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ドリームサバイバー ――いきなり教室、はいバトル!  作者: おけきょ
第二章 ステージツーはデスゲームへの案内
13/61

5 セカンドバトル開始


       *


「ねっ、ねっ、お兄ちゃん、ねっ、ねっ」


 アテカがドアをノックするなり、ぼくの許可を得ないまま、部屋に入ってくる。


「ちょっ、なんだよ、勝手に……」


 ぼくは勉強机に向かい、授業の準備にふけるふりをしていた。じっさいは不安に耐えていただけだった。ステージツーに送りこまれたくないという願いとともに。


「なんか悩みごとあるんでしょ?」


 ぎくりとする。アテカは新しいクラスで大歓迎を受けたようだ。

 夕飯のとき、上機嫌でそのことを母に報告していた。遅く帰宅した父にもそのように熱く語っていた。両親も、アテカが前の学校で苦しい状況に追い込まれているのをうすうす察していたようだ。それだけに、アテカの変化を喜んでいたし……ぼくのテンションが低いのはいつものことだからと、気にしているふうもなかった。


 しかしアテカはとめどない自分語りを家族の前で披露しながら、ぼくのようすを気にかけてくれていたらしい。


「ねーねー、あたしに話してみなさいよ。こういうのって、誰かに話せば、ちょっとは気持ちだって楽になるもんだと思うよ」


 アテカは根がお人好しだし、けっこう義理がたい。

 苦しいときにぼくが相談相手というか、悩みの聞き役になったのをいまだに恩義に感じているのだろう。ありがたいとは思うけれど、いまのぼくの苦境は、アテカの力でどうにかできるものでもない。ねむいから、疲れているからと、いっこうに心を開くようすのないぼくに、アテカのほうもしだいに気を悪くしていく。


「いーよもう、せっかくこっちが心配してあげてるのに、このバカアニキッ」


 そう捨てぜりふを残して去ってしまう。これが、今生の別れにならないといいんだけど。

 ……ベッドに横たわると、眠りがたちまち訪れた。


        *


 机の表面に触れると木目が暗転した。ブンッという作動音とともに、バスタードソードのグリップが浮上してくる。


 隣の席では、日本刀のつかが机の表面からのぞいていた。

 教壇のほうでは鈍い光が寄り集まり、例のホログラムがかたちを成してゆく。


『よーこそみなさん、お越しくださいましたー。ステージツーの世界へー』


 ぼくらの気持ちを逆なでする陽気さで、昨夜と同じ案内人ピエロが登場した。


『ここはとびっきりのモンスターたちと思う存分戯れられる最高のアトラクション! みなさんが手にするその武器で、迫りくるモンスターたちを倒すことだけが、生へのパスポート!』


 握力をきたえるためのハンドグリップや、USBメモリみたいに、いったいどうすれば武器に転用できるのかさっぱりわからないアイテムをあてがわれた連中からすれば、噴飯もののセリフにしか聞こえないよね。


『夢だと思ってあなどっちゃあいけませんよー。この世界で死ねば、現実のほうでもそれ相応な報いあり。あっちの世界でも、二度と目覚めることはありませんからねー』


 さりげなく、とんでもない爆弾を投下しやがった……いや、なんとなくそういう予感はしてたんだ。これは単なる遊びなんかじゃない。とてつもなくえげつなくて取り返しのつかない、ガチサバイバルなんじゃないかって。


「ふざけんじゃねえぞっ」真っ先に激怒したのは白チョークミッチーだ。


 ほかのクラスメートたちからも、口々に非難の言葉が飛び交う。エントリーしたつもりもないのに、こんなクソゲーに勝手に参加させるんじゃねえ、というがその総意だ。


「おいみんなっ、あいつをやっちまおうぜっ」


 モンキー坊主の徳伊くんがピエロを指差してあおる。


「あいつをぶっつぶせば、おれらみんな、もとに戻れるにちげえねえんだっ」


 前方の席にいる男子生徒が数人、椅子を持ち上げてピエロに襲いかかった。あらかじめ、そういう手はずになっていたみたい。けれど、振り下ろされた椅子はいずれもピエロを素通りしてしまった。


『あひゃーっひゃっひゃっひゃっー』


 ピエロが舞い上がり、ぼくらの頭上を縦横無尽に飛び回る。


『相手を間違っちゃあいけませんよー。みなさんが倒さなくっちゃあいかんのはモンスター。わったくしじゃございませーん』


「おらっ、落ちろっ、ほいっ、このっ」徳伊くんがどこか真剣味の欠けた掛け声とともに武器のモップで突きまくるが、空飛ぶピエロはものともしない。


『今回のチャレンジャーは、前回のステージでたぐいまれな活躍を披露した五人の戦士! 特別ステージにて、えりすぐりのモンスターたちとの五本勝負に挑んでもらいましょう!』


 え? 五人? 舞坂さんにルカさん、それにぼくと珍念さんが選ばれるのは確実だよね。残りのひとりは? ラケット殴殺ショーな安達くん?


『ヒュイゴーッ』


 ピエロが指を鳴らすようなしぐさをすると同時に視界が暗転し、天と地がひっくり返る。ほら、やっぱり選ばれた! そのままひたすら暗闇をもみくちゃにされていくような荒々しい浮遊感に飲まれ、流され――ふいに、視界が晴れた。


「どえっぷ」


 ぼくが倒れ落ちたのは木張りの床だ。いつのまにか、バスタードソードも足もとに転がっている。さっと周囲を見渡す。ここは体育館であるようだ。


「いったーい」


 まったく予想もしていなかった声が聞こえ、ぼくは泡を食ってしまう。乙宮さんが顔をしかめて腰をさすっていた。


「お、おい、なんでおれなんだよ?」


 白チョークのミッチーが茫然自失の態でへたりこんでいた。だよね。なんできみがいるの?


「あわわ、わわ……なのでございます」


 そのそばでは双剣の珍念さんがうろたえている。残りのひとりは……ジキルハイドなラケット安達くんだ。なんてこった。舞坂さんも、ルカさんもいない。この悪意たっぷりな人選に、ぼくは声を限りにわめきなくなる。クソゲー爆発しろっ、と。


『待ちかねたぞ、クソガキども!』


 竹刀をぶんぶん振りかざしているのは、ホログラムのクリーチャー――赤いジャージを着た、人間サイズのガマガエルだ。


『おまえらの戦う相手はあっちだ!』


 竹刀の指す先に控えるのは、五匹のモンスター。

 直立してバカでかい青竜刀をぶら下げた、甲冑のようなうろこをまとう巨大アルマジロ。

 ボディービルダーのような体格を全身タイツに包む、フェンシングマン。

 団扇のような卓球ラケットを持ち、白い半袖短パン姿な、文字どおりのゴリラ。

 柔道着に黒帯をつけたのっぺらぼう。

 寸詰まりの貧相な体にまわしをつけたバーコード頭のおっさん。


『いいか、クソガキども! 先に三本取ればおまえらの勝ちだ! だが、おまえらが先に三本取られちまったら――』


 赤ジャージガエルが竹刀で二階部分の周回廊を示す。

 そこでは、前回ぼくらを苦しめたヤンキーモンスターどもがぐるりとひしめいていた。


「「「ウォーオーオーオー!」」」


 リーゼント頭たちの怒号が降り注ぐ。


『こいつらが、いっせいにおまえらに襲いかかるって寸法だ!』


 なんて理不尽な、とぼくは頭を抱えたくなる。舞坂さんとルカさんを省いてこんな勝負をさせるなんて、マジでクソゲーもいいとこじゃないか!


『おまえらの頼みの綱はあっちだ』


 赤ジャージガエルが回廊のさらに上――天井付近を竹刀で示すと、そこにホログラムのスクリーンがあらわれる。舞坂さんとルカさんがそれぞれの武器を片手に、廊下をひた走っていた。


『あの廊下はいわば、永遠の迷宮だー。いくら駆けまくろうとも、ここにはたどりつけねえって寸法だ』


 モンスター軍から、最初の戦士が進みでる。まわし姿のバーコードおじさんだ。


『一本目は相撲勝負! どつきあって、先に意識が飛んだほうが負けっつーことでよろしくっ』


「おれが行くっ」ぼくたちのほうから間髪入れず名乗りでたのは、白チョークミッチー。肩を怒らせ、そのまま敵のもとへと勇んでゆく。


 ……いちばん弱そうな相手に飛びついたのを責める資格なんて、いまのぼくにはないよね。

 ふと、乙宮さんに目をやる。足下のリボンを拾うこともなく、自分の両肩を抱くようにしてふるえていた。そりゃそうだ。一対一ではどのモンスターに対峙しようとも、乙宮さんに勝ち目があるとは到底思えないもの。


 ぼくはバスタードソードをつかみ、腰が抜けたまんまな彼女のもとへ歩み寄る。


「カ、カムイくん」

「ぜったい、乙宮さんのとこまで回さないから。その前に、ぼくらで勝負をつけてみせる」

「あ、あ、あ、ありがどー」


 乙宮さんが泣き笑いの表情で顔をくしゃりとしたとき――。


 けしゃーっ、という叫び声があがり、まわしおじさんの貧相な肉体がふくれあがった。かろうじて側頭部に残っている少ない毛が逆立ち、筋肉みなぎるからだが緑色に変色し、身長も二メートル近くまでアップする。


「うわっ、ちょいっ、まってぇー」


 ミッチーが身をひるがえして逃げるよりも早く、超人ハルクモードとなった力士の張り手が連続でミッチーを襲った。


「あばばばばばーっ、ぶぎえっ」


 きりもみしながらミッチーの体が舞い、そのまま五メートルほど放物線を描いたあげく、床に叩きつけられる。誰かわからないほど顔面が変形したC組男子のボスザル少年は、もはや意識のかけらも残ってないようだった。


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