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軍神(マルス)の星 改訂版  作者: 梶 一誠
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第五話 借金王ルナン・クレールとヨハン・デーニッツ大佐

 軌道要塞。その仮初(かりそめ)の夜に星は無い。内径世界を包む漆黒の只中に薄ぼんやりとした白い月明かりを放つように光量を調整された人工太陽と、それを反射する海原の波頭が星空の代役を演じているにすぎない。

 人工太陽はその機能を完全にストップさせる事もまた無い。日中はもとより深夜であろうと絶えず歪な世界の温度を人間や動植物が生命活動を維持できる状態に保持し続けなければならない。もし仮にそのプラズマ光源体が活動を中断させれば一両日でこの世界からは熱量が茫漠たる宇宙空間へと自然放熱され、その後に来るのは生きとし生ける者にとって果てしない極寒地獄と化してしまう。

 この海洋群島型軌道要塞『ディジョン・ド・マルス』にあって、人の居住が許されているオーゼル島の全景を遥か上空から俯瞰(ふかん)してみればちょうど海洋生物の”タツノオトシゴ”の姿を連想させることであろう。それ以外の群島はほぼ人の手が入らない自然保護区として維持され野生のまま放置されている。


 ”タツノオトシゴ”がうつむくようにしている(くび)れた首の部分にあたる台地に建設、造営され続けてきた首都セント・グロワール市の桟橋を離れ、一般的な民間中型貨客船『オーストリッチ』号は政庁都市の摩天楼が生み出した豪奢な光の木立を波間に映えさせる海原をその楕円形型の舳先で掻き分けながらつき進んでいた。

 その姿は灰色の巨大なイモムシにも見える。大きな波を越える度に、安普請(やすぶしん)の船体は耳障りな軋み音を絶えず生み出し続けている。

 日中はうだる様な暑さだったにも関わらず、海上に漂う薄い(かすみ)のかかった空気とそこを流れる潮風は早くも秋の様相をおび、その背中にあたる展望デッキに立つ船客たちにうっすら肌寒さを感じさせていた。

 デッキをぐるりと取り囲む手すりに背中を預けるルナンのすぐ横で

「結局……はめられた訳よね。あたしたちは」と、キサラギが暗い海原に目を落としながらつぶやいた。

「以外に、早かったとオレは思っているけどな。じらされるのは性に合わない」

 ルナンの視線の先では夜半の船上デートを楽しむカップルがちらほら。若い世代から熟年まで様々な男女が腕を組み相手の首に腕を絡めたり、それぞれがこれからのお熱い夜への序曲を満喫している。

 その甘い雰囲気を助長させているのは、展望デッキ最後尾に備え付けられている大型モニターから絶えず流されるムーディなジャズバンドの演奏だった。

 「情報省外事局第四課ヨハン・デーニッツ大佐だったっけ?そのオッサンのオファーを受けざるを得なくなった……と」キサラギは舳先の波頭が産みだす青白い夜光虫の碧い輝きから左隣りを見れば、ルナンは偽りの星空を見据えていた。

「こっちから乗ってやったのさ。そうでもなきゃ今後の展開がさっぱりだし、それに奴のオファーをクリアできれば」

「借金を“チャラ”にできるって言われたのよね?」ここでルナンは自分の養女へと微笑みと言うより、何事かを含んだ悪辣(あくらつ)とも取れる笑いを向けた。

 今夜の彼女はベージュ色にブルーストライプ柄の入った膝下まで丈のあるロングシャツ。インディゴブルーのスリムパンツにライトブルーのパンプスという私服姿。これに対してキサラギの方は、ライトブラウンのブレザーに水色のシャツ。チェック柄にプリーツの入ったスカート。

 あの宣材写真と同じ出で立ちで、ゆっくりと体の向きを変え、ルナンと同じように手すりに背中を預けると

「それだけじゃなさそうですな、お姉さま。……海賊からちょろまかした岩塩の件も見逃してくださるとでも?」と、キサラギが里親の顔を覗き込むようにして近づけると、ルナンは黙したままで人差し指を唇の前に立てた。

 キサラギはふと、あたりを見廻しながら、この展望デッキにあっては自分たち二人がこの場にはそぐわない存在であることに気付かされた。あるカップルはきつく抱擁しながら口づけを交わし合い、また別のカップルは二人とはそう遠くないベンチで互いに顔を近づけては何やらヒソヒソ。ここに居合わす恋人たちは代わる代わる自分たちに視線を向けては笑ったり、小首を傾げていたりするのだった。

 多感なお年頃の少女は、今自分たち二人が(はた)から見れば変な関係の女二人と思われているのではないかと即座に察したものの、それこそ適齢期を迎えている里親の方は他人の目など歯牙にもかけず、今後の作戦と企画の展望に余念のない様子。

「ねぇルナン。い、いやお姉ちゃん。あたしさぁ小腹がすいたな。あそこで何か食べようよ」キサラギはわざと“お姉ちゃん”を強調させると、展望デッキ中央にあるドーム状でガラス張りのビュッフェへとルナンを誘った。

「ええー、ヘキサゴンエリアに入る前に食い物はちょっとなぁ」あまり気乗りしない義理の姉に

「スイーツもあるみたいだし、それにデーニッツ大佐との話も詳しく聞かせてよ」と、執拗に手をぐいぐい引っ張るキサラギに

「スイーツか⁈それならいいか。それにああいうざわついた所なら、込み入った話もしやすいだろう」観念したルナンもようやくツインテールのJKスタイル少女に腕組みされながら、歩を進めた。

 定期貨客宇宙船が目指すのはトパーズ湾に臨む首都から南に数キロ隔てた、バレアス島の約三分の一を開墾して建設された自由フランス海軍のゼッケル海軍基地。

 その施設には、この軌道要塞と宇宙空間を繋ぐ出口となる発進射出口、通称ヘキサゴン・エリアが存在していた。その射出孔から宇宙へと躍り出た後、この『オーストリッチ』号は一路、ドイツ選帝候領域の軌道要塞『プロイセン』へと(おもむ)く予定であった。

 現時刻は八月二十五日の二二:〇〇時を少し過ぎた頃合いである。一般人に身をやつして船客となった二人の話題に上がった、ヨハン・デーニッツ大佐なる人物の半ば強引とも言えるご招待に、二人が応ぜざるを得なかったのは海水浴に興じてから二日目、二十三日の夕刻であった。

 二人が寝起きするこじんまりとした赤い屋根の借家前に、黒塗りの高級車が乗り付けそれと同時に黒服の一団が飛び出てくるのを、カーテン越しに見たルナンはクロネコのドロイドを悟られぬよう外へ出すようキサラギに指示した。

 キサラギも騒ぐことなくルーヴェンスを抱っこして、勝手口から裏の路地に放つべく居間を飛び出た時、見た目物騒な連中にしてはソフトに玄関ドアがノックされた。


 「海の揺れ方というのは、なんとも独特なんですなぁ。わたしにはどうも馴染みませんね……」と、ルナンと相対するスーツ姿の初老の男性は一人掛け用のソファーからのっそり立ち上がった。

 でっぷりと締まりのない体躯をしている男性が向かったのは、ルナンが招き入れられた最高級スウィートルームに設置されているワインセラーであった。

「わたしたちの水着姿を堪能(たんのう)していたんでしょうに。あのヨットに乗っておられた?情報部の大佐殿がこんな辺鄙(へんぴ)な田舎までわざわざ足を運ばれるのは少し以外ですね」

 ルナンはワインセラーの扉を開けて中に収められている逸品を手に取って吟味中であろう人物には目もくれずに、自分が連れてこられたセント・グロワール市の中心街ペルサン地区に(そび)え立つ摩天楼の一画、高級ホテル『ヴィラージュ・ド・リヨン』の二五階展望スウィートルームからのめったに見られない、ため息が出そうな夜景を眺めていた。

 ルナンは豪奢(ごうしゃ)な二人掛けソファに胡坐をかいている。今の彼女はそれら調度類にはそぐわない、デニムの短パンと首の周りがよれよれのトレーナー、履物は洗いざらしの紐がくたびれたスニーカーと言う部屋着のままである。

「いや、ここぞと言う時は自分でも動きませんと……。まずはワインでも如何かな?めったにお目にかかれない逸品を見つけましたぞ」大佐と呼ばれた初老の男性は、あくまでマイペース。のっそりとした動きでワイングラス二つとその自分が捜し当てた古ぼけたラベルが目立つボトルを、二人の間にあるテーブルに置いた。

「わたしの同居人、妹分のキサラギは?どうしてます?まさか……男たちが寄ってたかって」と、表情を険しくさせるルナンに、大佐は

「そうした荒事はね今のご時世では御法度(ごはっと)です。今、彼女は監視付ですがホテルご自慢の高級スィーツでも召し上がっているでしょう。もちろん我々の(おご)りで。監視役も女性局員を充てています。ご安心を」そう云った後に、大佐は二人分のグラスに半分くらいの高さまで赤ワインを注いでから、また一人掛けのソファに腰を降ろした。

「どうしても、私を巻き込まないと気が済まないようですな。大佐殿は……えー、失礼」

「ヨハン・デーニッツと申します。外事局全般を管轄しております。マドモアゼル・クレール」自己紹介を終えたヨハン・デーニッツ大佐はグラスの細く括れた部位を丁寧につかむと、慣れた手付きで一流ソムリエのようにグラスを回してはその芳醇(ほうじゅん)な香りを吟味し、口に僅かに含んで見せた。

 ルナンは鷲づかみするあんばいでグラスを握ると炭酸ソフトドリンクを飲むように作法も何もあったものじゃ無く高級ワインを一気に飲み干し、ゲップと共に話を切り出した。

「あのべらぼうな請求もあなた方の工作の一環なので?」

 ルナンは相対しているヨハン・デーニッツ大佐の容姿を具に見つめながら問うた。彼女は、情報部の外事局、主に国外での活動を主とし、仕事が後ろ暗いと噂されている部署の局長にしては何とも間が抜けていると云うか、圧しの利かない面構えだなと感じていた。

 顔全体のつくりが顎の方向に垂れ下がっているようで締まりが無い上、目が異様に細く相対していても開いているのか否かはっきりともしていない。そして頭全体が耳の上に残った僅かな髪を残してハゲあがっているのだった。

 「こちらの“サイン”を受け取っていただけたようですな。……結構。ですが」デーニッツ大佐はさも自分は目利きであると言いたげに、赤ワインが注がれているグラスを淡い光を注ぐ天井のシャンデリアにかざしている。

「いけませんなぁ!押収した高額品の横領は立派な犯罪行為です。全ては国家国民の財産なのですぞ。クレール中尉」

「私は先の作戦において、海賊連中から押収した各種ドラッグを始め、横流しの武器弾薬一式、及び拿捕した武装商船にいたるまで、申告済みの上軍務局預かりになっているはずですが」ルナンは抗弁してみたが、眼前の紳士は全て折り込みずみらしく

「天然岩塩……あれは?すでに何トンかは現金化して”あなたの船”の改修費用に流用してしまっているではないのですかね、中尉。制服組の方々は海賊からの押収品を収奪しても構わないとの価値観、と言いますか倫理観が我々より大分ズレていらっしゃる方が多くて困る」

 これにはルナンはもはや沈黙するしか術がなかった。

「第四課が彼ら大手海賊の強奪資産内容を内偵していないとでも?連中の羽振りの良さから類推すれば、南宋紅龍会が最近かなり高額の資産強奪に成功していた事は明らかです。我々の調査ではあなたが押収したとされる品目リストの天然岩塩に関する項目には大きなズレが……。試算が合わんのですよ。これは如何なる事か、いうまでも無いですなぁ」こう親切めいてルナンに説明するデーニッツ大佐は、今度はグラスの飲み口を人差し指で丸くなぞり始めた。

「……まさか隠し(おお)せきれるとでも?とんでもない。マドモアゼルは法外だと仰せだが、査問委員会の決定で非承認とされた作戦案にかかった経費を貴官に負担いただく事は不当な事ではありませんぞ」その時デーニッツ大佐の表情が微かに口の端を上げたのをルナンは見逃さなかった。

「なるほど、首府城内で口やかましい女性団体を焚き付けた上、査問委員会を招集させたのも第四課の意向だったわけだな?判った!降参だ。好きにしやがれぇ」ルナンはソファに身を委ねたままで両手を目一杯に上げて見せた。

「何、そう早まることもないでしょうマドモアゼル・クレール。まだお若いのです。挽回の手はありますよ。お聞きになりたい?」大佐はゆっくりとした動きでルナンと自分のグラスに二杯目を注いだ。

「大いにね。ご教授願いたい所であります……大佐殿。私と仲間たちに何をさせたいのかにいたる所まで」ここでまたしてもルナンは惜しげもなく逸品を胃に流し込み、デーニッツ大佐は少し落胆した表情をあらわにさせた。

 

 「敵地に収監されている次期大統領候補を奪還せよですって!し、しかし大佐、私は特殊部隊での勤務経験なんてありませんよ」デーニッツから提示された会談の主旨を明かされたルナンは高級ワインが目一杯注がれたグラスを床に落としそうになった。

 慌てふためくソバカス女の様子を見ても、でっぷりした局長は表情一つ変えないまま

「いえ、奪還その物は別チームが行います。あなた方の働きはその後とういう事になります。作戦の詳細は後ほど」

「まさか、ただ働きはゴメンですが」

「そんな事はありません。その人物を無事国内に届けられれば、あなたが抱えておられる負債は全て正式な予算として再編されるでしょう」

「借金はチャラって事でいいですね」これに黙って肯くデーニッツに向けて、ルナンも黙したままで彼を見返した。しばらく無言の二人であったが、沈黙を破ったのはデーニッツ。

「判りました。ではあなたが無許可で押収した天然岩塩の内三トン分はあなたの取り分としましょう」これにもルナンは無言のまま、グラスを持つ反対の指全てを思いっきり開いた。

 デーニッツはやれやれと頭を振ると、了解の意で今度は首を縦に振った。次に口を開いたのはルナン。

「で、いったいどなた様を奪還するので?」と、あけすけに言い放ったのだ。これにはデーニッツも飲みかけのワインを吹き出しそうになってから初めて眉間に皺をよせ

「あ、あなたは(ちまた)に流れるニュースくらいちゃんと見ておくべきですぞ!」彼は顔を紅潮させてルナンを非難するように指を差してきたが、当の本人はせせら笑い

「お話は伺った。その条件でオファーを受けましょう」と、言った。

「本来なら、貴官ごときが条件をつけられる立場ではないのだが……」

 デーニッツがほんの少しばかり険悪な表情をチビのソバカス女に向けても、当人は知ってか知らずかまた豪快に杯をぐびぐび空けてしまった。

「あなたと飲んでいると、逸品のありがたみが失せてしまいますね。よろしいか?これは西暦二一一二年物で地球産なんですぞ」と、目の前のずぼら女の態度に呆れ返った大佐がこぼせば、ルナンは少し頬を染めながらこうも言い放った。

「ワインなんぞ色付きの水だぁ!腹に収まれば逸品もクソもねぇ。こんな“ど庶民”にふるまう大佐殿のほうがお門違いさね」これを聞いたデーニッツは溜め息をついてさらに頭を振った。

 この時、大佐のスーツから呼び出し音。彼は内ポケットに収めてある携帯メディアを取り出すことなく

「いい頃合いです。入ってください」それに呼びかけると、すぐに高級スィート向けの豪勢なつくりの木製ドアが開いた。

「ルナン!大丈夫だった?」夏向け淡いレモン色で半袖ワンピース姿のキサラギが駆け寄ってきては、その場で立ち上がったルナンの首っ玉にしがみついた。その後をゆっくりとした足取りで大佐の下に歩み寄るダークスーツを着こなしている一人の女性にルナンは目を留めた。

 “狡猾(こうかつ)なキツネ……”ルナンは一瞥するなり、たった今現れた恐らくは大佐の部下であろう人物をこう印象づけた。挿絵(By みてみん)

「こんな状況下でも旺盛な食欲。その肝っ玉には感心だが、それ以外は落第だな。その無賃船泊常習者シップドリフターの娘はな」これがその女性の第一声だった。

「シップドリフターって言うなぁ!このメガネババァ」キサラギから激しく罵声を浴びせられても、デーニッツ配下は意に介さぬままルナンの養女へ侮蔑ともとれる冷笑を向けるのみ。

 「君……」デーニッツはそれだけを言うと席を立ち、ワイングラスを持ったまま最上階からの夜景を拝むべく窓のほうへと。

「お初にお目にかかる。ハンナ・マティアスと申します。ルナン・クレール中尉……いや、元大尉殿」自己紹介を終えた、キサラギ言う所のメガネババァは次に冷笑と共にやや丸みを帯びた四角いシルバーフレームメガネの奥に光る細く切れ上がった眼をルナンに向けた。その中に不気味に輝く黒の瞳に見据えられた彼女は今しがた抱いた印象“狡猾”に“冷酷”の二文字をつけ足した。

「今後は彼女を通して、様々な活動を行っていただく事になるでしょう。私共の作戦プランの詳細に関しても説明を受けてください」

 デーニッツは眺望を前にしながら、ワイングラスの中身を片付けると徐に振り返りグラスをテーブルに置いた。後はルナンとキサラギには目もくれず、ハンナ・マティアスと名乗った部下の背後で何事か言い添えている。

「どうも……いただきます」デーニッツの部下が彼に軽く会釈すると、局長はそのまま部屋を立ち去ろうとした。

「大佐殿、番犬の庭先でネズミがうろつくと牙の餌食になりますよ。……お大事に」ルナンが皮肉たっぷりに言ってやると彼は一度歩みを止めて

「マドモアゼルは軍令部主査アンドレ・アルノー大将の事を仰っておられるようだが」ここで一度だけ肩を揺らし、振り返らぬまま

「あのお方からはね『あのはねっ帰りにはいい薬だ。せいぜいお灸をすえてやればいい』とのお言葉をいただいておりますので、ご心配にはおよびません。……では良い旅を(ボン・ボヤージュ)」これだけを言うとのっそりとした動きのまま音も無くドアの向こうに消えた。


 展望デッキに設けられたガラス張りのビュッフェでは、ルナンとキサラギはカウンター席に並んで腰かけ、キサラギはイチゴショートを、ルナンはホットコーヒーを味わっていた。

 全部で二十席はありそうな細長いカウンター席には、二人をのぞけば間隔をあけて四、五人の男性客がいるのみ。一段高くなっているカウンターの向こうでは、いかにも往年のSF映画に出てきそうな金属製のキッチンロボットが客の注文に応じて、球形の車輪とステッキのような細い四本の腕を駆使しながらせっせと働いている。

 二人の周囲からは客たちの談笑に混じって、皿とフォークが奏でるカチャカチャ音が拡がる中

「急性の心筋梗塞がもとで、先日の八月十九日公務中に倒れられた、第六代大統領ピエール・ダンカン氏が入院先の病院で亡くなられてから四日。更に公務を代行予定の副大統領が八十五歳の高齢であることを理由に辞意を表明してから三日目の本日……」と、ビュッフェを縦に走る天井の梁からぶら下がっている液晶モニターからは、終日ニュースが流されていた。

 画面中のキャスターが淡々と、自由フランス共和国の現大統領の訃報(ふほう)とその後の政変のゴタゴタを解説するのをキサラギはちらっと認めてから

「まさか、このニュースにあたしたちが関わる事になるとは……海で泳いでいた時には思いもしなっかなぁ」と、少し遠い目をしながら呟いた。

「五十五歳の働き盛り。暗殺の可能性は低いと報道されているが、どうかな?」声を殺したルナンの耳には、他の客の「妾の邸宅で発見されたそうだ」とか「いつまでもゴチャゴチャしていやがる。税金泥棒どもが」と言った市井の噂話、批判談義あれこれが伝わってくる。

 ルナンはそれに少し微笑みつつ、コーヒーを一口すすってから

「ところでキサラギ、おまえあそこで何食わせてもらったんだ?」と、『ヴィラージュ・ド・リヨン』での件をいきなり蒸し返した。

「ホ、ホテル特製の高級パンケーキとバームクーヘンを……丸々一個」

「全部一人でか?」

「そ、そりゃ食べちゃうでしょうがぁ!夕食前に拉致同然で引っ張られてさぁ……腹ペコだったんだぁ」口のまわりに白い生クリームを付けたままでキサラギが口を尖らせたが、何を思ったか彼女は皿の上のショートケーキに八つ当たりするかのようにフォークでギリギリ切りつけると

「あん時、あのなんちゃらマティアスとか言うメガネババァがさぁ『毒見もせずに口を付けるとは呆れた側仕えだな』ってさぁ!いけ好かないババァだよ。ちくしょう」

「おまえさぁあいつは見た目で三〇代そこそこだろう。それをババァとは」

「十代のあたしからすれば三〇代はもうババァの範疇(はんちゅう)だい!」キサラギはそう言いながら唇を噛みしめ「そ、それにあたしの事をシップドリフターって……言ったんだ……」最後のほうは声が震えはじめていた。

 ルナンはそっと彼女の頭に手を添え、母親が子供をなだめるようにして撫でてやってから

「ああ!あれにはオレも少々キレたよ」こう言いながら、デーニッツ大佐が立ち去ったあとの事を思い返した。


「政府与党は、二院制を敷く神聖ローマ連盟議会法に準じて、衆議院から次期大統領候補を選出、と同時に貴族院からも大統領候補を指名した……それがこのミハエル・デュシャン氏だ。今現在は我らの敵地となるドイツ皇帝派の軌道要塞『プロイセン』にて身柄を押さえられている。言ってみればまぁ人質だな。顔を覚えておけよ。この人物の奪回作戦に参加するんだからな」

 ハンナ・マティアスが二人に提示した自前のタブレットに表示させた画像に映る、中年に差し掛かろうかと思われる男性像にルナンは

「……ハンサムの部類には入るとは思うが、政治家としてはどこか頼りないな。目に力が無いっていうか」とボソリ。

「何だか学者先生か、神父様っぽいよねぇ」キサラギはルナンと同じ二人掛けソファに腰掛けながら呟いた。

「フンッ!神父か。彼は十代のほぼすべてを寄宿制の神学校で学んでいる。そのまま順当にいけば若くしてどこぞの教会付けの大司教に収まるものを。どこで間違えたのか、二十代後半から国立大学在籍時に政治運動に没頭した……」

 マティアスは今までボスが掛けていた一人用ソファを占有して、足を組みながら大統領候補奪還作戦の大まかな流れを説明するが、ルナンは時折り彼女が見せる剣呑な眼で隣の少女をねめつけているのが気に喰わなかった。

「このデュシャンなる人物を貴族院は何故候補に挙げた?わざわざ収監されている人物を推す必要性が判らない。聞かせてほしいハンナ・マティアス君」と、マティアスに質問をぶつけてみたルナン。だが、それに代わりに答えて見せたのは、自分の腕をつかんでいるキサラギ。

「教皇庁が絡んでいるんじゃないかな?貴族院なんてさ、半分以上は教皇庁のお偉方の息がかかった連中だって言われているじゃない」これにマティアスはキサラギを睨みながらも微かに口の端を上げた。

「ルナン・クレール、君の連れはなかなか鋭いじゃないか。その憐れな物乞い娘をどこで拾ったね?」この明らかな侮蔑にキサラギはサッと身を硬くさせ、両手を膝の上で固くさせた。

 狡猾で冷酷なキツネのウエーブがかかった黒のショートヘアのすぐ下から舐めるように注がれる、冷たく人を見下す値踏みの視線と少しえらの張った輪郭、その口許に浮かぶ冷ややかな哄笑に耐えきれなくなったキサラギが顔を伏せてしまったのを見たルナンはゆっくりとマティアスへと顔を向け

「何が言いたい?」少し声のトーンを落とし、わざとゆっくり尋ねた。

「本気で、その素性の知れないノラ犬を伴ってかの地へ赴くのかって事だよ。ルナン・クレール」さらにこう告げた。

「今後は貴官の事を敬称ぬきで呼ばせてもらう。私のことはマティアスでいい……?」

「謝れ」マティアスが目の前の化粧も知らぬようなソバカス女の言を聞き漏らしたかのような怪訝な表情を浮かべた刹那

「あやまぁれぇぇー!」ルナンがいきなり放った怒号はだだっ広いスィートルームの空気を揺るがせ、それに一瞬で気圧(けお)されたマティアスに戦慄が走った。ルナンはそのままデーニッツが残していったワインボトルとグラスの置かれた小テーブルを越えて狐目女の胸倉をつかみ上げ

「この子の名は、キサラギ。キサラギ・スズヤだぁ!シップドリフターでも、物乞いでも、ノラ犬でもない!今すぐ取り消せ!そしてお前の口からはっきり詫びを入れろぉ!」と、激しく詰め寄ったのだった。ただ、マティアスもすぐに元の表情を取り戻し

「この作戦は非情にデリケートなんだ。それをあの小娘のポカでふいにされたら元も子もない!離せ!ルナン・クレール」胸元をつかむ自分よりかなり小柄な女を睨み返す。そして左手でルナンの手首をつかみ、利腕のほうは静かに自分の胸元へと。

「ルナァーン!」キサラギも立ち上がって叫ぶ。

「判ってるぅ!おい、マティアスさんよ。あんたはキサラギやアメリアみたいな業物より銃のほうが得意みたいだな?いいだろう。そいつでオレの眉間を撃ち抜くがいいさ」

「ああ!できるならそうしたいね。だが、このプランは私の“絵”なんだ。無様な失敗は許されん。関係者の経歴を吟味の上、不特定要素をあらかじめ(はぶ)いておくのは当然だろうがぁ!」

「なら、お前の調査は手抜きだぜ。いいか、このキサラギはなぁ邦で名高い剣豪の一人アメリア・スナールが見込みありで自らが鍛錬した立派な戦士なんだよ!」

「やめてぇー!ルナン、もういいからぁ」ここでキサラギが揉み合う二人に割って入り、ルナンを胸元に抱え込むようにしてマティアスとの距離をとった。とっくにルナンより頭一つ身長が伸びたキサラギの肩口では、里親がまだ息を荒くさせて、凶暴な眼差しをメガネに向けている。


 キサラギはマティアスに背を向けたままで

「わかったわ、マティアスさん。あたしたちは任地『プロイセン』に到着次第、第四課が設営した奪還実行班用のアジトとなる仮のカフェで一般人に身をやつして襲撃のチャンスを待つ。これでいい?」と、これまでに情報局員マティアスから受けたガイダンスの復唱を始めた。

 マティアスは息を整えつつ、内ポケットから手を放しながら大きく頷いた。

「奪還実行日は後日連絡が入る。そしてデュシャン氏奪還成功後実行チームは現地にて即時解散。銘々が自力で脱出。その後数日を経てから、現地官憲の隙を見計らって変装させたその人物とあたしたちが脱出に移る。そうよね?」

「ああ、そうだ」スーツの襟元を正しながら呟くマティアスにキサラギは続けて

「その前日、脱出班の一人がデュシャン氏の身元を確認できるカード類一式を携えて先行する。その役はあたしが請け負う。これでいいですね!」

「パーフェクトだ!キサラギ・スズヤ君」マティアスは既に元の状態で二人の前に屹立(きつりつ)していた。ただ、キサラギを見る目が一変、顔にほころびも伺えた。彼女は軽く胸の前で手を叩くと

「先ほどは申し訳なかったね、キサラギ君。私は情報局員だ。関係者の経歴を洗うのは初歩の初歩なんだよ。だが、少々見識を改めるとしよう」その後ルナンに険悪な眼差しを向けると

「どうやら問題児のほうは君ではなく、君の親御さんらしいなぁ」と、言ってからほくそ笑んだ。

「オイッ!マティアス。一つ覚えて置け!このキサラギは間違いなくオレの“家族”だ。家族を侮辱する人間をオレは許さない。絶対にだ!」

 ルナンから家族と言う言葉を聞いた途端、キサラギはハッとしてそのまま彼女の頭部を抱きしめた。目を閉じながら。

「活躍を期待する。キサラギ君」これにキサラギはメガネ女史にキッと振り返り

「あたしの事はキサラギでいいです。あなたから君やらちゃん付けで呼ばれたくないですから」こうやり返した後に今度はマティアスが不気味にニヤリ。

「追加連絡が二つだ。一つは今、ルナン・クレールが言っていたアメリア・スナール中尉だが、彼女はこちらがよこした局員にこう言って快諾したようだよ。『わかった。出立の日取りがきまったら報せろ』とね」

「あと一つは?」これはルナン。

「おまえたちの家を張っていた、私のスパイ・ドローン……マウスタイプ数基が、厄介なクロネコから攻撃を受けている。これも部局の大事な備品だ。こちらの用は済んだ。そちらも引かせろ」

「わかりました。もうお(いとま)してかまいませんか?」

「もう一つだけ覚えておいていただこうか」マティアスは二人に向けて右手の親指と人差し指で拳銃の形にすると、先ず親指を折り

「もし、現地にて不穏な行動を取ったなら、一発はスナール中尉だ。たとえ特殊装甲服『グライア』を装着していても対装甲弾で確実に仕留める」そして人差し指を次にゆっくりと折ると

「こっちはルナン・クレール向けだったが、キサラギに変更だ。貴様も同じ」

「何で三発使わないんだよ?」キサラギの肩口からルナンが声を上げるも、マティアスはせせら笑ってから

「おまえは二人がいなければ勝手にむこうで野垂れ死にだ。弾の無駄遣いはしない主義でね」と、言った。

「失礼します。行こうルナン」未だに憤懣(ふんまん)やる方ない姉貴分で里親を振り返らせて、ドアへ向かい始めた二人に向けて

「出立は二十五日の二一:〇〇。船名は『オーストリッチ』だ。遅れるなよ。渡航用の必要証明カードは後で局員に届けさせる」との声が浴びせられたが、キサラギは振り返ろうともしなかった。

 キサラギが陰険なキツネを見たのは、スィートルームのドアを閉じる際、最後に残った逸品ワインを賞味しながら

「これのどこが逸品なの?ボスの舌はどうかしている」と、渋面を作っている姿だった。


 ルナンとキサラギは展望デッキのビュッフェからシートがズラリと並ぶ客室デッキへ降りてきてからは、指定席に並んで腰を掛けて、宇宙船の次のアクションに向け待機していた。

 「ルナン……ありがとう。あの時あたしの事“家族”って言ってくれて。本当に嬉しかったんだ」キサラギは舷窓側のシートに収まっているルナンに微笑んだ。

「あの女狐がシップドリフターなんて言うからだ。お前は(ちまた)であしざまに言われている無賃船泊の連中、男なら目的地まで危険な船外作業を請け負ったり、女ならただ働きに加えて夜には船員たちの相手を。そんないかがわしい奴らとは違う!当然だ」ルナンはその場で憤然とした後にこうも付け加えた。

「キサラギ、お前を保護したのはオレ自身だ。その時の身体、血液検査ではオールクリア。ドラッグの使用経験無し、栄養状態は(かんば)しくなかったが体その物はキレイだったんだ。それを!」

「でもね……運命が少しずれていたら、あたしもルナンの言う連中と同じだったかもしれない。今でも……それを思うと怖くなるの」キサラギはまた高級ホテルの時みたいに悲しげに目を伏せてしまった。

 ルナンは彼女のややふっくらとして、ほんのりピンク色の頬にそっと手を添えてから

「キサラギ……覚えているか?オレと初めて会った時の事を。君は『ルナン・クレールさん、あなたに投降します』と言ってオレの胸に飛び込んだんじゃないか」さらに目を潤ませながら顔を上げるキサラギに彼女は優しくしかし力強くこう(さと)したのだった。

「いいかい、あの時君は自分の運命を変えたんだ。チャンスを自分の手でつかんだ!これは君自身が勝ち取った勝利だよ。胸を張れキサラギ・スズヤ。人が何と言おうと自分の未来をつかめばいいんだよ」

「ハイッ!ルナン・クレール様……これからもお供します」キサラギは鼻をすすり上げながらも、何度も頷いて無理にでも笑顔を作ろうとしたその時だった。

「お客様にお知らせいたします。こちらは船長のオブライエンです。当便は『アルザス』、『ローヌ・アルプ』経由『プロイセン』行きの定期旅客船『オーストリッチ』号です。これより当船はヘキサゴン・エリアに進入いたします。お客様各位は席にお付きになってシートベルトの着用をお願いいたします。現在時刻は八月二十五日、二三:〇〇となります」との船内放送がもたらされた。

 これを合図に客室デッキの人の動きが慌しくなっていった。客室乗務員は船内通路を廻って船客にシートベルトの着用を促したり、客室デッキと最上階の展望デッキをつなぐ階段を上がって、大型の開閉ハッチの施錠を確認したりと何かと忙しい。

「ルナン、今ねぇあなたの所に世話になり始めた頃を思い出したの。ママはさぁ、今住んでいる借家をゴミ屋敷同然にしていて、大家さんから訴訟起こされる所を、あたしが『二日で何とかしますから』ってその場を収めたっけなぁ」ここでやっとキサラギは自然で屈託(くったく)のない笑顔をルナンに向けた。

「はぁ……そんな事もあったような、ないようなぁ……」何故か自分の里親がはぐらかすような物言いを始め、視線は真っすぐ前だけを凝視している。そしてどことなく落ち着きが無くなっている事に、キサラギが首を傾げると、『オーストリッチ』の船体が微かに揺れて、船底部から低い金属音と振動が伝わってきた。

 それにビクッと敏感に反応するルナン。

「現在、当船は第一ゲート、射出アームに固定されました。ヘキサゴンエリア外周ゲート閉鎖。現在ゲート内の海水を排出中です。少々お待ちください」宇宙船が外の世界へ出発する行程を耳にしたルナンは、ぎこちない動きでキサラギに上半身ごと体の向きを変えた。それはポンコツロボットが錆びついた胴体を(きし)ませながら稼働しているみたいだった。

「キ、キサラギちゃぁん、オ、オレ……怖い」

「は、はぁっ!何言ってるのぉあんたはぁ」キサラギはいきなり告げられた事態に思わず頓狂な声を上げてしまい、次に辺りをキョロキョロ見廻してから自分の親代わりに耳打ちするようにして

「ルナン、あなたはれっきとした海軍士官様でしょうに。ヘキサゴンエリアなんていつも使ってる施設じゃんか!」と、まじまじと相手の顔を見つめるとガクッと肩を落とした。

 キサラギが見たのは、顔が青ざめうっすら涙ぐみ、しかもいつぞやの様に口をパクパクさせる海軍士官様のお顔。

「あ、あのね、海軍艦艇はね重質量で火器類を満載していて事故防止のために、最初から人工重力補正機能がしっかり働いているの。だ、だから……あの絶叫マシーンみたいな嫌な感じはないんですぅ」やっとここまで告げられたキサラギは自分の席に座り直すと

「たった今、良い事言うなぁって思ったのにぃ。どうしてこうなるかなぁ」こう小声で呟く。そこに

「これより当船は第一ゲートから第二ゲートへと降下を開始します。お客様におかれましては席から立ち上がらないようにお願いいたします。なお、第二ゲート内では外部空間と同じ真空状態へと移行いたします。つきましては、宇宙船運航規定によりお客様には発進時の酸素マスク装着をお願いいたしております。ご協力をお願いいたします」

 キサラギはすぐに、自分の座席の前席の背もたれに設置されているポケットから、衛生的に個別にラップで包装された、戦闘機パイロットが装着するようなかなり大げさなマスクを取り出して装着を終えた。ルナンはと言えば、ここでも要領悪くあたふたしている。


 火星世界において、このフリーフォール式発進は最もポピュラーでよく用いられた方式であり、どこのオービット・フォートレスの海洋部か湖沼地帯には必ずヘキサゴン・エリアが存在している。全周囲が一〇〇〇メートルにいたる巨大な六角形のプール状で使用時以外は、水路で外海と繋がっている。

 宇宙船、または海軍の艦艇が宇宙へと旅立つ際には、その船はプールの中央へ移動。その船底部は先ず、船体を固定させるための鋼鉄製で巨大な柱状形アームの上に乗り上げるようにして停止する。

 水路との隔壁が閉じられ、中の海水が放出されると、次にアームごと船体は静かに海底部の隔壁を越えて地下の奥へと降下を始める。所定の位置まで降下すると、内径世界の気圧と空気が漏れてしまわないように三重構造の巨大な海底ゲートが閉じられる事により宇宙船舶は完全に中の内径世界とは隔絶されることになる。

 軌道要塞の規模にもよるが外宇宙へと繋がる六角形のトンネルをさらに二〇〇メートルほど降下した後は、最終的には固定アームが外されて要塞内で常に発生している人工重力の遠心力によって宇宙空間へと放出される仕組みになっているのである。


 その時に発生する内臓が、ふわぁっと浮き上がるような感覚がルナンにとっては不快この上ないのだった。

「うわわぁー来る、来る!手をつないでちょうだい!キサラギぃ」

 ルナンがマスク越しに喚いているので、仕方なくキサラギが手をつないでやると、恐ろしく力強く握り返してきてしかも汗ばんでいる。

 これをよそに、客室シートに収まる他の船客の中には歓声を上げ、まさに遊園地のアトラクションに興じるかのように両手をあげている者、中には大げさにカウントダウンを始める客もいた。

 キサラギは自分が付けていたマスクを一度、外してから、もうそれ以上は何も言わずに親代わりをこれまで買って出てくれていた小柄な女性にそっと頬をよせて、目の下に優しくキスをすると

「あなたの(かたわら)には常に、キサラギ・スズヤがおります。あなたを我が(あるじ)として、剣となり時に盾となりましょう」と耳元で囁いた。

 ルナンは目に笑みの色を浮かべてからただ一言

「……よろしく頼む」こう言ったあとに唐突に、自由落下が始まった。 



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― 新着の感想 ―
[一言] >内臓が、ふわぁっと浮き上がるような感覚 私もこの感覚がとても苦手です ><。 ジェットコースターとか大嫌いなのです!
[良い点] いやー。これまた曲者のマティアスさんですが、これからどんなドラマを巻き起こすのか・・・。楽しみです。 [一言] フリーフォール式は怖すぎるw
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