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いのちのパン屋さん〜明日への光〜  作者: 地野千塩


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穴の空いたドーナツ(1)

 戸田美穂子は、栄華を極めたシンガーソングライターだった。容姿も美しく、白い肌と金色の髪がよく似合い、アイドル扱いもされていた。天使のようとか、美人過ぎるとも言われていた。


「美穂子ちゃーん、ちょっと太ったんじゃない?」


 そう言うのは、現在美穂子と同居している遠部香織だった。美穂子の叔母で、60歳近いが、生涯独身で、金持ちの家でお手伝いをしている。元々、レストランのシェフだった経歴もあり、香織の作る料理は悪魔のようだった。おかげで、叔母と生活しながら順調に肥え、天使と呼ばれるようなルックスは過去の遺物となった。もっとも、今のぽっちゃり体型の美穂子には、一般人や芸能記者から気づかれにくく、一種の変装みたくなっていたが。


 今日も食卓の上には、ハイカロリーなピザパンがのっていた。正直、朝食べるのには重過ぎるが、チーズやパンが焼ける臭いには、抗えない。


 美穂子は、ザクザク音をたてながらピザパンにかぶりつく。粉がこぼれるが気にしない。


「おいしい。おばさん、このピザトーストなんなの? 魔法の粉でも入れた?」

「入れてないよ。さ、私は仕事に行ってきますからね。出かけるなら、ちゃんと戸締まりするのよ」

「へーい」

「まったく、この子は……」


 叔母は少々呆れつつも仕事に行ってしまった。近所の依田という金持ちの家で、お手伝いをやっている。依田家の一人娘が大変可愛らしいそうで、叔母はよくその話題をしていたが、美穂子はあまり興味もない。


 今はすっかり叔母の家でニート生活だった。少し前、プロデューサーとの不倫が発覚し、一大スキャンダルになってしまった。都内にあるタワーマンションにも記者やファン、アンチも押し寄せるようになり、やむおえず穂麦市という郊外の町へ引っ越してきた。ここは叔母の一軒家もあるし、都心から離れているので、記者もファンもアンチも誰も来ないし、見つからない。


「あぁー、お腹いっぱい」


 ぽっちゃりした腹を啜りながら、リビングのソファでごろ寝をする。


 決まっていた仕事もキャンセルになり、事務所からも、しばらく雲隠れするように言われていた。幸い、テレビコマーシャルなどの広告の仕事はしていなかったので、違約金はそれほどでも無いが、今後の事を思うと、足がすくむ。それでも、仕事が出来る状態でもないので、叔母の家でぬくぬくとニート生活をしているのが、現状だった。


 ソファでゴロゴロしながら、テレビを適当につける。また、俳優やアイドルの不倫騒動をしていた。美穂子の話題は、まだまだネットでは騒がしかったが、テレビでは落ち着いてようだった。


「しかし、芸能人の不倫って、お前らに関係ある? 何を迷惑かけた?」


 ルックスは可愛らしいが、美穂子はけっこう毒舌だった。中身は男と言っていいだろう。それぐらい気が強くないと、やっていけない仕事でもあった。


 テレビには俳優やアイドルの不倫にいちいち文句を言っている一般人がインタビューに答えていたが、全く面白くない。


「前もシンガーソングライターの戸田美穂子の不倫も最低でしたよ」


 急に自分の話題になり、不意打ちで殴られたような気分にもなる。


「は? お前らに何がわかるわけ?」


 美穂子は、しばらく口汚い事を呟くと、テレビの電源を切った。


 さっき、美味しいピザトーストを食べたくせにお腹が減っていた。


 ふと、リビングのテーブルを見ると、ベーカリーの紙袋が放置されているのに気づく。福音ベーカリーというパン屋の紙袋だった。可愛らしい天使と柴犬のイラストが印刷され、いかにもラブリーな雰囲気が出ていた。


 普段の美穂子だったら「けっ!」とやさぐれる所だったが、今朝のピザトーストは、このパン屋のものだろうか。


 妙に気になってしまった。

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