バスケ
ゲリラライブまで残り6日
俺は放課後に体育館まで足を運んでいた。
「なんでこうなった。」
身を突き刺す多くの鋭い視線。
その殆どは敵意を含んでおり、俺の心をすり減らしていた。
「頑張れよぉ〜、天峰ぇ〜。」
角から声援をくれる直樹の言葉に涙がでそうになる。
前を向けば5人の先輩が殺すと言わんばかりの雰囲気を醸し出しているのだ。
怖くてチビりそうになる。
「・・・アホすぎる。」
5人の先輩に対して、こっちは二人。
俺と、この問題を引き起こした張本人、本堂翆。
俺は目の前で髪を後ろにまとめる彼女に巻き込まれただけなんだ。
決して先輩たちを愚弄したわけじゃない。
「ん?なに?心配なの?」
俺の心労など気にしていないのか、楽しそうに鼻歌を歌っている。
出来るなら常識というものを叩きつけたい。
「大丈夫だって、私は勝つって。」
違うわ、そんな心配は一切してない。
俺は先輩達をこれ以上怒らせまいと心配してるんだ。
そうツッコみたいがこれも『あなた達は負ける』と煽っている可能性が含んでいる限り突っ込めない。
「君は私のサポートしとけばいいよ。」
あぁ、そうだろうな。
そうであろうなっ!二人しかいないんだしっ!
俺から勝負しかけるなんて嫌だからな、絶対に!
やるならディフェンスだ!
「さ、勝とうか!バスケ勝負にっ!」
バスケボールを人差し指の上で器用にくるくる回す彼女を見て大きくため息をついた。
何故、入学して三日目でバスケ部の先輩たちとの喧嘩に巻き込まれたのか。
それはごく単純で、簡単な理由からだった。
それは数十分前に遡る。
「バスケ部見学行こうぜ!」
バックに文房具類を片付けていると、直樹がいい笑顔で突撃してきた。
「まだ諦めていなかったんだ。」
「あたぼうよ!」
俺はため息を付き、彼の額にデコピンを喰らわせる。
「いてっ!?なんだよぉっ!?」
「俺のメリットを提示せよ。」
「は?」
「俺がバスケ部に行くことの得は何かな?述べてみよ。」
ぽかんと間抜けヅラしたと思ったら、次は『こいつわかってないなぁ〜』とでも言うような態度を取る。
「損得で決めてると友達できないぞ?」
上から目線で言いやがって。
「それを許容できない友人はいらんなぁ〜。」
色々と議論したい所だ。
が、とりあえず俺が望む友達ってのは、思考の端にでもちゃんと付き合いのメリットとデメリットを考えられる人だけ。
それ以外は知り合いで充分だ。
「なんと強情な・・・。」
俺の変わらない態度に呆れたような声を出す直樹。
いくら説得されようが俺は変わらない。
「じゃあ、行かないのか?見学?」
「行かない。というか行きたくない。」
不満があるような目を向けてブーブーとブーイングを投げかけてくる。
しかし無視する俺を見て直樹は、仕方がないと諦めた。
俺は面倒くさいことはしない。
友達づくりだろうと部活勧誘だろうと絶対にしない。
ため息を付くのは翆さん相手で充分だ。
ピピピピピピピピピ・・・
俺のスマホからベル音が鳴る。
取り出し、画面をつけてみれば・・・
LGNE
本堂翆
『帰ろうとしてるとこ悪いけどバスケ部の見学来てね♪
帰ったらお仕置きだから(*꒪ヮ꒪*)♪』
なんとも言えぬタイミングの良さと、文章の怖さに嫌な予感がした。
だがこれで、俺にはもう行かないという選択はない。
「待った、直樹。」
「ん?何?」
立ち去ろうとする直樹を呼び止める。
「・・・やっぱり行く。」
「え?まじ?ほんとにっ!?」
直樹はテンション高く躙りよって来る。
それを手のひらで抑え・・・
「あぁ、ちょっと気が変わった。
今日だけはついていくよ。」
「よっしゃァァァァ!なら早速行こうぜぇ!」
手を引っ張られる俺は果たして笑顔なのだろうか。
おそらく笑顔なのだろう。
だがそれは仮面だ。
内側は積もっていく嫌な予感が指す未来に絶望している。
俺はくじけてはいけないのだ。
挫けたら・・・俺の今までの努力は・・・水の泡になってしまうっ!
「・・・なんで泣きながら笑顔なの?」
「気にするな・・・覚悟を・・・決めただけだから!」
青く澄み渡った空の下へと俺は駆け出した。
体育館の中・・・
「ふざけんなよ、このアマっ!」
ドアを開けると、バスケの男子の先輩が翆さんに怒っていた。
他の先輩たちに食い止められるところを見ると、相当怒っていることだろう。
というか、先輩の前で怯えもせず、清々しく仁王立ちで顎を上げる翆さんを見ればどちらが悪いかは明白だ。
「なによ?自信がないわけ?
もう18になろうする男子が、まだ15歳の女子に負けると?」
煽るなよ。
もし、関係を隠してなかったら、頭に拳骨を落としに行っていることだろう。
先輩の額にピキピキと怒りマークが浮かぶ。
「・・・なんか・・・修羅場になってないか?」
隣で雰囲気に耐えれなくなった直樹が俺に尋ねてきた。
「見る限り、本堂さんが先輩煽ったんだろうね。
先生いないから収まりがつかなくなってる。」
「ヤバいよな?」
「なんて言ったのかは知らんけど、先輩の顔見たら一触即発ってのはわかるね。」
俺は翆さんに感知されないよう息を潜め、少し存在感を消す。
しかしそれが裏目に出た。
「・・・。」
翆さんが、俺の方を見た。
やっちまった。そう思ったときにはもう遅い。
翆さんはとても不気味に微笑んだ。
「さて、小心者で、女に言い負かされ、技術も身体能力も思考力も著しく低い先輩♪
悔しかったら襲ってみなさいよ♪」
抑えられてた先輩がもう耐えられず、周りを突き飛ばして、翆さんへと襲いかかった。
周りは驚きの声を上げる。
巻き込まれたくないと見ていた女子バスケ部員や卓球部員は悲鳴をあげようとする。
男たちは止めるために駆けようとする。
誰もそれを行動に移さなかった。
理由はごく単純。
明確な体格差があるにも関わらず・・・
「・・・なんだ、この程度か。ちょっと期待外れね。」
翆さんは襲われたにも関わらず、微動だにもせず、男の先輩は後方へと飛ばされていた。
誰もが目を見開く。
俺は肉体的にも慣れてるから特に驚きもしなかったけど。
「さてさてさ〜て、先輩方、これで私の実力はわかったかな?」
誰もが口を開かない。
大半は何が起こったのかをわからない為、その気味悪さに口が開けずにおり、近くにいた人は彼女の強さに感嘆して声を出せずにいた。
直樹はというと・・・
「・・・くそ、見えなかった。」
何が起こったかは分からないが、感じ取ることは出来るほどらしい。
ま、直樹が見えないのも分からなくはない。
翆さんの武術は合気道の読みと柔道の投げと剣道の反射速度を合わせた技なのでわかりくいのだ。
俺や飛ばされた先輩のように体験しないと理解できない。
「何してんだか・・・。」
そんな技を彼女は躊躇なく使用した。
俺にはわかる。
この他人を見下し、わざと自分を敵とするその行為。
やる気を出して勝負を挑ませるつもりだ。
俺の予想通り、彼女は足元のバスケットボールを拾い上げる。
「さっきのでもう不満はないでしょう?
1対5で先に5本、ボールを入れた方の勝ち。
この勝負受けるでしょ?男数人集まって拒否は恥ずかしいわよ?」
その腕を振ってボールをバスケットゴールへと投げ入れた。
その技術に外野はおぉ〜!と感嘆の声を出す。
隣の直樹もかっけぇ〜!と憧れていた。
まぁ、絵にはなるよね、彼女の行動一つ一つは。
「流石にそれは受けれない。
バスケは基本5対5での試合だ。
1対5は受け入れられない。」
バスケ部員はもう翆さんの話術にハマっていた。
対応する爽やかな男子は幾ら強い女子とは言えど戦いたくないのだろう。
しかし、断ればこの外野の人数。男子バスケ部は女子の挑戦を受けれないほどひ弱な部だと有名になる。
だから断る口実として、人数について指摘した。
これこそついてはまずい所だった。
「ふ〜ん・・・人数か・・・。残念だけどここに私の知り合いはいないのよね。」
「なら・・・!」
顎に手を起きわざとらしく悩む仕草をした。
俺の予感は大音量でこの場から立去れと告げる。
俺は後の扉から立ち去ろうと、腰を曲げようとしたら・・・
「そこの男子!」
俺は翆さんに指さされた。
体育館にいる全員が俺に注目する。
冷や汗の大洪水。
「・・・なんでしょう?」
「来なさい!チームに入れてあげる。」
「なんで俺っ!?」
抗議の声を上げる。
「二人ならいいでしょう?2on2があるぐらいだしね。」
が、ガン無視された。
「いや、だから5人じゃないと・・・」
「ハンデよハンデ。断言していい。
人数差でもないと貴方達は私に勝てない。」
「だ、だから・・・」
「いいじゃねぇか。」
翆さんの口元がつり上がったのが見えた。
後ろで投げ飛ばされた男の先輩がたち上がる。
俺は「やっちまった」と頭を抱えた。
予想できる。
女に投げ飛ばれ、プライドを踏みにじられた先輩の次の行動は・・・
「ここまで大口叩くんだ。
負けても文句は出ねぇよなぁ?」
「勿論。かかってきなさいな。」
結局この中で一番まともなのは、勝負を避けようとした爽やか先輩だけだった。
そして・・・現在・・・
ジャンプボール。
翆さんがこっちを向いて、アイコンタクトを取る。
『・・・取ってゴールに投げろ。』
目はそう言っていた。
まぁ、翆さんならジャンプボールで取るのは容易だろう。
もともとジャンプ力バカ高いし。
問題は俺が、翆さんによって投げられたボールをキャッチした後だ。
おそらく、先輩たちは3人が翆さんにつき、二人が奪いに来るだろう。
取り敢えず前に投げるつもりだが、それでいいのかと、翆さんをじっと見れば・・・
「・・・ふっ。」
楽勝とでも言いたいのか、嘲笑ってきた。
・・・あれだけ余裕があるなら大丈夫か。
どうせ俺には被害が来ないんだからどうでもいいや。
俺は目の前の試合に集中することにした。
Pーーーーーー!
ホイッスルがなる。
審判がボールを上げた。
彼女は洗練された肉体美で周りを注目させながらジャンプする。
俺の予想通り、ボールを触ったのは翆さんだった。
ボールが直線でこっちに来る。
キャッチすると同時に、前を見れば・・・
「うわ・・・。」
むさ苦しい男どもが迫ってきていた。
逆に翆さんは遠ざかっていく。
なんかモテない俺を表しているようで悲しくなる。
だが今は気にしない。
こんな気持ち、後で慰めてもらえばいいのだから。
俺は左足を前に出し、大きく踏み込み、バスケットゴールに向かって・・・
「ぜぇぇりゃァァァあっ!」
思いっきり投げた。
先輩たちの目が見開かれる。
ボールが先輩たちの頭上を通り過ぎた。
ジャンプしても取れない高さ。
運が良ければ入るだろうが、高さといい勢いといい、入ることはないだろう。
それをわかってか、驚いた先輩方の動きもゆっくりになる。
俺はニヤリと笑った。
俺は、元々ゴールを入れることを目的として投げたのではない。
俺の役目は、多くの敵がいる中で彼女にボールを渡すこと。
ゴール付近にボールを運んだ時点で、勝負はついていた。
ボールはやはりゴールの中には入らない。
リングにあたり、跳ね返る。
「まずは一点っ!」
すると翆さんの声が体育館に響いた。
ボールに注目していた先輩たち。
油断して、翆さんへのマークを疎かにしていたせいで、先輩たちは彼女に反応できなかった。
翆さんは自前のジャンプ力で、ゴール前でジャンプし軽々とボールをキャッチ。
そして、ダンクシュートを決めた。
タイミング、脚力、気配を消す技術。
どれも桁違いに完璧だった故の勝利。
「ほいっと。」
リングから手を離し、華麗に着地する。
そして点を取ったことを喜び、両手を上に上げ、こちらに向かってきた。
「いぇ〜い!」
「・・・。」
こっちもハイタッチで返すが、温度差がすごい。
「まさか本当に決めるとは。」
「あんなのは楽勝よ楽勝♪」
「・・・もうさせてくれなさそうだけど?」
あれは先輩たちの油断があったおかけで出来たこと。
点を取られた事により、油断はなくなると考えたほうがいい。
もうあんなまぐれは決まらない。
「わかってるって、これはまだ序章だってことは!これからが本番っ!」
楽しそうにはしゃぐ彼女と、巻き込まれて今にでも逃げ出したい俺。
俺の場違い感半端ない。
「まず一本っ!頑張れよぉ!挑戦者ぁ!」
外野から声援が聞こえる。
直樹だ。あいつ面白がってやがる。
直樹に続き、外野の全員が翆さんに声援を送る。
「いや〜、どうもどうもぉ〜!」
照れくさそうに声援を喜ぶ翆さん。
そんな彼女とは裏腹に、落ち込む先輩たち。
外野は彼らにはどんまいコールをしていた。
あー、見るからに彼らに苛つきが溜まっていってる。
「翆さん。」
「ん?分かってるよ。・・・取らないとね、ボール。」
2対5、ボールは向こう。
取り敢えずボールさえこっちに渡れば、ゴールは翆さんが決めてくれる。
問題は・・・どう取るか。
連携の点においても向こうが上。
これは俺が我武者羅にでも取りに行って、先輩たちのスキを作るしかない。
翆さんに目配せすると、コクリとうなずかれた。
ホイッスルがまた鳴る。
俺はボールだけに集中し、取りに行った。
はじめは勢いだけでいい。
それだけでも・・・相手の次の行動を操れる。
殺気を出しながらボールへと手を伸ばす。
ここで注意。
相手の視界端に映るように行動しなきゃならない。
そこで危機を感じるかのような勢いを見せなきゃならない。
じゃなきゃ・・・
「よし・・・!」
こうも簡単に・・・彼の横にいる人へと渡してはくれないからさ。
ボールを持つ先輩は俺の気迫に驚き、彼の横にいる先輩へとボールを投げた。
後ろではなく、真横に・・・。
翆さんが駆け出す。
俺がそうするのを予想して、ボールを空中で取れるようにと、地面を蹴った。
その速度は先輩たちにも対応できない。
彼女は容易く、ボールを手のうちにした。
「「「「「・・・っ!」」」」」
先輩たちはすぐさまボールを奪うために動く。
二人がゴール前を守り、一人が俺に付き、二人が実行する。
翆さんは・・・
「よっと・・・っ!」
ボールを回転させるように地面に叩きつけて、先輩たちの足の間を通り抜けさせた。
反応できなかった彼等はバッと後ろを振り向く。
彼女から視線を外した。
それが不味かった。
翆さんは彼らの体の間を前転でくぐり抜けた。
アクロバティックな動きで、包囲網を潜り抜け、ボールを再度手のうちに。
外野から黄色い声援が発生する。
これには俺も苦笑い。
彼女のイケメン度といい、動作の一つ一つが華麗すぎるから女子の目にはかっこよく映るのだろう。
美貌に合わせ、八頭身の体。
目が奪われないのが逆におかしい。
「って、ヤベ。」
試合に視線を戻せば、試合は動いていた。
翆さんはとうとう、最後の守備の二人に挑んでいた。
しかし流石はバスケ部、翆さんは攻めそこねていた。
俺は駆ける。
先輩たちは全員翆さんに注目しているんだ。
俺へのマークは薄い。
今がチャンス。
俺の足音が翆さんの耳へと届く。
翆さんは視線はゴールを捉えながら、ボールをこっちに渡してきた。
キャッチするが先輩たちがどうにか奪おうと動いている。
翆さんへ渡せないよう、しっかりとガードされ、俺をマークしていた一人が奪いに来た。
ゴールまでは遠いが、ここで投げて決めるしか俺の出来ることはない。
ボールをリングへ向かって今度は入れる為に投げる。
先輩達は停止する。
ボールが入るか入らないかが気になるからだろう。
そのスキを俺たちは見逃さない。
俺と翆さんはゴール前へと駆け出す。
さっきみたいなダンクシュートは決められない。
守備が邪魔するからだ。
でもそんなの・・・越してしまえばいい。
俺は守備前でしゃがみ、手を前に出す。
翆さんは俺に向かって全速力。
彼女は俺の出した手を踏むから、同時に上に上げた。
リングの上を通り過ぎたボールを、リングを掴んだ彼女は包み込むように取り、ダンクシュート。
多少、反則気味だが、高校バスケ。
しかも公式の試合じゃないから許されるだろう。
降りてきた翆さんとハイタッチ。
外野の歓声は凄まじいものとなった。
「・・・流石は天峰君。私の手助けはお手の物だね。」
「何年の付き合いになると思ってんですか。
もうしたいことぐらいわかりますよ。」
連携は俺たちのほうが不利。
それはそうだ。
連携というのは実力が僅差の者たちが、敵に勝つためにすることなのだから。
だが俺達は違う。
俺達は連携なんてしない。
翆さんがするのはただの攻撃。
俺がするのはただの手助け。
互いにできることを精一杯するだけのこと。
その証明として、翆さんは俺の補助なんてしなかった。
これが俺たちの戦い方である。
「・・・で、どうすんの?」
「ん?何が?」
圧倒的な勝利を素直な笑顔で喜ぶ彼女に尋ねる。
「この騒ぎの後始末と・・・先輩方への配慮。」
気づけば外野は凄まじい人数となっており、先輩たちの戦意は喪失していた。
「・・・ん〜、ほっといていいでしょ。
騒ぎになってるなら私の知名度と、優秀さと、美しさは知れ渡るだろうし。
というかしてほしいし。」
なんでもないかのように答えられた。
彼女は自ら問題ごとに首を突っ込む。
理由は単純、人生を華やかにするためだと。
良くも悪くも目立つから、俺が苦労することにそろそろ気づいてほしい。
言っても今更な話だけどさ。
「まぁ、外野はどうでもいいや、でも先輩たちにも立場あるんだから、ちゃんと立ち直させること。
これは絶対にしてよ、俺は恨まれたくないし。」
「了解了解、それに関しては予め対策も考えてるから安心して。」
大丈夫〜と言いながら配置につく彼女。
それからの試合は、トントン拍子で進んで行った。
戦意がない先輩たちでは翆さんの相手にならなかったのだ。
残り3本。
俺が出るまでもなく、翆さんの勝利は確定した。
試合後・・・
「なんだあれ。」
外野に戻れば直樹が開口一番不満を言いに来た。
「何あれって・・・バスケの試合。」
「そゆこと言ってんじゃねぇよ。
なんだよ、あいつの身体能力っ!?
バケモンだろっ!!」
「俺に言うなよ。」
赤ちゃんから体鍛えてたらあれぐらいの身体能力得てても不思議ではないわな。
翆さん曰く、柔軟体操は2歳から始めてたらしいし。
「いやお前もお前で、2試合目の最後、おかしかったけどな。
適当なチームができる芸当じゃないぞ?」
「事前に言われたんだよ。あれをするよって。」
嘘だけど、こういったほうが詮索されなくて楽だ。
「そんな言ってできるようなことでは・・・。」
ブツブツと独り言を始めた、直樹・・・
これは即座に退出したほうが良さそうだ。
おいてあったバックを手に取り、体育館を出ようとする。
「オメェらっ!シャンとせいっ!」
後ろから、先輩たちに説教を始める透き通った声が聞こえてくる。
(・・・後始末まで俺が出る筋合いはない。)
手遅れだろうが、色々噂になる前に学校を出た。
その日の夜、『なんで先に帰っちゃったのよっ!』と理不尽でお怒りの電話が来たのはとても迷惑だった。