天才画家令嬢の正体はひまわりを持つ俺だけが知っている。
第四回なろうラジオ大賞参加作品第二十四弾!
「ん~、何か違うのよねぇ」
絵の具の付いた絵筆を持ちながら、十二歳のサリア嬢が呟くのを俺は聞いた。
彼女は貴族令息の俺の幼馴染にして、俺の、サリア嬢と同じく十二歳の弟の婚約者な貴族令嬢であり、物心が付いた時から絵を描くのが好きな令嬢だ。
ちなみにその絵は独特で、その才能のおかげで彼女は、この王都内で知らない者がいないほど有名な画家に現在なっている。
おかげで弟はそんな彼女と釣り合う存在にならねばと現在も努力中だと。
生まれながらの神童と言うべき彼女に追い付けるのかどうか分からんが……なぜ彼女がそこまで天才的な絵を描けるのか俺は知っている。
なぜならば俺には、強力な霊視能力――死者だけでなく生者の魂の本質も事細かに視れてしまう能力があるからだ。
そしてその能力によれば彼女の前世は、この世界とは別の歴史を辿った異世界の画家だった、ゴッホという名の男性らしい。ちなみに生きている間は絵がほとんど売れなかったらしいけど、死後はどうなんだろうね。
そして俺は今、そんな彼女の絵のモデルをしていた。
夏である今、庭に咲いていたひまわりを手にした状態で。
「アリー様、ちょっと茎を鼻に挿してくださいませんか?」
「どんな絵にするつもりかな!?」
ちなみに、前世がどうだろうと。
その感性まで継承されるとは限らないらしい。
実に興味深い事実だ。
ちなみになぜこんな、下手をすれば浮気と周囲に認識されかねない状況なのかと言えば、あるお願いをするために彼女の家を訪れた時、俺をモデルにしたいと彼女に言われたためだ。
※
「そうだサリア嬢、お願いがあるんだけど」
「何ですの、アリー様?」
絵が一段落してからした俺の質問に、サリア嬢は首を傾げた。
「来年入る学校なんだけど、俺が通っている学校とは違う学校にしてくれない?」
※
「アリー様、おはようございます」
「ああ。おはようヘレン嬢」
次の日。
俺は学校で俺の婚約者であるヘレン嬢に挨拶した。
そしてこのヘレン嬢こそが。
サリア嬢にあんな、下手をすれば傷付けかねないお願いをする羽目になった原因である……が仕方ない。
なぜならばヘレン嬢の前世は、サリア嬢の前世である画家ゴッホが生きた世界と同じ世界の住民にして、五歳年上の画家ゴーギャン。
しかも嫌な別れ方をした相手同士!
もしも邂逅してしまったら絶対何か起きる予感しかしない!
だから俺は、どんな手を使っても。
どんな汚名を被ろうとも、二人を会わせる訳にはいかないのだ。
アリー「もしも会ったら……最近流行りの悪役令嬢系な物語の展開の予感(;'∀')」