5 やあ、ボクの名前はゴールドホッパー
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そこはだだっぴろい平原だった。
舞坂さんも、乙宮さんも、それどころかクラスメートの誰ひとりとして姿が見えず、ただぼくだけが、下草のまばらに生えた土地が延々と続く荒野で立ちつくしていた。
すると、背後からいきなり声がした。
『サイテイシャどもを、引きずりだしてやれ』
人間ばなれしたキンキン声に面食らい、あわてて振り返ると、誰もいない。
『あの世界に、ボクが打ちこんでやったクサビ。それがキミなんだ』
はっとして視線を落とす。
「うおっ」
それは、猫なのかウサギなのかひと目ではわからない、ふわっふわな、ぬいぐるみめいたクリーチャーだった。
『やあ、ボクの名前はゴールドホッパー。ありがたく思え。大事なアドバイスを授けるために、きみの夢の中くんだりまで出向いてやったんだぞ』
間違いない。しゃべっているのはこいつだ。キラキラした金色の光を全身から放ち、くりくりした目でこちらを見上げ、人間の言葉で話しているのだ。なんだか、魔法少女につき従う使い魔みたいだね。そんな感想をうっちゃり、ぼくは端的にたずねた。
「サイテイシャ?」
『そう。もちろんサイテーなヤツって意味じゃないぞ。裁判のサイに、定期試験のテイ。それで、「裁定者」だ』
なんか、無理やりっぽいネーミングだなあ。
『ヤツらの支配が弱まれば、それだけ、ボクの力が及ぶようになる。それまでは――』
世界が溶けてゆく。マーブル模様のように攪拌されてゆく。
『いいか。キミらの希望は彼女なんだ。ヤツらにとって、完全にイレギュラーな、あのとんでもない強さを……』
声が遠ざかり、暗闇にのみこまれ……どれほど時間が経ったのかわからないまま目を開けると――ぼくは教室にいた。現実とは似て非なる、あの教室に。




