」
女は、ニヤニヤと笑いながら、二人に近づいてきた。




