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ドリームサバイバー ――いきなり教室、はいバトル!  作者: おけきょ
第七章 いきなりラストバトル? 絶望に次ぐ絶望です
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6 忍者を倒せ

 徳伊くんはおもむろに動揺していた。完全に心当たりがあるとしか思えないほどに。


「お、覚えてねえよ。てめえ……夢でも見てんじゃねえか、コラ」


 あの事件ではけっきょく、安達くんにも比留間先生にもミッチートリオにもアリバイがあった。だからぼくは公式見解を受け入れるしかなくなってしまった。郡是くんが舞坂さんを不意打ちで襲ったあと自殺を果たしたというあの無理心中説を。凶器の不在という疑問点をうっちゃって。しかし、徳伊くんが陰謀仲間をこっそり仲間に引き入れていたのだとしたら――。


「言い逃れはもう、通用しないのでございます」


 珍念さんが堂々と言い放つ。徳伊くんは怒りで顔を紅潮させ、首や額の血管を肥え太ったミミズみたいに怒張させていた。


「こっちが大人しく聞いてりゃ調子こきやがって……このメガネチビッ」


 徳伊くんが人差し指を、とうにメガネをかけていない珍念さんめがけて伸ばした。


「名探偵気取りの報いってやつをしっかり受けさせてやるよお。喜べ、てめえが血祭り一番乗りだっ」


 ニセルカ忍者が重心を落とすと、珍念さんもその目からぎらりと戦意をほとばしらせて左右のショートソードを構える。


「もう逃げない、おびえない。この命に代えても、おまえをかならず、止める」

「おらっ、あのチビメガネをさっさと片付けちまえっ」


 徳伊くんが命じると、ニセルカ忍者が迫った。しかし珍念さんもリミッターをはずしたような、これまでにない迅速さで踊りかかってゆく。独楽のような回転力の勢いをこめて斬りかかるショートソードを太刀が受けとめ、火花がはじけ、金属の鋭い衝突音が鳴り渡る。


 相手に反撃のチャンスを与えまいと、珍念さんの斬撃が息つくまもなく襲いかかる。が、ニセルカ忍者は大小の太刀を器用に動かし、珍念さんの連打に次ぐ連打を的確にガードしてゆく。その顔に、相変わらずの無機質な憫笑をたたえながら。


 と、ニセルカ忍者の中段回し蹴りが珍念さんの腰をとらえる。体勢を崩した珍念さんがあわてて飛びのく。ニセルカ忍者がすかさず距離を詰め、攻勢に転じた。


 ドラマーのめくるめくスティックさばきのように、大小の太刀がうなりながら襲いかかる。今度は珍念さんが防戦一方だ。


 軽々と舞う二本の太刀がショートソードをかわし、珍念さんの肩や太ももをなめるように刻んでゆく。いまのところは浅手だが、積み重なればダメージも大きなものとなるだろう。


「やばいよ……このままじゃ、珍念ちゃんがやられちゃう」


 乙宮さんがスティックに巻きついているリボンを一振りでほどいた。さっきまでノックダウンされたままだったミッチーもこっちへやってくる。


「おれは、いつでもいいぞ」


 ミッチーが覚悟を示すと、安達くんもうなずいた。


「待ってくれ」ぼくはバスタードソードのグリップを握りしめる。「勝負のタイミングは……ルカさんのニセモノをもっと追い詰めてからだ」


 ぼくは珍念さんの戦士としての成長っぷりに、勇気に、目を瞠っていた。それに比べると、ぼくはいったいなんなんだ。木偶の坊のまんまじゃないか。


 そう、ぼくは取り戻すんだ。舞坂さんを、ルカさんを。このおぞましいゲームによってもてあそばれ、すりつぶされていったみんなを救いだすんだ――。


 ぼくはバスタードソードを振りかぶりながら突進する。


「どりゃああああっ」


 こんしんの一撃は、相手の太刀によって防がれた。が、体勢を低くした珍念さん剣先が、ニセルカ忍者のふくらはぎをえぐる。


 大小の太刀が同時にぼくと珍念さんへ切りかかる。ぼくは太刀の軌道の下へ踏みこみながら、バスタードソードを横なぎにふるう。


 後退するニセルカ忍者の脇腹をわずかに裂いた。上段からくる太刀を、ソードを横にかざして受けとめる。その下から小太刀が侵入してくるが、ぼくは素早くうしろへ下がり、相手の間合いからのがれる。


 そのときにはもう、珍念さんがニセルカ忍者の背後にまわり、その背中をざっくりと切りつけていた。


「このタコ忍者っ、役立たずっ、そんなザコどもにてこずってんじゃねえっ」


 徳伊くんの叱咤に、ニセルカ忍者の顔から憫笑が消えた。その双眼からぎらりとした光芒を放つや、ギアチェンジしたように動きが加速した。大小の太刀が何倍にも分裂したみたいにぼくたちを襲う。


 ぼくの頬や肩やすねにたちまち裂傷が生じてゆく。さらに眼前へ刃先が迫る。のけぞってかわしたものの、みぞおちに前蹴りを食らい、ぼくはそのままうしろへすっとんでしまう。


 二対一の状況を脱したチャンスを逃すまいというのか、ニセルカ忍者が珍念さんへ猛攻撃を仕掛ける。ぼくから完全に注意が逸れたいまこそが絶好のチャンス。その思いが仲間たちにも伝わった。乙宮さんのリボンがぼくの胴体に巻きついたのだ。


 ぼくの体が浮きあがり、ニセルカ忍者からいったん遠ざかり、遠心力の後押しを受けながら、その背後へとふたたび迫ってゆく。


 珍念さんの手数をニセルカ忍者が上回った。小太刀が珍念さんの右手首を切り落としたのだ。これでパワーバランスが完全にくずれた。次の瞬間には二本の太刀が珍念さんを一方的に切り刻んでいるだろう。させるものか!


 ニセルカ忍者も背後に迫る殺気を察したのだろう。珍念さんにとどめを刺すのを中断し、動きをとめる。分身の術を発動させ、抜けがらの背後に迫った助太刀の、さらに背後へ再出現する。


 このときニセルカ忍者を見舞った驚愕というか戸惑いを、ぼくはせいぜい想像してみることしかできない。ニセルカ忍者本体の目の前にいるのは、やつが想定した人物ではなかった。


 ぼくが乙宮さんのリボンの援護を受け、ふたたび珍念さんの助太刀に入る直前のこと。安達くんがミッチーをラケットにあてがったまま高速回転し、火事場の馬鹿力をこめて発射していたのだ。術を発動させる前のニセルカ忍者の背中をめがけて。


 おとりとなったミッチーがしぼんでゆくニセルカ忍者の抜けがらをサンドイッチに、珍念さんもろともすっ飛んでいったときにはもう、ぼくは再出現していたニセルカ忍者の背後に到達し、その背中にバスタードソードを突き刺していた。


「のあぶっ」


 ミッチーが珍念さんをかばうようにして床に転がる。ぼくらはその上を通過し、壁に衝突した。バスタードソードはニセルカ忍者を貫通し、壁に串刺しにしていた。ぼくはニセルカ忍者の腰に片膝を突くと、胴体に巻きついたままのリボンがぐいっとうしろへ引かれ、ソードが相手の背中からすっぽ抜けた。


 振り向きざまに、ニセルカ忍者が斬りかかってくるが、その攻撃にさっきまでの勢いはない。

 ぼくは相手の右手ごと太刀を斬り落とし、つづけて左腕も小太刀ごと半ばから斬り飛ばした。


「ルカさんのかたきだっ」


 ソードを袈裟がけに振り抜くと、ニセルカ忍者が斜めに両断される。輪郭を溶かし、無数の粒子となって崩れ、ギュオオオオンッという振動音をともなって凝縮すると、そのままはじけて消えた。


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