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ドリームサバイバー ――いきなり教室、はいバトル!  作者: おけきょ
第一章 ここはどこですか? ハーレムではありません、教室です
1/61

1 夢ですか?


 まるでいきなり夢から覚めたみたいだった――いや、きっとインザミドルオブ夢なはず。


 その証拠に、ぼくの真ん前に座る背中がブレザーじゃない。ぼさぼさな後頭部の下にあるのは黒いつめ襟、それから黒い背中……学ランってやつだ。


 隣には女子の席が並んでいる。そこに座っているのも、見慣れたブレザータイプの制服じゃなくって、赤いリボンのセーラー服――視線を上げるなり、ぼくはぎょっとしてのけぞりそうになる。


 右隣にいるのが……とんでもない美貌の持ち主だったせいだ。


 全体的に色素の薄い感じで、亜麻色のなめらかそうな髪はちょうど肩にかかるくらいのボブヘアだ。目力の強さを感じさせる大きな瞳は、くっきりとした二重まぶたとすっきりめな涙袋に縁どられている。鼻筋はきれいに通り、顔の輪郭はバランスの取れた卵型。


 そんな完璧すぎな造形をした女の子が、背筋をぴんと伸ばした姿勢で、ぼくのほうへ顔を向けている。


 と、かたちのよさを保ちながら、冷たさを感じさせない程度に丸味を帯びるくちびるがゆっくり開いてゆき……玲瓏な声が放たれた。


「だれ、なの?」


 いえいえいえ、それはこっちのセリフでしょう? ぼくのほうこそ、あなたさまのことなんて、これっぽっちも存じあげないんですけど。


「どうして、ここに?」


 眉根を寄せ、なおも問いかけてくる美少女の圧からのがれようと、ぼくは周囲を見回す。

 こちらを振り返るのが見知らぬ顔ばかりで、なおさら怖気づかずにいられない。


 ぼくの現状はどうやらこういうことらしい――とつぜんこれまで一度も会ったことのないクラスメートばかりな教室に放りこまれ、最後列の席に座らされている。


 ははっ。やっぱり夢だ。どうしてこんな夢を見てしまったのかも、心当たりがある。なぜなら――。


「ひっさしぶーりっ、委員長っ」


 いつのまにか、もうひとりの女の子が例の美少女の前に立っていた。赤みがかったロングヘアを指先でさっとかきあげ、両手を机につくと、そのまま身を乗りだしてくる。


「あはっ、もう学校通えるんだ? じゃあ、もうリハビリ終わったんだねっ」


 うわあ。これまたとんでもない美貌の持ち主でございますね。といっても、雰囲気のほうは「委員長」と呼ばれた隣の美少女とまるで真逆だよ。


 委員長さんを森閑とした山奥にある自然遺産からわき出る清水きよみずにたとえるならば、ニューカマーさんのほうはとびきり甘い砂糖菓子――って、ぼくはいったい何を言ってるんだろう。


 それはさておき……砂糖菓子さんの制服スカートはあまりにも短すぎる! 白い太もものほとんどが見えちゃってるよ。中学三年生でこれは、反則すぎるでしょう!


 おまけにセーラー服越しにも、きゅっと締まったウェストの上にはどっかーんとしたボリュームの……と、不穏な気配を感じてぼくが視線をずらすや、委員長さんの咎めるようなまなざしとぶつかった。


「ふーむ、おつむのほうはもう元通りってか?」


 うろたえるぼくをよそに、砂糖菓子さんがぶしつけに腕を伸ばし、委員長さんの頭のてっぺんをポンポンはたく。その親しげな振る舞いにたじろいだのか、委員長さんの目がさっと泳ぎ、わずかに身を引くようなしぐさをした。


 これって、助けに入ったほうがいいのかな? でもどうやって? そんなふうにぐだぐだ悩んでいると、ぼくから見て委員長さんの机越しに、第三の人物が登場した。


 ぼくは口をあんぐり開けていた。褐色の顔が、想定していたところよりもだいぶ高い位置にあったためだ。彼女が黒人とのハーフというかダブルなのは一目瞭然だ。滑舌のいい低めの声がその口から放たれる。


「やめろよ、オトミヤ」


 切れ長の大きな目にウェーブのかかった漆黒のロングヘア。しなやかな筋肉を感じさせる迫力のある体格をしており、身長のほうも大幅に百八十センチを超えている。ハイパー美形ではあるけれど、「美少女」っていう形容はぜったいふさわしくない。だって、このアダルトかつアフリカンビューティーな容貌はどこからどう見たって……スーパーモデルっておもむきだもん。


「マイサカさんが、いやがってるだろ」


 インプット、インプット! 委員長さんの名字はどうやら、「マイサカ」である模様です。


 たしなめられた砂糖菓子あらためオトミヤさんが、頬をふくらませて上体を起こす。その拍子に、ぼくと視線がぶつかった。反り返った長いまつげをぱちぱち揺らし、垂れ気味の大きな目で笑いかけてくる。なんというか、とろけるような相好の崩れかただ。


「おーっす。じゃあ、きみが例の転校生くん? ってか明日、ガチでここにきみがあらわれたら、マジで草生えるんですけどー」


 え? 明日? ってことは――。


「あの、やっぱり……ここって、荒神こうじん第二中学校?」

「あはっ、違ってたら、いったいどうするつもりだったんかいっ」


 隣では、スーパーモデルさんがマイサカさんに手を差し伸べていた。


「初めまして。あたしはコシカルカ。いきなりこんなのがいたんでびっくりしたでしょ? こっちに転校してきたのは、マイサカさんが入院してるあいだだったもんね」


 当のマイサカさんは目をしばたたかせ、いっしゅんためらってから右手を差しだし返す。


「あ……こ、こちらこそ、初めまして」

「そっちのことはいろいろ聞いてる。例の事件のことなんかも……って、記憶のほうはもう大丈夫なの?」


 マイサカさんがわずかなまを置いてから、ちいさくかぶりを振る。


「そっか。じゃあ、そっちも転校生みたいなもんだね」

「あの、コシカさんは――」

「ルカでいいよ」

「じゃ、じゃあ、わたしは……リンで」


 インプット、インプット! ついに、マイサカさんの下の名前も判明しました!


 リン、ですって。その凛とした佇まいにふさわしい名前じゃないですか!


 ……それにしてもさっきから、マイサカさんについて、「入院」だの「事件」だの「記憶のほうはもう大丈夫」だのと、聞き捨てならないデンジャラスワードが飛び交いまくっている気がするんですけど――。




初投稿です。

右も左もわからない状態ですが、ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします~。

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