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ドリームサバイバー ――いきなり教室、はいバトル!  作者: おけきょ
第二章 ステージツーはデスゲームへの案内
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1 やっぱりただの夢じゃありませんでした


「おーい、起きてーっ、こらーっ、起きろーっ」


 沼地でおぼれたみたいな深い眠りからぼくを引きずりあげたのは、無遠慮だが世話焼きで、家族のムードメーカーを自任しているぼくの妹――神永アテカだ。


 こわばるまぶたを開く。アテカが喜色満面でぼくの掛け布団を引っぺがしていた。このときぼくは、相反する感情で引き裂かれていた。


 二度と戻りたくない、という思いはある。なのに、痛烈な喪失感がこみあげてきたんだ。

 よりによって、夢で出会った相手に一目惚れしちゃうなんて。


「ほらーっ、起きた起きたーっ。転校初日に遅刻なんかしちゃダメーっ」


 長年の社宅住まいにお別れし、念願のマイホームを手に入れたのを、家族の中でいちばんに喜んでいたのはいったい誰だろう?


 これで社宅のわずらわしい人間関係からのがれられる、なんて母がウキウキしてたのはもちろんだけど、それに負けず劣らず、アテカもこの引っ越しに並々ならぬ期待を寄せていたんだ。


 というのも、アテカの小学校生活はうまくいっていなかったから。

 四年生のときまでは人気者キャラだった。ところが五年生になってクラス替えを迎えると、その環境も一変した。ウマの合わないクラスメートがおり、しかもそいつがシンパをつぎつぎと集め、アテカへの包囲網を築きあげ、圧力を加えるようになったんだ。


 要するに、アテカは生まれて初めて本格的なイジメというものに遭ってしまった。

 妹はぼくのような陰キャとちがう。自分がこういう境遇に置かれるなんて夢にも思ってなかったろう。それだけに、このイジメってやつがとりわけ精神に堪えたようだ。


 両親には内緒にしてくれと念を押しつつ、その詳細をぼくに打ち明けたとき、アテカはわかりやすいくらい憔悴しきっていた。だからこそ、この根が快活な妹は新六年生として、新しい学校での日々をぜったいに楽しいものにしてやろうと意気込んでいたわけだが……。


「ほらっ、もっとしゃんとしなきゃっ」


 どうにか新品の学ランに身を包み、やっと登校の準備を終えたものの、ぼくはしおれた小松菜みたいな状態で、新居をあとにする。


「ねっ、カムちゃんはひとりで学校に行けるよねっ」

「うわっ、カムちゃんって呼ぶのやめなよ。それでお兄ちゃん、前の学校でもからかわれることになっちゃったんだからねっ」


 おっしゃる通りです。アテカの通うことになる小学校はこっちと逆方向。ぼくはアテカ&母と別れ、転入先の荒神第二中学校へ向かった。

 胃もたれするような屈託を抱えて。


        *


 職員室の応接スペースで、ぼくは茫然としながら、目の前のひょろりとした男性教師を見つめていた。セルフレームの眼鏡をかけた、これからぼくの担任となるこの教師に会った覚えがあったわけじゃない。


 彼が、比留間敦夫と名乗ったせいだ。ぼくの夢が生みだした存在であるはずの乙宮さんは確か、あの場に登場しなかった担任教師のことを「ヒルマ」って呼んでいたっけ。


 比留間先生の案内で階段をのぼっているときも、地に足がつかなかった。


 やってきたのはこの校舎の最上階にあたる四階。そこから見覚えのある廊下が伸びている。比留間先生が足を止めたドアの上部には、記憶通りな「3‐C」のプレート。ドアを開けると、これまた見覚えのある教室があらわれた。


 比留間先生とともに教壇に立つと、目の前には見知った顔ばかりが並んでいる。


「よっしゃー」


 ガッツポーズとともに、すでになじみとなった美少女が立ち上がった。夢の中では下ろしていた赤茶色の髪を、いまはサイドポーニーテールにしている。


「どうした乙宮?」


 比留間先生がいぶかしむと、あははははっ、と乙宮さんがごまかしの高笑いをあげた。


 破顔したままで告げる。「自己紹介はいらないよ、ね、神永カムイくんっ」


 険悪な目つきでぼくをにらみつけているのは、ミッチーだ。


 片手をちいさくあげて軽めの挨拶をよこすルカさん

 縁なし眼鏡の奥の瞳をめいっぱい広げている珍念さん。ほかにも、安達くんやサル顔のトクイや茶髪といった、再会してもあまりうれしくない面々も……。


 だけど――舞坂さんの姿だけがなかった。


「なんだ。おまえら、もう知り合ってるのか?」

「アタシだけじゃないってば。みーんな、カムイくんとはとっくに……」


 乙宮さんと比留間先生とのやりとりが、急速に遠くなってゆく。

 ひょっとして舞坂さんだけが、ぼくの願望によって生みだされた架空のアバターだったんじゃなかろうか? そんな傷心の間隙を縫うように、廊下から車輪を転がすような物音が聞こえてきた。


 はっとして、ぼくは開きっぱなしの黒板側ドアへ目をやる。教室中の注意も、そちらへ向けられていた。


 高齢者が使うような歩行器とともに、その人はあらわれた。


 見る者の目を即座にわしづかみしてしまうほど澄んだ瞳――見間違いようもない。

 亜麻色の艶やかな髪を揺らし、舞坂鈴が、ぼくからほんの数メートルの位置に立っていた。


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