序章〜はじめまして〜
あの日、僕の恋は虚しく散った。
誰にもきづかれる事なく。
だから、僕はもう恋なんてしない。
「起きろ。お・き・ろ。おい、柏原!」
柏原と呼ばれた高校2年男子は夢から現実に強制的に連れ戻された。
「はい、先生。何か問題でもありましたか?」
教室に笑いが起きた。
「あのなあ、柏原。今はなんの時間だ?」
「今ですか...今は勉強の時間です。」
「わかってるじゃないか。じゃあさっきまで何してた?」
「夢の世界に行ってました。」
「もういい。授業に戻るぞ」
教室は一気に静かになった。
柏原が寝るのは時間の問題だった。また睡魔に襲われた。
「神様が寝ろと仰ている」
柏原はまた、夢の世界に行った。
目が覚めた時は既に夕方になっていた。
「帰るか。」
ふと、廊下に目を送ると隣のクラスの女子グループが柏原のクラスの前を通りすぎて行った。
「春...か。」
もう高校生になってから1年がたった。ある程度、カースト制度にも慣れ柏原なりに、高校生活をenjoyしているつもりだ。
「なあー高校ってこんなに暇なの?」
柏原の独り言は紅色に染まった夕焼けの空に吸い込まれて行った。と思った。
「高校生活は楽しいと思うよ。」
突如後ろから、声をかけられた。驚きの表情を隠せないまま、振り返るとさっき通りすぎて行った女子のひとりがそこにいた。
「高校生活は、すっごい楽しいと思うな。私。」
現状を理解する前に、彼女から会話が始まった。
「ちょっとまて。お前誰だ。」
柏原は相手に悪印象を持たせないように、心掛けたが無駄だったみたいだ。
「初対面の人に対してそれはひどいと思うな。」
「ゴメン。気分を害したなら謝るよ。」
「いや、謝らなくていいよ。お互いの面識が無いまま話しかけた私が悪いし。」
「ちょっと話戻すけど高校生活の何処が楽しいの?ただ毎日同じことの繰り返し。」
柏原はため息混じりで聞いた。
「逆に聞くけど、何がつまんないの?」
柏原はそう聞かれて何も答えられない。ただただ、無音の時間が過ぎた。
「本当はなんかあるんでしょ。」
「う...」
彼女の言葉が柏原の胸に刺さる。言葉に困り狼狽えていると、彼女がアクションを起こした。
「例えば、恋とか?」
柏原は吹いた
「お前何言ってるの?!つかそろそろ名乗れよ。」
柏原は少し強めな口調で言った。すると彼女は泣きそうな声で
「ごめんなさい。私は菊田、菊田 夢唯」
柏原はその名前を聞いたことがあった。
「よろしく、菊田さん。俺は」
柏原の自己紹介は遮られた。
「知ってるよ。柏原 義也。」
柏原は再び驚き
「何故知ってい...」
柏原は微かに違和感を覚えた。
菊田はその質問に答えることなく去ろうとしていた。しかし柏原は菊田を引き止めなかった。2人の距離が離れるにつれ、柏原の違和感はどんどん強くなっていく。その違和感に柏原は嫌な予感を覚えた。柏原は違和感を気にすることなく、その場を去った。
「また会いましょう。義也くん...」