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何でも合う食パン(2)

 風子は、憂鬱な気分になりながら、自宅に帰った。女子達の悪口をうっかり聞いてしまった為、心が重い。そんな心を表すように、ランドセルも重く感じてしまった。


 ランドセルは普通のリュックサックと比べて重いし、なぜこんなカバンを使っているのか風子はよくわからなかった。男女差別をやめる働きもあり、どんな色のランドセルでも大丈夫だが、それ自体は暗黙の了解で使う事になっている。リュックサックを使うと、とても変な子に見られそう。


 そんな事を考えつつ、住宅街にある自宅に帰った。ここは、穂麦市という平凡な小さな土地だった。駅前などはコンビニやスーパーなどの商業施設栄え、都心まで一時間弱でつくので、年々人口は増え新しいマンションも多く建っているようだったが、住宅街はお年寄りの住人も多い。風子のような小学生は多くは無いようだった。


 住宅街は、似たような二階建ての家が並ぶ。中には新しい家もあったが、トタン屋根の貧困風の家もあったりする。


 風子の家は、ごくごく普通の一軒家で、両親と父方の祖母と一緒に住んでいた。両親は共働きで忙しく、家に帰ると祖母と二人きりになった。リビングで二人でお茶を飲む。テレビからが、アニメの再放送が流れていた。昔のアニメで、特に面白そうではない。


「風子、遅いな。どこ行ってたんだい」

「た、ただいま。学校だよ」


 リビングはアニメの音だけが流れ、二人の間に沈黙が流れた。


 内心、風子はこの祖母が苦手だった。いつも不機嫌だし、皺くちゃな皮膚もちょっと怖い。半分眠っているような目だったが、睨むとけっこう鋭い視線を送ってくる。認知症も少しあるようで、時々母や風子に八つ当たりする事もあった。


 可愛いおばあちゃんとは正反対のような祖母だった。脚や腰が悪く、暴力行為などをしないのが、救いだが。父によると、祖母は若い頃は、だいぶエキセントリックな人だったらしい。いわゆる教育ママで、勉強が出来ないと定規や新聞紙を丸めたもので殴っていたらしい。


 そんな話を聞いてしまうと、より祖母が苦手になった。そもそもこんな風に同居しているのも、世間ではちょっと珍しいらしい。数年前、この祖母が無理矢理ごり押しして、同居する事になった。おかげで母は仕事復帰して、あまり家にいたがらない。


「ね、おばあちゃん。お煎餅でも食べる? 冷凍庫にはアイスがあるよ?」


 祖母と二人っきりの沈黙した空気に耐えられず、風子はわざと笑顔を作り、機嫌をとってみた。やっぱり祖母と一緒にいると緊張してしまう。顔色を読み、どうにかこの場を乗り切りたいと思ってしまう。


「は? 煎餅かい。私はそんなババくさいものは食わんよ」


 祖母は、子供のように頬を膨らませた。より祖母が不機嫌になったようで、指でテーブルをコンコン叩き、舌打ちまでしていた。


「あ、アイスは?」


 ビクビクしながら再びきく。


「アイスは悪くはないが、昨日食ったんだよ。それにバターアイスはもう売ってないんだろ? 本当にイライラするわ」


 祖母はバターアイスがやたら好きだった。しかし、バターアイスはネットでもかなり人気の商品で、品切れが続出。今はコンビニでもスーパーでも売っていなかった。単にアイスとして食べるだけではなく、ホットケーキの上に乗せたり、メロンパンや食パンに乗せるとさらに美味しいらしい。風子はやった事はないが、ネットのアレンジメニューを見る限り、かなり美味しそうだった。祖母はそのまま食べる方が好きそうだったが、風子は普通の美味しいアイスといった印象で、毎日食べたい感じではないが。


「バターアイス買ってきてくれ」

「え、今から?」

「そうだよ。お金は渡す」


 売ってる可能性が低いから、断ろうとも思った。しかし、人の顔色を見て八方美人してしまう風子は、この状況で断りにくかった。その上、苦手な祖母からの命令となると、ますます断れない。


「わ、わかった……」

「お釣りを誤魔化すんじゃないよ」


 お金は千円札一枚受け取ったが、お釣りについては何度も祖母に念を押された。認知症の症状なのかは不明だが、前にお金を盗まれたという妄想をしていた事もあった。


「なかったらどうすれば……?」

「ま、バターアイスと同じぐらい美味しいものを買ってきてな」


 その課題はハードルが高すぎる。風子もバターアイスより美味しく祖母が気に入りそうなものは、思いつかなかった。


 それでも断るよりはマシそうだ。風子は断るのがとても苦手だった。


 こうしてバターアイスかそれと同じぐらい美味しいものを探さなければならなかった。

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