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ドリームサバイバー ――いきなり教室、はいバトル!  作者: おけきょ
第三章 崩壊クラスに希望はあるか?
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1 クラス崩壊

 朝のショートホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴った時点で、教室には四つ、空席が残されていた。それはちょうど、ステージツーで果てた四名のものだ。


 比留間先生は憔悴しきったようすで教室にあらわれたが、次の授業の自習を告げ、すぐ立ち去ってしまった。一時限目がちょうど比留間先生の担当する数学だったのだ。


 乙宮さんが席を立ち、比留間先生を追いかけた。戻ってくると、さっそくミッチーが問いつめる。


「あれって、ヨモギたちのせいなのか?」


 四方木くん、というのは園芸用こてで同士討ちの口火を切った男子生徒だ。

 応じる乙宮さんは、完全に動揺していた。


「ヨモギくんも、サトウさんも……四人とも、目を覚まさないんだってさ」


 佐藤さんとはコンパスでふたり目の仲間殺しを果たした女子生徒のこと。教室には、どーん、という重い空気が満ちていた。


 同じクラスの生徒が何人も同時に、眠りに落ちたまま昏睡状態におちいるなんて、先生たちにとっても前代未聞なんじゃないか? このクラスは二年生のメンバーがそのまま三年次へと持ちこされ、担任も去年度と同じく比留間先生という編成だ。


 去年度、すでに校舎の屋上で舞坂さんが殺されかけ、その現場から郡是くんが飛び降りて亡くなるという事件も起きている。自業自得なのかもしれないけれど、比留間先生も同僚や上司の先生方から、管理責任ってやつをあれこれつつかれまくっていることだろう。


「ざけんなよっ」机をぶん殴ったのはミッチーだ。


 女子生徒が数名、示し合わせて帰り支度を終えると、そそくさと教室をあとにした。

 竜天寺くんと徳伊くんが顔を突き合わせて言葉をかわし、それからミッチーのもとへ向かう。

 ミッチーがうなずき、今度はぼくと舞坂さんのところへやってきた。


「おれら、逃げるつもりだけど……おまえらはどうすんだ?」

「逃げるって、どうやって?」


 舞坂さんのおごそかな口調は、逃げ道なんてどこにもないと告げているようにも聞こえた。


「だから遠くへ行っちまえばいいんだよ。いくら夢ぇ見ちまっても、ここへつれてこられねえくらい、遠いところへよお」

「わたしは、いい」


 舞坂さんがかぶりを振る。ならば、ぼくも答えは決まった。ミッチーがジト目を舞坂さんへ向けながら舌打ちする。


「けっ、おまえはいいよな。生き残るとしたら、どうせおまえか――」


 乙宮さんとなにやら話しあっているルカさんをあごで示した。


「あのデカブツだ」


 去年度の終わり、ミッチーは転校してきたばかりのルカさんをからかったあげく、いきなりパンチを食らって文字どおりノックアウトされたって話は、ぼくもすでに聞いていた。


「自分たちだけ助かればいいってのは、あんまり感心できないな」


 そう口をはさんできたのはジキルハイドな安達くんだ。


「こういう状況だからこそ、みんなで助かる方法を模索すべきなんじゃないのか?」


 彼の本性を知らなければ、ぼくだってそのせりふに鼓舞されたかもしれないけれど……。


「おまえらはいいよな」苦々しげに、ミッチーが親指の爪を噛む。「安達にしろ、神永にしろ、バケモノどもとどうにか戦いようがあるんだもんな……でも、おれはごめんだぜ。これ以上、こんなアンフェアでばかばかしいゲームに付き合わされるのは……それに――」


 ミッチーが視線を転じた先では、珍念さんが机に突っ伏して頭を抱えている。


「もう、あいつを巻きこむなよ。あのチビ……よっぽど無理しておまえらについてきてんの、わからねえわけじゃねえよな?」


 これは意外な発言だった。

 一年生のとき、ミッチーが珍念さんをいじめていたと聞いていたせいだ。いや、そういえばステージワンの時点で、ミッチーは珍念さんに対して気兼ねするようなそぶりを見せていた。彼なりに、かつていじめていたことを後悔している。そういうことなのかな。


「逃げたって無駄だと思うぞ」


 そう声をかけてきたのはルカさんだ。そばには乙宮さんもいる。


「昨日の夜はみんなさあ、素直に寝落ちしたわけじゃないよね? 一秒でも長く起きてようって、努力くらいはしたんでしょ?」


 乙宮さんが確認をとる。ぼくはまあ……ベッドに入る時間がいつもより遅かったくらいだけど。


「あたしもいちおうは努力したんだ」とルカさん。


 え? 大事な戦力のあなたさまが不在になったら、みんなが困るでしょうに。そんなぼくのひそやかな非難をよそに、ルカさんが打ち明けた。


「コーヒーをがんがん飲んで、徹夜の覚悟だった……ついでに、これ以上、背が伸びませんようにって願もかけてな……まあ、これでもわりかし徹夜は得意な分野なんだ」


 しかし、抵抗しようのない吸引力でもって眠気が生じ、そのまま夢の世界へ引きこまれてしまったのだという。


「だから、ひょっとしたら、うちらをこのゲームに強制参加させる力ってのは、小手先のトリックでどうにかできるってもんじゃないのかもしれんぞ」

「アタシもオールでホラー映画観ようとしたのに、寝落ちしちゃったんだぞー」


 乙宮さんの追加報告を、ミッチーが鼻で笑い飛ばした。


「そりゃ、おまえらの努力が中途半端だったってことじゃねえのか?」それから身をひるがえし、片手を振る。「とにかくこれでおさらばだ。あとはおまえらで勝手にやってくれ」


 去ろうとするミッチーを呼びとめたのは、舞坂さんだ。


「待って」

「いーよいーよ、こんなやつ。去るものは追わず、戻ってきても追い返すくらいの勢いで」


 茶々を入れる乙宮さんに取り合わず、舞坂さんは振り返ったミッチーをまっすぐ見つめた。


「できるだけ遠くに逃げて。二度と、あの夢に捕まらないくらい、遠くに」

「お、おう」


 ミッチーが拍子抜けしたようにうろたえる。と、ボスザルと入れ代わるようにして、徳伊くんがこちらへやってきた。ぼくや乙宮さんたちを見渡すと、卑小な笑いで口の端をゆがめた。


「せいぜい、主人公気取りで頑張ってくれや。ま、てめえらのやれることなんて、タカが知れてるけどな」

「いつでも冷静なオレ、アピールってか? こんなピンチでも、ものごと俯瞰できちゃうオレ、かっこいーってか?」


 食ってかかる乙宮さんを、徳伊くんは鼻笑いであしらった。それから声を低めて告げる。


「おれらをこんな目にあわせてるやつ、きっと、このクラスにいるぜ」


 そう言い残し、ミッチーたちと一緒に教室をあとにする。


「うわっ、あの性悪モンキー、この期に及んで、まだ仲間割れをあおるか? マジ最悪」


 乙宮さんが憤る。そのかたわらで舞坂さんが、憂鬱と哀しみを極限まで煮詰めたような表情を浮かべていたのが、妙にぼくの気にかかった。


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