1 気休め…
がばりと半身を起こし、薄闇の中で手を這わせて目覚まし時計をつかみ、時刻を確認する。そろそろ朝の五時を迎えようというころだった。
ルカさんが消滅していくシーンがよみがえり、ぼくは頭を抱えてうめいた。
家族はまだ、誰も起きだしていない。アテカの誘拐騒ぎが遠い昔のように感じられる。
じっとしていられず、ぼくはそっと家をあとにした。日の出を迎えたばかりの空は、東のあたりが朝焼けであざやかな紅黄色に染まっていた。ときおり新聞配達のミニバイクとすれ違いながら、ぼくは学校のほうへ駆けてゆく。
途中で乙宮さんと出くわしたのは偶然じゃなかったろう。
「ルカっちが……」
いつも隙なくセットされていた髪の毛はところどころはね、顔色も良くない。
涙目で、鼻も真っ赤だ。
「まだ、わかんないだろ」
乙宮さんのしょげかえった姿に、ぼくは口にせずにいられなかった。
「だって、あのルカさんだよ? 平気な顔でちゃっかり復活してても、ぜんぜんおかしくない」
すると、暗く淀みかけていた乙宮さんの目に、かすかな光がよみがえった。
「だ、だよね。あのルカっちだもん。あんな忍者野郎なんかにやられてたまるもんですかいっての」
そのぎこちない笑みが、ぼくにはすこぶるつらかった。
そして後悔していた。安易な気休めを口にしてしまったことを。




