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いのちのパン屋さん〜明日への光〜  作者: 地野千塩


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捨てるところが無いパンの耳(1)

 村上マリの朝は早かった。五時に起き、職場に向かう。仕事は清掃員で、オフィスや学校の掃除を行っていた。


 今の職場は、マリの住む穂麦市の中央に位置する聖マリアアザミ学園のトイレや廊下などを掃除していた。この学園は金持ちのお嬢様が集まる学園で、掃除の時間もない。時々、ボランティア活動などで、掃除をする事もあるらしいが、基本的に学園内の掃除はマリ達の業者が行う。


 上司は以外は、同僚や後輩はみんな老人だった。年金も少ないようで、年老いても働かないと生活できない人も多いらしい。日本の闇を見ているようだ。


 かくいうマリも、色々と人生に失敗し、清掃員の仕事しかない状態だった。もう三十過ぎだが、病気もあり、キャリアは穴だらけだった。


 住む家も事故物件だ。自殺者が出たらしいが、そんな事を気にしなければ、駅に近い快適なワンルームマンションだった。


「豆ちゃん、おはよう」


 マリは、朝早く起きると、キッチンのそばにあり豆苗に水をやった。植物に話しかけると、成長が早くなり、美味しくなるという噂を聞いたので、毎日話しかけていた。百円で買ってきた豆苗は、一度食べたら、二回ほど再生させて食べていた。マリのような貧乏人には、ありがたい食材である。サラダ、パスタ、炒め物、何にでも合うのがありがたい。


 朝食はパンの耳だった。職場である聖マリアアザミ学園の近くにあるベーカリーで配っていた。可愛らしい外観の福音ベーカリーというパン屋で、実際に買い物した事はない。どうせ商品は高いのだろうし、可愛いパン屋も自分には不相応とも思ってしまう。マリは、オシャレも趣味も極力しない生活をしていた。そんなお金もない。


 福音ベーカリーから貰ったパンの耳は、サラダ油で揚げ、最後に砂糖をふるう。原価はおそらく五十円以下だろう。出来上がり熱々のパンの耳を皿に盛り、テーブルの上に持っていく。あと冷蔵庫から納豆、きのう食べ残した林檎をだし、テーブルの上に並べた。


「いただきます」


 律儀に挨拶をし、朝食をとりはじめた。一人暮らしで、朝食を食べるのも静かに過ぎ、テレビの電源をいれる。朝の情報番組で、女性実業家のインタビューがされていた。貧乏状態から苦労して、会社を立ち上げたサクセスストーリーだった。


「大丈夫。あなたもきっと夢が叶うよ!」


 女性実業家の甘ったるい声を聞きながら、パンの耳を齧る。油と砂糖の強烈な甘みが広がり、たいしておいしくはない。本当はバターで作った方が良いとは思うが、高級品であんまり使いたくない。


「本当に夢って叶うわけ?」


 テレビに向かってツッコミを入れるが、返事はない。


 マリはこういった甘ったるいサクセスストーリーが苦手だった。別に再現性がないからだ。若い頃は自己啓発セミナーにはまり、お金と時間を無駄にした事があったが、成功すればセミナー講師の手柄、失敗すれば自己責任と言われる世界だった。結局は、誠実さよりも上手く組織に従順しているものの方が成功している事も見せつけられ、再現性のないサクセスストーリーは、全部詐欺に見えた。それに、一部の運の良い成功者だけ取り上げるのも、「自己責任論」に拍車をかけているだろう。


「あー、どうせ私が貧乏なのは、自己責任ですよね?」


 そんな可愛くない事を言いながら、テレビの電源を切った。過去には事故にあい大怪我も負った。今も精神的な病気があり、長時間働けない。生まれた家も貧乏。これも自己責任なのか、マリには分からなかった。だからと言って環境を呪うのも生産性のない行為で虚しい。悲劇のヒロインをやっていても、救われる者は少女漫画やアニメの世界にしかなかった。


 口に入れていたパンの耳は、やっぱり美味しくない。

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