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ドリームサバイバー ――いきなり教室、はいバトル!  作者: おけきょ
第六章 黒幕はどこに? クラスの中にいます
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5 黒幕はおまえなのか?


        *


 ぼくは武藤さんを見送ってから、ひなびた神社をあとにした。


 珍念さんと舞坂さん――一体どっちが黒幕なのか? 思い返せば、珍念さんにはいくつか疑わしい点があった。まずは、あの般若忍者が最初に登場したときのこと。


 ぼくらが案内人のピエロによって勝手にグループ分けをされてダンジョンに放りこまれたあと、珍念さんのグループは彼女を残し、般若忍者によって全滅させられた。


 やつが珍念さんを手にかけなかったのは、本当に舞坂さんという難敵の接近を悟ったためだったのか? 裏で珍念さんとつながっていたからではないのか?


 それから珍念さんの住むマンションを訪問したときのこと。話題が舞坂さんへの殺人未遂へと移ったときだ。


 あの件について真犯人を知ってるんじゃないかとぼくが問いつめにかかるなり、珍念さんは彼女らしくない剣幕でぼくや乙宮さんたちを部屋から追い立てた。あれを当初、真犯人である安達くんをかばうためだとぼくは疑っていた。


 でもその疑いが見当外れだったとしたら? 珍念さんがひたすら、復讐をもくろんでいたとしたら? 幼なじみであり、かつて自分をいじめから救ってくれた郡是くん――そんな恩人を死に追いやったと珍念さんが信じている者を、C組もろとも誅戮ちゅうりくするために……。


 控えめかつ臆病でありながら、ここぞいうときは献身的。珍念さんのそうしたキャラクターじたいが、自分が黒幕だとばれないようにするための目くらましだったとしたら?


「そうだよ、舞坂さんが黒幕なはずないんだから、答えはおのずと決まってくるじゃないか」


 自己暗示をかけるようにそこまで口にしたところで、ぼくはぎょっとした。立ちどまり、何気なく後ろを振り向いたときだ。お下げ髪の小柄な姿が、あわてて路上駐車しているRV車のうしろに身を隠すのが見えたのだ。


 考えるよりも先に、ぼくは駆けだしていた。


「ひや……あ……」


 セーラー服姿の珍念さんが腰を抜かしていた。メガネが顔からずれ、びっくりまなこでぼくを見上げている。この現実世界では、ショートソードを二刀流であやつる戦士の威厳なんてかけらもありゃしない。しかし、珍念さんへの疑いを撤回することはすなわち、舞坂さんへ疑いの目を向けることを意味する。ぼくはおのれを叱咤して、珍念さんをにらみつけた。


「郡是くんは自殺だった。そうだろ?」


 ぼくが迫ると、珍念さんは首でも締められたみたいに顔をひきつらせた。


「それで珍念さんは恨んだんだ。舞坂さんを、郡是くんに冷たかったクラスのみんなを!」

「ちちちっ、ちがっ」

「ごまかすなっ……どうしてこんなことしたんだよ? ルカさんまであんな目にあわせて……珍念さんはそれで自分を許せるのか? 少しも心は痛んでないのか?」


「きょきょっ、きょっきょっ」

「もうわかってるんだよっ。きみが黒幕なんだって――」


「キョニュウが好きなのでありましたっ」

「はあっ?」

「ケントくんは、巨乳が大好きなのでありましたっ」


 確か、郡是くんは名前が「謙斗」だったと聞いている。


 それはさておき……会話がぜんぜん噛みあってねえ。ぼくは脱力のあまり、ひざから崩れ落ちそうになる。そんなぼくをしり目に、珍念さんが抑えた声音で、早口にまくし立てた。


「ワタクシが道谷くんたちにひつこく意地悪されてたとき、ケントくんはからかってしまったのでございます、道谷くんを。『好きなオンナに振り向いてもらえないから嫌がらせをするなんて、オトコの風上にも置けない』なぞといった世迷言で」


 どうやら郡是くんは、口で我が身を滅ぼすタイプのお人だったみたいだね。でもその指摘って完全に的外れだったのかな?


 ぼくはあらためて珍念さんを見下ろす。陰キャを脱却したくて、アイドルグループのオーディションに応募すればラッキーパンチじゃなしに合格してもおかしくないくらいには、容姿に恵まれているといっても過言じゃない……それから、ぼくがこれまで目にしてきた、ミッチーの言動をいくつか頭によみがえらせる。


 ミッチーがことあるごとに珍念さんの安否を気にかけていたのは、絶望的な状況に際してミッチーの底に眠っていた良心が開花したおかげだったのか。それとも、じつは以前から珍念さんのことが気になって仕方ないのに、陰キャに惚れてしまったことを認めることができず、郡是くんの指摘通りに気持ちとは裏腹の行動に打って出てしまったせいなのか。


 ……自分でも認めたくない本心を、他人によって、からかいまじりに指摘されれば、誰だって頭にくるよね。


 舞坂さんは郡是くんのことを、気弱で大人しい少年としか見ていなかった。しかし実際は、あのミッチーに対しても歯に衣着せぬ発言でぶん殴れる、蛮勇も持ち合わせていたんだ。


 そんな二面性の持ち主であれば、怒りにまかせて舞坂さんを襲撃することだって可能なんじゃ――。


「道谷くんは、イジメのベクトルを、今度はケントくんへ向け変えたのでございます」


 珍念さんの昔語りが再開する。


「そのイジメを止めてくれたのが、舞坂さんと乙宮さんでございました」


 前にぼくもそう聞いている。クラス替えと同時に二年生に進級した直後の話だと。


「おふたりがケントくんを助けたのは、単にイジメが嫌いだった。ただそれだけだったのでございましょう。ところがケントくんは、おふたりの動機を変に勘繰ってしまい……そのあげく、身の程知らずな勘違いにどっぷりはまりこんでしまったのでございます」

「……舞坂さんと乙宮さんが、自分に惚れてるんじゃないかって?」


「図星でございます。わが校屈指の美少女おふたりが、自分をめぐって火花を散らしてるものと、早合点してしまったのでございます」


 ううう。遠い過去の記憶が疼きだす。ぼくにも身に覚えがあるよ。小学生のころ、クラスの中心人物だった女子がちょっとぼくにやさしくしてくれただけで有頂天になり、これからもっと彼女と仲良くなれるものと勝手な期待をつのらせたんだ。


 ……おっと、ぼくの苦い過去なんかどうでもいい。珍念さんの話の流れがいったいどうやって、郡是くんの巨乳好きにつながるんだよ……って、つながっちゃった。


「まさか、郡是くんは乙宮さんを選んだってこと?」


 元望月さんなヒトデモンスターにさらわれかけたときだ。乙宮さんの胸に顔からダイブしてしまったさいに味わってしまった、あの豊満すぎる感触……。


 それに対して舞坂さんは、どこまでもすらりとしたスレンダーボディーだ。


「ですから断るつもりだったのでございます。舞坂さんから手紙で屋上へ呼びだされたときに」

「それ、違うから。舞坂さんは珍念さん名義の手紙で、屋上へ呼びだされたんだ」

「わわわ、ワタクシは、そんな手紙出した覚えは――」


「わかってる」とりあえず、話を先に進めてほしかった。


「ワタクシはケントくんに意見したのでございます。舞坂さんの名前を騙ったいたずらに決まってるって」

「でも郡是くんは信じなかった?」


 珍念さんがうなずく。


「徳伊くんにそそのかされて、道谷くんがやったのではないかと、ワタクシは愚考致しました……それで、いても立ってもいられなくなり、全校集会をさぼったのでございます」


 うん。やっぱり仮病だったんだね。


「でも、保健室を抜けだして屋上へ向かおうとしたら――」なぜか、珍念さんの目つきがいっしゅんだけぼくをいぶかしむふうになった。

「と、徳伊くんに出くわしてしまったのでございます……ワタクシは空き教室へつれこまれ、ネチネチ言葉でいたぶられました」


 乙宮さんによると、舞坂さん殴打事件が起きたとき、ミッチートリオは全校集会をさぼっていたという。その中で、徳伊くんのアリバイがこれで確認されてしまった。


 郡是くんは舞坂さんから愛の告白を受けるものと確信しきっていた。であれば、舞坂さんが屋上へやってくるなり、背後から鈍器で襲うというのは行動としておかしすぎる。


 いっぽう、事件当時、アリバイのないクラスメートはミッチーに竜天寺くん、それに安達くんだ。ミッチーと竜天寺くんに舞坂さんを襲撃する動機が見当たらないとなれば、あの事件の犯人はやっぱり安達くん?


 安達くんが郡是くんを屋上から突き落とし、舞坂さんを襲った濡れ衣を着せた?


 ……いやいやいや、目下の懸案はあの事件の真犯人じゃなくて、ぼくらを夢バトルゲームに引きずりこみ、ひとりひとり昏睡状態へ追いやっている黒幕の正体だ。


 珍念さんは自分への疑惑をそらすために、こんな告白をいきなりおっぱじめたのか? だとしたらやはり、珍念さんが黒幕なのか?

 ぼくは気を取り直し、本題へ戻るべく口を開こうとした。と、機先を制するように珍念さんが問いを放ってくる。


「神永くんは、何者なのですか?」


 わけがわからず、ぼくは目をしばたたかせる。珍念さんがそのまなこにおびえを含ませながら、深ぶかと息をつく。


「ワタクシにはどうしても思えないのでございます、神永くんが悪人だとは。なのにどうして――」


 珍念さんの黒目が揺らぐ。びびりながら、こちらの真意を必死に探ろうとしているように見えた。

 そのときようやく、ぼくは自分がどれほど間抜けだったかに気づかされる。

 武藤さんは早々にぼくを容疑からはずした。だからぼくも、黒幕候補を珍念さんと舞坂さんにしぼってしまった。でもそれが早とちりだったとしたら?


 ぼくが自分でも気づかないうちに、黒幕の立場を選んでいたとしたら? あのおぞましい夢バトルデスゲームが、ぼくの無意識に巣食う悪意の産物だとしたら?


 珍念さんは明らかに、ぼくを疑っている……ような気がする。

 ほかのクラスメート同様に、ぼくがクラスに転入するのと前後してゲームが始まったせいで疑いをかけているのか? もしくは、それ以上の根拠があるのか?


「なぜ神永くんは……」


 最後まで聞くことなく、ぼくは珍念さんに背を向けると、逃げるように駆けだしていた。


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